ソニーとパナソニックを母体とする有機ELパネルメーカー、JOLEDは2017年12月、国産初の有機ELパネルの出荷を始めたが…(写真:JOLED)

有機EL(OLED)テレビの国産化は実現するのか。今年2018年は、その行方が決まる重要な年になりそうだ。

東芝、ソニー、パナソニックの3社が国内で相次ぎ有機ELテレビを発売した2017年は、“有機ELテレビ元年”ともいわれた。3社は、2015年にいち早く参入した韓国LGエレクトロニクスの背中を追う。

発売当初は65インチで100万円近かった東芝製テレビが店頭で50万円台(2018年1月4日現在)まで下がるなど、価格下落も追い風となり、国内の出荷台数は月ごとに増加。2017年11月単月では前月比55%増で1万台を超えた。全世界では、2024年までに2016年比15倍の2000万台近くまで拡大するという試算もある(IHSマークイット調べ)。

有機ELテレビの特長は、液晶に比べて薄型・軽量、そして高画質という2点にある。有機ELを使ったパネルは電圧をかけると自発光して映像を映し出すため、液晶パネルのようにバックライトを必要とはせず、厚さ数ミリメートルまで薄くできる。また、明暗をつけることに長けているため、液晶が苦手とする黒色もはっきりと表現でき、暗い場面の多い映画の観賞などに適しているといわれる。

韓国勢独占の中、JOLEDが国産化に名乗り

だが、テレビ向けの大型パネルを量産できるのはLG1社のみ。前出の日本勢3社もLGから供給を受けている。スマートフォン向けなどの小型パネルも、韓国サムスンSDIが圧倒的首位に君臨する。有機ELテレビを展開する国内大手電機メーカーの幹部は、「複数社から調達できるようになるのが理想だが、当面は現状のままでいくしかない」とこぼす。


JOLEDが出荷を始めた医療機器向けの中型有機ELパネル(写真:JOLED)

そんな中、有機ELパネルの国産化を進めているのが日本のJOLED(ジェイオーレッド)。ソニーとパナソニックの有機EL開発チームが母体で、官民ファンドの産業革新機構が筆頭株主だ。2017年12月、同社はソニーの医療機器向けに国産初の有機ELパネルの少量出荷を開始。2019年には量産を始めたい考えだ。まずは競合がいない中型パネルから開発・生産を始めるが、今後は小型パネルの生産に加え、大型パネルについては他社への生産技術の提供を検討する。

日本の電機メーカーには、有機ELで挫折した苦い歴史がある。研究開発の段階では韓国より先行していたが、量産化が難航したうえ、大手においては会社全体の経営不振で積極的な投資ができず相次ぎ断念。世界初の有機ELテレビを2007年に発売したソニーも、2010年に早くも撤退。パネルの製造からも手を引いた。その間、急速に量産技術を確立させたのが、LGやサムスンSDIなどの韓国勢だった。

リベンジを図るJOLEDの強みは、パネルの生産方式にある。同社は韓国勢が採用する「蒸着方式」ではなく、「印刷方式」を採用している。印刷方式は母体のパナソニックが研究してきた技術で、インクジェットプリンタのように赤、緑、青の液体発光材料をガラス基板に塗り分けるというもの。真空環境で材料を気化させてガラスに付着させる蒸着方式と比べると設備が簡易なうえ、異なるパネルサイズでも同一の印刷ヘッドで対応できるというメリットがある。

同社CTO(最高技術責任者)の田窪米治代表取締役は、「従来よりも生産コストを2〜3割抑えられるという試算もあり、その分をパネルの価格にも反映できるようになるだろう」と自信を見せる。

大型パネルでこそ「印刷方式」が強い


大型テレビに使われる有機ELパネルでは、JOLEDが採用した「印刷方式」が強みを発揮するという(撮影:梅谷秀司)

この印刷方式は、テレビ向けなどの大型パネル生産において本領を発揮する。ディスプレー業界に詳しいIHSマークイットの早瀬宏シニアディレクターは、「蒸着方式はパネルが大型化するにつれ、技術的な困難さが増す。LGは『白色蒸着方式』で大型パネルの生産に成功したが、発光効率が下がるというデメリットがある。こうした課題を克服できるのが、JOLEDの印刷方式だ」と指摘する。今後印刷方式による量産体制が整えば、生産効率は飛躍的に上がるとみられる。

