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利己的、倫理観が希薄、目的のためには手段を選ばない……。そんな性向の持ち主であるサイコパスは、必ずしも塀の中にいるわけではない。実は世の中に少なからず潜んでいる彼らを、どう見抜き、どう扱えばいいのか?

■悪意と欲望まみれの超利己的人間がいる

一見普通なのに、つきあいが長くなるにつれ、何かの拍子に意外な一面を見せる人たちがいる。

「この人、もしかしてウソをついている?」「いつも笑顔で愛想がいいのに、意外とエゴイストなんだ」

こんなふうに思ったら、その人はサイコパスかもしれない。

サイコパスとは、近年は反社会性人格障害と呼ばれる、人格障害の1種。他人の権利を無視し、侵害するのが大きな特徴です」

と説明するのは矢幡心理カウンセリング研究所所長の矢幡洋氏である。ほかにも「非常に利己的で他人の痛みを意に介さない」「道徳心や倫理観が希薄で、ウソをつくのも平気」「目的のためには手段を選ばない」などの特徴がある。しかし、サイコパス=犯罪者ではないという。

サイコパスというと、“猟奇的殺人や残忍な行為を好む人”というイメージがあるかもしれません。しかしそういう犯罪を実行に移すのは単純粗暴犯にすぎない。彼らを裏で操って、自分は足がつかないようにうまく立ち回るのがサイコパスだと思ってください。彼らが主に棲息しているのは刑務所の塀の中ではなく、一般の社会なのです」(矢幡氏)

男性の3%、女性の1%がサイコパスに該当する、というアメリカの研究もある。日本の総人口で単純計算すれば、男性は約185万人。女性は約65万人。決して少ない数字ではない。

■5つの特徴から、危険人物を見抜く

もしこのような人がそばにいた場合、見分ける方法はあるのだろうか。

サイコパスは一見すると善良な市民なので、見分けにくいのが特徴です。普通に会社勤めをしていることもあるし、なかには社会的地位が高い人もいます」(同)

そこで矢幡氏に、目安になる彼らの特徴を5つ挙げてもらった。

1.利益誘導する
他人を動かすにはエサで釣るしかないと信じこんでいる。これは当の本人が「人は損得でしか動かない」という信念を持っているからにほかならない。
2.ウソがばれても平然としている
ウソをつくことにまったく罪悪感がなく、ウソが露呈してもシレッとしている。ウソの中身は、自分を魅力的に見せるための自己演出が多く、他人には見抜きにくい。
3.スキをついてくる
他人が弱みを見せるのを虎視眈々と狙っており、言葉尻をとらえて瞬時に踏みこんでくる。気づけば支配下に置かれていることも。
4.相手の痛みに鈍感
自分以外の人間は全員利用対象としか見ていないので、他人が傷つくのに無頓着。口では「あなたのために」などと言うが、利用価値がなくなれば冷酷に切り捨てる。
5.人間・社会不信の発言をする
自分以外の人間をまったく信じていないため、社会や人間に対する不信感をあらわにする。

サイコパスから学ぶ非常識の強さ

このようなサイコパスの要素を多少なりとも持ち合わせた人が周囲にいた場合は、関わり合いにならないように逃げるのが王道である。しかし矢幡氏は、「特徴を理解したうえで、割り切った利害同盟を組むのも選択肢としてはあります」と言う。

たとえば自分が成功することで世の中に対する復讐心を晴らそうとしているタイプであれば、彼らと手を組むことでこちらもメリットを得られる可能性はある。

「もし部下にいたら、突撃部隊として利用するといいでしょう。たとえば誰かが強く発言しないと、敵対する派閥に負けてしまうような場合、核弾頭として送り込むといい。彼らは怖いもの知らずで攻撃力優位。いまどき他人と正面切ってケンカできる人は貴重ですよ」(同)

もちろん飼い犬に手を噛まれないよう、細心の注意が必要だ。

さらに矢幡氏は、サイコパスにも見習うべき点はあるという。

サイコパスは世の中のルールを軽視しているし、嫌われても平気。どんな手段をとってでも、自己の利益を最優先します。つまり平時は困った人たちなのですが、これが戦時など非常時においては、何がなんでも生き延びるたくましさとなる。ビジネスの世界もある意味戦争ですから、彼らの力が生かせる場面も多いのではないでしょうか」(同)

