米エージェンシーのジャニュアリーデジタル(January Digital)でデジタル戦略ディレクターを務めるティアニー・ウィルソン氏は最近、以前ならほとんどなかったような依頼を受けた。ある化粧品会社が、デパート各社と共同広告(co-op ad)の費用について交渉し、その広告費が一定のやり方で使われるようにはどうすればいいか尋ねてきたのだ。

かつて歴史的には、メイシーズ(Macy's)、ノードストローム(Nordstrom)、ウォルマート(Walmart)などの大手小売チェーンが、ブランドの共同広告費の使われ方を管理してきた。そしてその金額は、ブランドがデパートで売り上げた金額に対する割合で決められ、デパートがブランドを宣伝するために利用している。

多くのブランドにとって、ホールセールマーケティング(wholesale marketing)にかけるコストは、長いあいだブラックホールだった、とエージェンシーやブランドの幹部たちはいう。だが、Amazon人気も一因となってデパートの売上が減少するなか、マーケターはデパート各社に対し、共同広告費の効率的な活用を求めていると、ウィルソン氏はいう。

また、デジタル化が進んだおかげで、ブランドは共同広告費の使い方や使う対象についてデパートに詳しい情報を求められるようになったと、エージェンシーの幹部たちは考えている。その結果、前述の化粧品会社のようなウィルソン氏のクライアントは、社内にホールセールマーケティングチームを立ち上げて、これまで販売チームが担当していた共同広告費を管理したり、販売チームの人たちにホールセールマーケティングについてレクチャーするようウィルソン氏に依頼するようになっていると彼女はいう。

「共同広告費が最適なオーディエンスに対して使われたり、成果を追跡できる場所で使われたりするようにするにはどのように交渉すればいいのかと、当社のクライアントが頻繁に尋ねてくるようになった」と、ウィルソン氏と指摘。「また、共同型のホールセールマーケティングが自社のブランドマーケティングと競合するのを避け、既存の需要を奪い合うのではなく、新しい需要を掘り起こすための施策を尋ねてくることもある」。

市場規模は250億ドルを超える



共同広告はかなり前から利用されている。しかし、ブランドや広告業界から多くの関心を集めるようになったのは、この1、2年のことだ。そのため、米国の共同広告費について信頼できる統計データは存在しない。匿名希望の、ある大手メディアエージェンシー幹部によれば、クライアントの広告支出額から考えると、米国では少なくとも250億ドル(約2.8兆円)の市場規模があり、デジタルが30〜50%を占めているという。デジタル広告支出全体では、2017年の広告支出は830億ドル(約9.3兆円)に達すると調査会社のeマーケター(eMarketer)は報告している。

デパートの共同広告費の金額はさまざまだ。たとえば、メイシーズは2016年に3億9400万ドル(約446億円)を共同広告費に振り向けたが、この金額は同社の広告費全体の約25%だったことが同社の2016年の年次報告書で明らかになっている。7月に公開された、チェーンデパートのニーマン・マーカス(Neiman Marcus)の年次報告書によると、2017会計年度の広告費が約5億100万ドル(約567億円)で、売上額に占める割合は1.1%だった。

「共同広告は、長年変わることなく存在していた巨額のメディア投資だ」というのは、レゾリューション・メディア(Resolution Media)のプレジデント、ジョージ・マナス氏だ。「この分野では、これから大きな混乱が起こるだろう」と、同氏は提言する。

コストの可視化とAmazon効果



これまで、ブランドのなかで共同広告を担当していたのは販売チームだった(ブランドによっては、販売チームがマーケティングチームと別の組織になっているところもある)。ブランドやエージェンシーの幹部たちによれば、たいていのブランドは、大手デパートが共同広告をどのように使っているのか把握していないうえ、共同広告費の提供を止めるという選択は取れないという。共同広告は巨額の売買契約と結びついていることが多いからだ。

「(大手ブランドは)長いあいだ、私が『ブラックホール的』と呼ぶアプローチを採ってきた」と、高級バッグブランドのトゥミ(Tumi)でCDO(最高デジタル責任者)を務めるチャーリー・コール氏はいう。「(ブランドは)お金をブラックホールに投げ込み、提供されたもので我慢するしかなかった。デジタルの世界では透明性が要求されるが、ここで透明性が確保されることはめったにない」。