が、本格的な量産のハードルは高い。最大の問題は資金不足だ。現在JOLEDは、グループのジャパンディスプレイ(JDI)の持つ石川工場の1フロアを借りて生産をしているが、今後量産体制へ移行するには巨額の設備投資が必要になり、相応のランニングコストもかかる。「仮にテレビ向けなどの大型パネル用ラインを一から導入しようとすれば、シャープの亀山工場にも匹敵する数千億円規模の投資が必要になる」(JOLED関係者)。現在経営再建中のJDIを、資金面で頼るのも難しい。


JOLEDの田窪米治CTO(最高技術責任者)は、資金集めに自信を示した(写真:JOLED)

そこで同社は現在、第三者割当増資による1000億円の資金調達を目指し奔走中。その3分の2を設備投資に充てる算段だ。

出資を打診したのは、製造装置、部品、パネル、完成品メーカーなどの複数社とみられ、「それなりに引き合いがある」(田窪CTO)。出資元には、国内のみならず海外企業も含まれているようだ。契約の最終合意は2018年3月末で、現在は交渉の大詰め段階という。

すでに報道で名前が挙がっている企業の中には、「契約の有無を話す段階ではないが、液晶から有機EL向けへの転換を進めているのは事実」(パネルの部材を供給する住友化学)、「韓国が先行する市場で、1社で対抗するのは難しい。複数社でやっていけるのならありがたい」(半導体製造装置を展開するSCREENホールディングス)と、有機EL向け事業の強化に意欲を示すところもある。

中でも出資に前のめりなのが、テレビのパネルと最終製品の両方を生産するシャープだ。同社の戴正呉社長は、かねて有機ELで「“日の丸連合”を結成すべし」との考えを表明している。2017年12月の記者会見で、戴社長はJOLEDへの出資の意向を問われると、「(日本に有機EL生産の)技術を残したいのかどうか、まずは経済産業省と産業革新機構に相談して、国のポリシーを聞きたい。それからシャープが判断する」と意欲を見せた。


シャープの戴正呉社長はJOLEDへの出資に意欲を示す(写真は2017年12月の東証1部再指定についての記者会見、撮影:大澤 誠)

同社も1992年から有機ELの研究開発を行っており、2018年4月にスマホ用小型パネルの出荷を始める予定だ。競合のLGやサムスンSDIを牽制する意味でも、大型パネルの量産技術を持つJOLEDと手を組むメリットはありそうだ。

一方、ほかの完成品メーカーは慎重な姿勢を示す。JOLEDの母体であるパナソニックとソニーは、共にテレビやスマホの不振を元凶とする経営危機に陥り、事業のリストラを進めてきた。現在はB to C向けのパネル生産から手を引き、大規模な投資を抑えることで採算改善に努めている。

ソニー、パナソニックは消極的

JOLEDへの出資に対しても、「報道などで名前が出て、正直驚いている」(パナソニック)、「ハイエンドな消費者を狙って有機ELテレビを展開してはいるが、テレビ事業は現状維持が目標で、チャレンジをする領域ではない」(ソニー)とつれない。両社が出資企業に名を連ねることはあれ、今更テレビ向けパネルの工場を造るために大枚をはたくとは考えにくい。

東芝に至っては、テレビ事業子会社を中国電機大手の海信集団(ハイセンスグループ)に売却するとすでに発表しており、新体制下で有機ELテレビがどのような位置づけになるかすら不透明だ。JOLEDとしては、店頭に並ぶ商品ブランドを持つメーカーと手を組むことが欠かせないが、こと同社が本領を発揮できるテレビ向けにおいては、多くの国内電機メーカーにその余力がないのが現状なのだ。

田窪CTOは、「印刷方式を有機EL生産技術のデファクト(事実上の標準)にしたい。まずは中型パネルの市場を開拓し、実績を積むことで世間からわれわれの技術が認められれば、いずれ大型パネルの技術提供もできるようになるだろう」と今後の展望を語る。だが、前途洋々とはいえない。

韓国勢が君臨する有機EL市場へと飛び込んだJOLED。はたして、対抗馬になるほどの存在感を示すことができるのか。有機ELテレビの国産化への道のりは長い。