エリートとはフランス語のéliteが由来で、「選び抜かれた人」という意味だ。

東京大学出身、その後大学院を経て世界的IT企業のアメリカ本社への転職が決まっている亮介は、まさに世に言う”エリート”。

ビザ取得のため、日本に一時帰国している半年の間に、亮介は日本での婚活を決意する。

元カノの里緒と再会し、亮介はやり直そうと決意する。

そんな中、ジョギング中に知り合った恵の一言により、里緒が会社を辞めた理由が不倫によるものだと知る。

それを確かめようと昔のバイト仲間の健太に確認すると、亮介の他に、元バイトの相田君も里緒のことを嗅ぎ回っていると聞く。

里緒に直接確認するが、怒って帰ってしまい、真相は闇の中…。

悶々とする亮介。そんなとき、昔のバイト仲間である翔と健太と3人で会うことになり、真相に近づく…?




「翔、久しぶりだな。」
「うわー、亮介、いつぶりだっけ?」

今日は昔、バイトで仲の良かった健太と翔の3人で久々に集まった。健太とはこの間会ったばかりだったが、翔とは3年ぶりだろうか?

「翔って今もあの会社にいるんだろ?その後どう?」
「そうだなー、何となくあのまま就職したけど、今は転職しようかと悩んいでるよ。」

久々に会ったのが嘘みたいに、3人は昔と変わらず楽しい時間を過ごした。すると健太が何気なく、元バイトの相田君の話を振った。

「翔、この間、相田君が来たんだって?」
「そうそう。亮介、相田君って覚えているか?亮介のファンだった…。」

ーファン?相田が?

相田君とは直接接点など無かったし、交わす言葉は挨拶程度だった。そもそもいい大人が同性のファンなんて、おかしな話だ。

「相田君ってやたら亮介の事好きで、よく俺に聞いて来たんだよ。趣味はなんだとか、好みは何だとか…。だから初め、彼はてっきり男性が好きなのかと思っていたんだ。けれどこの間、会社に遊びに来る数日前に、ちょうど女性と歩いているのを見て…。」

亮介はこの話を聞いて、少し嫌な予感がした。

「その女性ってどんな人だった?」
「うーん。背は低めで、髪はボブくらいだったかな。その女性はお姉さんだって言っていたけど…。ただ、相田君は普通に彼女が居るんだってな。亮介、狙われていた訳じゃ無かったんだな。」

お姉さんと聞いて、亮介の嫌な予感は益々大きくなっていった。

「そのさ、“あいだ君”って子の漢字表記、覚えているか?」
「漢字?たしか、普通の“相田”じゃなくて…。」

翔がテーブルの上に書いた文字は、“間”だった。

ーやはり、そうか…。

亮介が”相田君”だと思っていたのは、”間君”だった。耳で聞いただけだったので、間違った漢字で覚えていたのだ。


亮介の予想とは?


