「トラジック・エンディングス」の切実さを滲ませるコーラスは、過去にもエミネムの作品に参加しているスカイラー・グレイによるものだ。彼女は同曲をプロデュースしたアレックス・ダ・キッドとともに、ナンバーワンヒットとなった「ラヴ・ザ・ウェイ・ユー・ライ」の共同作曲者としてクレジットされているほか、ビヨンセを迎えた『リバイバル』の冒頭曲「ウォーク・オン・ウォーター」でもその手腕を発揮している。この曲で彼女はエミネムとともに、救いのない関係に終わりをもたらそうとする。”今にも窒息しそうなのに、あなたは私の首を絞める手を緩めようとはしない”。彼女はこう続ける。”それがあなたの優しさだから”

12. 「フレイムド」

極めてシンプルで単調なビートと2つのギターフレーズ、そして過激なリリックからなる「フレイムド」は、サウンドとコンセプトの両面で「97ボニー&クライド」に代表される初期の作風を思わせる。この曲で歌われているのは、罪に問われることなく殺人を犯す方法だ。「捕まることなく女を殺したいなら、耳をかっぽじって俺の言うことを聞け」彼はこう促す。”ムショにぶちこまれたくなきゃ、服は少なくとも3枚重ね着しろ”

「97ボニー&クライド」では、エミネムが真夜中に運転する車のトランクには、彼の天敵であり前妻でもあるキムの死体が入っていたが、「フレイムド」でその餌食となるのは80年代に名を馳せたスーパーモデルのクリスティー・ブリンクリー、そしてアメリカ大統領の娘だ。”なんてこった、なんでイヴァンカ・トランプが俺の車のトランクに入ってんだ?”。同曲はまるで誠意が感じられない無実の主張で締めくくられる。”行方不明者を捜してる?俺はヤツとは無関係さ / 間違いない、俺はハメられたんだ”

13.「ノーホエア・ファースト」feat. ケラーニ

猛るストリングセクションと荒ぶるハイハットが鳴り響く狂想曲「ノーホエア・ファースト」で、エミネムはテロ行為を否定したかと思えば、ライバルのMCたちを攻撃する。”俺がライムを書けばやつらはあの世行き / 目を見開き俺が手にする光、お前らは愚痴ばかり”。45歳を迎えながらも、エミネムが引退を考えていないことは明らかだ。”俺に棺桶は不要だ”。彼はこう宣言してみせる。”今の俺はかつてなく脂が乗ってる”

ケラーニによるメロディックなコーラスは、『リバイバル』全編に共通するメロウなムードを生んでいる。”振り返らなければ老いることもない / 空は真っ暗でも、決して消えない内なる光”。彼女は生き急ぐことに対するセンチメンタルな思いをそう表現する。「素晴らしい曲に満ちたこの作品に参加できたことを、とても光栄に思っているわ」。『リバイバル』のトラックリスト公開に際し、彼女はインスタグラムにそう投稿している。「早くみんなに聴いてほしくて仕方ないわ」

14.「ヒート」

『リバイバル』でエミネムは執拗にトランプ大統領を攻撃しているが、「ヒート」は彼の好色なキャラクターが色濃く反映されたトラックのひとつだ。「お前の(ニャーという鳴き声の効果音)をわしづかみにしてやる、文句ないだろ?」その有名なセリフを引用した上で、彼はこうラップする。”俺が唯一共感するドナルドの言葉さ”。この曲における徹底的な卑猥さは、同トラックをプロデュースしたリック・ルービンへのシャウトアウトにさえ反映されている。”こっちへきなよリトル・ママ、あんたはリックのビートを溶かしちまうくらいホットだ”

スペーシーなプロダクションと歪んだギター、そしてレコードのスクラッチノイズが印象的な、ルービンが得意とするラップロック調のこの曲は、否が応でも『マーシャル・マザーズ2』に収録された「バザーク」を思い起こさせる。耳に残るギターリフは、映画『ブギーナイツ』でジョン・C・ライリーとマーク・ウォルバーグがプレイした「イントロ(フィール・ザ・ヒート)」のサンプリングだ。同曲を締めくくるウォルバーグが演じるキャラクターのセリフは、エミネムの”俺のでっかいムスコの登場だ、女ども用意はいいか?”というヴァースと見事にマッチしている。