第94回箱根駅伝。やはりこの大会を制したのは、総合力の高さと入念な準備で選手たちの力を存分に発揮できた青山学院大だった。

 出雲駅伝優勝でスピードランナーの層が厚い東海大と、全日本大学駅伝優勝の神奈川大とともに3強の戦いと予想されていた今回の箱根。しかし、そのライバルは、ともに序盤が不発という展開になった。


圧倒的なタイム差で総合優勝を果たした青学大

 前回は2区終了時点で2位に38秒差をつけてトップに立っていた神奈川大は、今回も前回と同じ山藤篤司(やまとう/3年)と鈴木健吾(4年)を1区と2区に配置しての大逃げを狙った。だが1区の山藤は終盤の競り合いの中で苦しそうな顔つきになると、17km付近で青学大の鈴木塁人(たかと/2年)が仕掛けたあたりから少しずつ遅れ始め、1位の東洋大には28秒差、青学大には3秒差の6位で中継する形になった。

 2区で1時間06分台の走りを期待された神奈川大の鈴木は、すぐに青学大の森田歩希(ほまれ/3年)に追いつくと前に出たが、なかなか引き離すことができない。後半になっても流れを変えられず、逆に森田のいいペースメーカー役になってしまった。前を走る東洋大を追い詰めるどころか20.5km過ぎには森田に離され、1時間07分26秒で区間4位とまとめたものの、1位の東洋大には36秒差、青学大には14秒差と広げられ、往路を突っ走る構想は潰(つい)えた。

 結局、神奈川大は3区の越川堅太(2年)が区間11位。4区の大塚倭(やまと/4年)が区間新での区間賞獲得と盛り返したが、5区の荻野太成(たいせい/2年)が大失速して3位から15位まで順位を落とす結果となった。

「山藤は全日本のあとに八王子ロングディスタンスも走っているので、その疲れが残っていたのかもしれません。鈴木も2月の東京へ向けてマラソン練習をしているので、その疲れがあったのでは……」と神奈川大の大後栄治監督はピーキングの失敗を口にする。

 鈴木も「全日本優勝という今までにない経験をしたので、どこかにプレッシャーがあったのかもしれない」と言う。それほど注目されていなかった前回とは違い、誰もが学生ナンバーワンと認識し、「走って当然」と見られていた鈴木。序盤から時計のラップタイムを気にする素振りをしばしば見せていたが、自分の走りの感覚を重視するより、確実に走らなければいけないという気持ちが勝っていたのだろう。それが彼の本来の動きを抑えてしまった。

 一方、東海大はエースの關颯人(せき はやと/2年)が疲労骨折で使えないことで、走る前から劣勢に立たされていた。1区は1万m28分32秒24を持つ三上嵩斗(しゅうと/3年)が当日変更で入ったが、勝負どころで対応できず、神奈川大からさらに4秒遅れる区間7位に。2区の阪口竜平(2年)は出雲駅伝の1区で区間賞を獲得していたが、まだ長い距離の実績がない選手。1時間08分55秒(区間7位)の走りで青学大の森田には1分40秒負けた。

 さらに3区で青学大の田村和希(4年)と対等に走ることを期待されて起用された鬼塚翔太(2年)も、区間3位ながら田村には48秒負け。悪い流れの中で4区の春日千速(ちはや/4年)と5区の松尾淳之介(2年)も、「自分がやらなければ」という気持ちが過剰になってしまい、ともに区間12位で順位を上げられない。駅伝では最大の敵である”流れの悪さ”に、押しつぶされる結果となった。

 往路で青学大に食らいつく力があると思われた順天堂大も、エースの塩尻和也(3年)の調子がもうひとつだったためか、長門俊介監督が最もやりたくないと言っていた、もうひとりの主力の栃木渡(4年)を1区に持ってきて2枚看板を1区、2区と並べる配置になった。だが栃木が区間10位に沈み、塩尻も好調時とはほど遠い1時間09分26秒の走りになると、優勝戦線を賑わすことなく中位に低迷した。

