Slack(スラック)は、多くの広告エージェンシーに必須のチャットアプリになっており、顧客とエージェンシーとの従来の関係を良かれ悪しかれ作り変えてきた。

広告エージェンシーと顧客はますます、恐ろしい電話会議を超えて容易にやりとりや協働を行えるようにするため、専用チャンネルを作成しつつある。また、利用しやすいため、Slackはあまりにも簡単に、常にスイッチが入った精神状態を永続させる、と不満を言うエージェンシーの社員もいる。

「Slackは、顧客とエージェンシーとの関係をこれまで悩ませてきた、よりフォーマルで洗練されたスタイルのやりとりをなくし、あらゆる面で透明性を高める」と語るのは、デジタルエージェンシーのワークアンドカンパニー(Work & Co.)の共同創設者であるジーン・リーベル氏だ。「非公式に、より頻繁にコラボレーションする方が、1カ月に1度、顧客に提供してきた手が込んでいて考えすぎのプレゼンよりも大いに効果的だ」。

時間短縮に効果的



広告エージェンシーのゼノプシー(XenoPsi)でプレジデントを務めるマイケルアーロン・フリッカー氏によれば、Slackや類似ツールは、コミュニケーションの増加を促すとともに、プロジェクトを完了するのに要する時間を減らすという。Slackを利用しているのは、ゼノプシーの顧客のうち15%だが、2018年末までに30%にしたい、と同氏は述べている。協力することが多いプロジェクトの場合、Slackを利用した対応が大幅に増加し、以前は電話やメールで何日も必要だった対話に、数時間、または場合によっては数分しかかからないという。

複数の活性化したキャンペーンに取り組んでいるときには、特にそれが当てはまる、とクリエイティブエージェンシー、バークレー(Barkley)の統合制作担当ディレクターであるルーク・ハード氏は語る。バークレーでは、300人の従業員全員が、離れたところにあるオフィスの同僚や顧客とのやりとりにSlackを利用している。ハード氏は、バークレーが今年、飲食店のウィングストップ(Wingstop)のために手がけた4月20日のキャンペーンを挙げ、チームが順調に物事を進めるのにSlackが役立った、と述べた。このキャンペーンは、仮想現実(VR)のホームページの買い取りや3DのYouTube動画を伴い、インフルエンサーや、デンバーで壁画を描いているライブアーティストに、GoogleのVRゴーグルを送ったりもした。「Slackがなければ、こうも簡単にまとまらなかっただろう。ずっとコンスタントにコミュニケーションを取っていた」。ハード氏は、Slackが「顧客との絆を作ってくれている」し、Slackの絵文字とGIFはそうした面で役に立っている、と付け加える。

Slackを使ってワークアンドカンパニーとやりとりしているアエロメヒコ航空(Aeromexico)のeコマース担当バイスプレジデント、パブロ・ゴメス・ガヤルド・マース氏は、次のように語る。「Slackは、もっと機敏であることについて話し合うところから、実際にそうなれることを証明するところまで、ブランドが前進するのを助ける点で優れている。Webサイトから新しいモバイルアプリ、空港の新しいキオスクまで、過去1年間にリリースした大量の新しいデジタル製品の市場開拓の速度を実現するうえで、これまで重要な要因だった」。

Slackは、顧客とエージェンシーによる、かつての協働形態とは大違いだ。

真の協働の精神



匿名希望のあるエージェンシー幹部は、仕事をはじめた頃に「従来型広告エージェンシー」数社に流れていた不穏な空気を思い出した。あるエージェンシーで、仕事の展望をめぐり喧嘩になる可能性があるので、顧客を特定のクリエイティブに近づけないよう指示されたという。

「エージェンシーとその顧客のあいだには溝があった。(クリエイティブは)顧客が非常識で、良い作品がどういうものが決して理解しないと考えていた」と、この幹部は語る。

顧客とまだ一定の距離を置き、アカウントマネージャーを通したがるエージェンシーもあるが、Slackのような新しいコミュニケーションチャネルのおかげで、リラックスして会話し、おそらく、期待に沿わない作品について本音を隠すのが、さらに容易になる、とこの幹部は付け加えた。

バーバリアン・エージェンシー(Barbarian Agency)のシニアストラテジストであるアリッサ・ルイス氏は、次のように語る。「Slackをテキストメッセージになぞらえているので、顧客とのやりとりがもっとうち解けて形式張らないものに感じられる。真の協働の精神で顧客ともっと個人的な関係を結んでいるように感じるのは、結構なことだ」。

アウトドアウェアブランド、コロンビアスポーツウェア(Columbia Sportswear)のソーシャルメディア担当主任エリザベス・マッケイ氏も、同じ意見だ。「Slackは壁を打ち破った」。この1年間毎日、Slackを利用して、広告エージェンシーのノース(North)と迅速に連絡を取ってきた、と同氏は言う。「エージェンシーの担当窓口とより緊密な関係を結ぶことができた。デジタルリソースであっても、直接うまくやりとりできる。直に顔を合わせれば、ただの仕事仲間ではなく友人だ。コミュニケーションが前向きなものになる」。マッケイ氏は、このプラットフォームの速度も賞賛し、メッセージを伝えるのに長いメールはもう必要ないと述べている。

だが、すべてのエージェンシーと顧客がSlackの利用を急いでいるわけではない。

諸刃の剣にもなりうる



Slackを導入した顧客もいるが、文書やデータの保存先としてSlackを信用していない顧客もいる。たとえば、ワークアンドカンパニーの顧客の約半分はSlackを利用しているが、機密情報に利用するのを防ぐ社内プロトコルがある顧客もいる。こうした理由から、複数のエージェンシーが、Slackに似た社内ツールをローンチしようとしている。たとえば、デジタスLBi(DigitasLBi)は1月に、Slackに代わる独自ツールを展開した。

それに、Slackは、エージェントと顧客が間接的に互いにうち解けるのを可能にするが、諸刃の剣にもなりうる。Slackユーザーなら誰でも裏付けられるように、作業ツールは、情報の過剰で不適切な公開を行う、別のソーシャルプラットフォームに容易に変化しかねない。

ハード氏は新入社員に対して、Slackの利用方法、それも特に顧客とのやりとりへの利用方法について、プレゼンを行いはじめた。バークレーがプレゼンで要求しているのは、Slackのハンドルネームを自分の姓名にすること。あるとき、従業員がハンドルネームを「@Smithzilla」に変えたからだ(ハード氏はその従業員の名字をSmithに変更させた)。「おもしろかったが、顧客と対面するチャネルに彼を誘うと、突然、Smithzilla扱いされている」。

常にオンの精神状態



それに、常につながっているという問題がある。あるアカウントマネージャーは、一部の顧客からのSlackメッセージが「絶え間なく届き、疲れる」と述べている。

「課題は、遂行しようとしている仕事のレベルによっては、チームには休憩が必要だということを、最初の時点で明確にすることだ」と別のエージェンシー幹部は言う。

リーベル氏は、顧客のせいではなく、エージェンシーの社風を非難すべきだと語る。「常にスイッチが入った精神状態が永続するのは、顧客のせいではない。エージェンシーの価値観次第だ」。こうしたことから、ワークアンドカンパニーでは、全従業員に、就業時間後や週末はSlackの通知機能をオフにするよう促しているという。顧客は最終的には、「ノー」と言えるエージェンシーに敬意を払う、とリーベル氏は言う。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:ガリレオ)