レゾリューション・メディアのマナス氏もこの意見に同調する。そのうえで、ブランドはデジタルのおかげで常に消費者と対面できるようになったため、デパートとの交渉力が高まったと同氏は指摘。また、デジタルでは透明性が期待されるため、共同広告費がどのような場所で使われているのか、実際に販売促進につながっているのかを、ブランドは知りたがるようになった。「従来、共同広告は小売企業が運営していたが、力関係が変化しはじめている」とマナス氏はいう。「これまで共同広告を運営していた(大手小売企業の)チームが、デジタルパラダイムの時代に共同広告を効率的に運営できるとは限らない」。

マナス氏はまた、おそらくAmazonが、マーケターと大手小売企業との連携に間接的な影響を及ぼしていると考えている。Amazonがいろいろなものを企業に提供できるなら、ほかのデパートもそれができるはずだと。「Amazonは間違いなく、ブランドの考え方を変化させつつある」とマナス氏は指摘する。「火曜日にAmazonと年間販売契約について交渉し、メディアバイイングについても話をしたとしよう。その翌日の水曜日にデパート各社と打ち合わせをすれば、メディア投資について高い透明性が得られるAmazonの状況を踏まえて、デパート側と話をするようになるだろう」。

社内外で変革をすすめるブランド



こうした状況に対応するため、ブランドは組織の改編に着手したり、共同広告の交渉にあたってメディアエージェンシーの関与を強めるための施策を講じている。たとえば、トゥミでは2016年から、デジタルマーケティングチームとブランドマーケティングチームがこの種の交渉に関与しはじめている。

また、マナス氏によれば、彼のクライアント(ほとんどが消費財ブランドで、年間数百万ドル(数億円)を共同広告費として提供している)は、大手小売企業に対してより説明責任を果たすよう求めたり、メディア支出に対するコントロールを拡大しようとしたりしている。あるクライアントの場合、彼はそのクライアントとともに、共同広告費を使って大手小売企業と仕事をする場合のルールを策定した。たとえば、顧客がブランドのサイトである製品を調べても、デパートのサイトでその製品を購入することが多いとしよう。この場合には、その製品の購入意思を含む検索キーワードをブランドが入札するのではなく、デパートに入札してもらうのだ。

「ブランドはもはや、お金を簡単に握らせるようなことはしない」とマナス氏はいう。「私自身も、消費財メーカーのクライアントのためにウォルマートやターゲット(Target)といった企業を訪ね、その『ルール』について難しい交渉をしてきた」。

ただし、共同広告に対するコントロールを拡大するには、ブランド側も組織を改革する必要もあるとマナス氏は考えている。これまで、企業のブランドマーケティングチームとホールセールマーケティングチームが互いに話をすることはなかった。だがいまは、プログラマティック、検索、ソーシャルについて、両者が一緒に議論する必要がある。

なかなか進まない変化



マーケターは共同広告に対するコントロールを拡大しようとしているが、共同広告に関するメディアとの交渉には多くの制限があるため、マーケターができることには限りがあるとマナス氏は指摘する。「大手の消費財ブランドがメディア戦略で(小売業者との)連携を高めたいと考えれば、彼らはたいてい大きな交渉力を活用できる」。

一方、小売業者は変化がなかなか進んでいない。たとえば、トゥミが販売側のお金を使って、「トゥミ バッグ」のようなブランド名を含む有料の検索キーワードを購入することはない。それよりは、共同広告費を使って「丈夫なバッグ」といったキーワードを入札し、検索を行った顧客が、トゥミのランディングページにアクセスさせるだろうとコール氏は付け加えた。

「とはいえ、私がこれまで話をした(大手小売)企業はどこも、『我々はそのようなことはしない』というだろう。私は彼らに、『グーグルアナリティクス(Google Analytics)』の使い方を説明したことさえあるのだ」とコール氏。「私からみれば、これは能力の問題ではない。彼らは現状を維持したいと思っているのだ」。

コール氏によれば、Amazonのおかげでeコマースが急速に拡大しているにもかかわらず、いまだに多くのデパートがマーケターはデジタルについて知らないと考えているという。「(大手小売業者が)考え方を大きく変えた例をみたことがない。100%に近い透明性を実現し、我々の求めている消費者を積極的にターゲットにしているAmazonに、少しずつ食われているにもかかわらずだ」と、コール氏は語った。

Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)