実際、これまでにない販売方法を編み出したり、イノベーティブな製品を開発したりして、「常識破りの革命児」と呼ばれるような人には、サイコパス的要素を持った人も多い。彼らの「秩序破壊者」としての力が、閉塞した状況を打破する方向に作用することもある。

ウソをつく、法を破るといった点は真似すべきではないが、他人をあてにせず自分の腕一本で勝負し、「嫌われる勇気」を持つ彼らからは、学ぶべき点もあるのかもしれない。

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あなたの周囲にいるかもしれない
職場のサイコパスを見分けるチェックポイント
▼利益誘導してくるか?
口癖:「これをやれば、絶対得するから!」
「自分の言う通りにすれば、ほかの人を出し抜ける」など、すぐにエサをちらつかせる。情や倫理によっても人は動くということが、理解できない。
▼ウソがバレても平然としているか?
口癖:「何ですかそれ? 全然知りません」
自分を魅力的に見せるためなら、自慢できるようなエピソードを捏造し、学歴や家柄を偽るなど平然とウソがつける。ウソが発覚しても落ち着いている。
▼スキをついてくるか?
口癖:「今の発言、矛盾してません?」
人間不信で他人は自分のスキをついてくるものと警戒しており、その反動で、ミスをしようものならすかさず指摘。心理的弱点を見抜くのが得意だ。
▼相手の痛みに対して鈍感か?
口癖:「だから、何?」
成長の過程で愛情を学ぶことができなかったため、他者への共感能力に欠けている。自分が相手を傷つけても、その痛みを想像することができない。
▼人間・社会不信の発言をするか?
口癖:「結局、みんな自分のことしか考えてないんだよ」
日頃は温厚なのに、突然冷めた発言をして周囲を凍りつかせる。本人は自分が変なことを言ったという自覚がないのが怖い。

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Type1:悪意の塊

幼少期から不当な扱いを受けてきたので、自分を虐げてきた社会への怒りを胸に秘めている。このタイプが上司になったら最悪。権力を持ったとたん、復讐心が発動するからだ。自分より強い相手を攻撃するのは自分が損をするのでやらないが、弱い相手には歯止めが利かない。部下を横暴に扱い、権利を平然と踏みにじる。しかし近視眼的に行動するため、結果的にペナルティを受けることも多い。

Type2:強欲

モノに対する欲望が異常に強く、さらに人から奪うことに喜びを感じる。手段を選ばず、執着心も並外れて強いので、ビジネスの世界で成功を収めることも少なくない。いったん成功すると「自分の腕でこれだけぶんどった」と誇示せずにはいられないため、宝石やブランド品で身を固めるなど、これみよがしな浪費に走りがち。しかし内心では「いつまた奪われるかもしれない」という不安が消えない。

Type3:名声志向

自分の評判や名声を高めることに異常に執着するタイプ。何人たりとも自分を侮辱したり傷つけたりできないようにすることで、これまで受けてきた屈辱感の埋め合わせをしたがる。もしも誰かが自分の地位や名声について少しでも軽んじようものなら、血相を変えて反論。しかし「ここで反論するのは得策ではない」と判断したら、「いつか有名になって見返してやる」と耐え忍ぶこともある。

Type4:リスクテーカー

平坦な日常が嫌いな「危険の愛好家」。会社に定年まで勤め、退職金をもらって悠々自適の老後を送る、というようなことには興味がなく、一攫千金を狙うギャンブラーが多い。ビジネスマンなら自分のやり方にこだわり、みんながあっと驚くような奇手を連発するが、結果的にひんしゅくを買うことが多い「悪しき我が道を行く」タイプ。詐欺まがい商法や、違法ビジネスに手を染めることもある。

Type5:放浪者

自分は社会に必要とされていないという思いが強く、人生に長期的展望がない。そのため、社会の周辺部でひっそり生きることを選ぶ。ほかのタイプのように積極的に社会に復讐しようとはしないものの、やはり自分を虐げてきた社会への怒りを秘めているので、酒の力を借りて自分より弱い者に憤懣をぶちまけることも。生活のために就職した場合は周囲と打ち解けようとしない一匹狼になる。

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矢幡 洋
臨床心理士・作家。
矢幡心理カウンセリング研究所所長。1958年、東京都生まれ。京都大学文学部卒業。精神科病院の相談室長などを経て現職。著書に『数字と踊るエリ』(講談社)など。
 

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(ライター&エディター 長山 清子 撮影=小原孝博 写真=iStock.com)