 そんな中で唯一意地を見せたのが、昨年11月の全日本では5区まで首位を守るしたたかな走りを見せていた東洋大だ。4年生がひとりしかエントリーできないという状況で、往路に1年生を3人使って往路優勝を狙った。その期待通りに1区では1年生の西山和弥が17.8kmから鋭い飛び出しを見て逃げ切り、2位に14秒差をつける区間賞を獲得。さらに2区では2年生の相澤晃が期待通りの走りを見せ、区間賞獲得の森田と山梨学院大のドミニク・ニャイロに3秒遅れただけのタイムでしっかり首位を守った。

 3区では酒井俊幸監督が青学大のエース・田村に対抗するためにと満を持してぶつけた3年生の山本修二が、序盤は田村に差を詰められながらも落ち着いた走りで区間賞を獲得すると逆に46秒差まで広げた。

 そして、4区には全日本の最長区間4区でいい走りを見せた1年生の吉川洋次を起用。区間賞は1秒差で逃したが、前回、順大の栃木が出した記録を1分14秒上回る区間新の走りを見せた。この時点で青学大に2分03秒差をつけて、王者を慌てさせた。

 ただ、結果的には青学大・原晋監督の選手の適性をみる目が勝った。東洋大の5区に起用された1年生の田中龍誠(りゅうせい)は1時間14分16秒(区間9位)と、ほぼ合格点の走りで首位を守って芦ノ湖のゴールに飛び込んだが、今回5区が初めての青学大・竹石尚人(2年)は終盤に脚の痙攣で2度止まりながらも区間5位の1時間12分49秒で走り、東洋大との差を36秒にまで詰めてゴールしたからだ。

 東洋大の酒井監督とすれば「7区に入った時点で並んでいる状況にしたい」と話していたように、往路では青学大に最低でも1分半の差をつけたかったところだ。だが、その差は36秒。6区に山下りのスペシャリストの小野田勇次(3年)を擁し、8区に同区間2年連続区間賞の下田裕太(4年)を置ける青学大が一気に有利になってきた。

 復路は予想通りの展開となった。小野田が東洋大を15kmで捉えて逆転すると、三大駅伝初出場だった7区の林奎介(けいすけ/3年)が最初の5kmを14分10秒で突っ込む驚異的な入りをする。設楽悠太(Honda/当時は東洋大)が持つ区間記録を16秒更新する1時間02分16秒で走り、その差を3分38秒にまで広げた。

 8区の下田まで持ち越すことなく作った勝利パターン。原監督は「7区の林のラスト3kmで、タスキがちゃんと渡るなというのを確認した時に、これはもう楽勝モードに入るなと思った」と笑顔を見せる。結局、今年も青学大が2位に4分53秒差をつける圧勝劇で、あっさりと4連覇を達成した。

 原監督は「これまではスタート前からほぼ勝つだろうという気持ちだったが、3連覇をしたあとは他大学のすべてが打倒青山を意識する中での勝負だったので。これが強いチームが通ってきた道なんだと改めて感じたし、それを乗り越えて勝ってこそ真の強豪校に成長するんだというプレッシャーがあった」と振り返る。

 今回の青学大は突出したエースがいないチームながらも、各選手がしっかりと自分の仕事を果たした。特に2区の森田は、これまで田村や一色の陰に隠れてさほど注目されない選手だったが、神奈川大の鈴木健吾と渡り合って2区歴代8位の記録で走った。

 自分の持っている力を100%発揮できるピーキングのうまさが、青学大の強さでもある。それについて原監督は、箱根で勝つ方程式がほぼ確立されたと豪語する。

「3連覇した時のデータを洗い出し、夏合宿でこれだけの練習をこれだけの消化率でやれば、ほぼ箱根の16人のエントリーメンバーに入れるというのを、数字で全部表して夏合宿前から選手と共有できていた。その点では選手たちにも、自分が今何をどうしなければいけないかというのがわかり、真の自主性も生まれているのだと思う。今回も夏合宿の消化率や春先の5000m、ハーフマラソンのタイムが3連覇した時と比べても同じようなものだったので、最後の微調整をしっかりやっていけば同じ成果が出ると確信していた」

 常勝チームだからこそ蓄積できたデータを存分に生かしていることが、この勝利につながっているのだ。

 そんな青学大をどう倒していくのか。今回は下級生主体で2位になった東洋大や、不発ではあったが素質の高いスピードランナーを数多く擁している東海大が、どのようにチームを成長させていくのか。次回2019年の箱根駅伝の見どころは、そこに絞られたといっていいだろう。

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