恵とあいだ君の関係


「そのお姉さんの事、何か言ってなかった?職業だとか住んでいる場所だとか…。」

「あぁ、なんか赤羽橋に住んでいるって言ってたかな?あと経理の仕事してるって。俺、タイプだったから色々聞いちゃって。」

パズルの最後のピースがハマったような感覚。と同時に、亮介は少し怖くなる。

翔の話では、間君のお姉さんの特徴は恵そのモノだ。もし恵が名乗った苗字のハザマの漢字が”間”だとすると、二人は姉弟で、どちらかが読み方を偽っていたのだろう。

「どうしたんだよ、亮介。考え込んじゃって」

翔のその問いに、亮介は「大丈夫」と答えたが、頭はこれまでの恵との様々なやり取りが駆け巡る。

ーつまり恵は弟を通して、僕の事を前から知っていたのか?趣味が合うのも当然だ、彼が僕の事をリサーチしていたのだから。それで里緒のことも嗅ぎ回っていたと言うことか。

そう思った途端、亮介は背中に寒気を感じた。




恵と亮介の出会い


私の名前は間(あいだ)恵。亮介さんと出会ったのは、5年と少し前。

当時、私の弟の間誠は、あるシステム会社でアルバイトをしていた。忘れ物を届けに行った際、下のチェーン店のコーヒーショップで会おうと、弟を待っていた時だった。

ーカッコイイ男性が来たな。

店に入って来た男性を何となく目で追っていると、その彼が私の席近くを通った。その時、知らぬ間に落とした私の手袋を拾ってくれた。

「もしかして、あなたのですか?」

声をかけてくれた彼の大きな優しい目に、私は一瞬で心を奪われた。

その上、店を出て行く彼と、入ろうとする弟が、すれ違いざまに軽く挨拶をしている。

弟に問い詰めたら、東大院生で、同じ会社にアルバイトとして来ていた亮介さんだった。

ーこれは何か縁があるのかもしれない。

昔から少女漫画が大好きだった私には、この出会いが、ただの偶然には思えなかったのである。

「今日の亮介さんはどうだった?」

それからというもの、いつも弟に亮介さんの話を聞いては、思いを募らせていった。

さらに彼を一目見たいと、例のコーヒーショップに足繁く通った。しかし、あの頃の私は今より10kgも太っていて、自分に自信がなかったため、声をかけられずにいた。

そんな中、何度か亮介さんが、とある美人な女性と話しているのを目撃した。

たまたまお互いにコーヒーを買いに来て会っただけのようだが、その雰囲気が、ただの同僚ではない感じがした。

ー誰だろう…彼女かな…。

しかし、その後すぐに亮介さんはバイトをやめてしまった。弟に聞いたところ、海外に行ってしまったらしい。


恵はどうやって再会したのか…?


運命の再会


そんなことをすっかり忘れていた4ヶ月前のある日。仲の良かった友人の誕生日会をしようと、5人でグランドハイアットの一室を借りて、ちょっとしたパーティーをしていた。

朝方、眠れなかった私は、朝食までに少し散歩をしようと、けやき坂を歩いていた。そこで偶然、亮介さんが六本木のマンションから、ジョギングウェアを着て出て来たのを目撃した。

ーあれは間違いなく亮介さんだ。日本に帰ってたんだ…。その上六本木に住んでるなんて。こんな風に会えたのは、やっぱり運命だったんだ。

そう思わずには、いられなかった。たまたま家が赤羽橋だったこともあり、ジョギングで彼に近づこうと思った。朝早いのは辛いが、自転車でも行ける距離だし。

亮介さんは初め、少し警戒心を見せたので、咄嗟に彼氏が居ることにした。すると安心したのか、徐々に仲良くなっていった。

ー思い描いていた通りの素敵な人だわ。

彼に出会ってからダイエットを始めて美容に気をつけるようになった私には、亮介さんは特別な存在だ。会えば会うほど、次第に思いは強くなる。

さらに自分を印象付けようとマドレーヌを渡した時も食べてくれた。手作りだと言わなくても分かるように、膨らんだ時に“いびつな形”になるように量を調節したのだ。それが功を奏して、“手作り“に反応してくれた。

そしてこのままタイミングを見て、「彼氏と別れた」と言って急接近する予定だったのに、思わぬ邪魔者が入った。

それは例の美人、里緒さんだった。

亮介さんと再会して以来、私はお気に入りのけやき坂のスタバによく通っていた。亮介さんに偶然会える事を期待して。

そこで、彼が例の美人と歩いているのを見かけたのだ。弟から、同じ会社の一ノ瀬里緒だと聞いて知っていたが、まさか今も会っていたなんて…。

ー先ずはライバルの情報を知らなければ…。

すぐさま弟に調べさせた。昔から私の言うことを良く聞く、可愛い弟なのだ。

彼が言うには、里緒さんは辞める際に、男性関係で色々と揉めたらしい。

ーそんな女に騙されて、亮介さんが可哀想…。

だから私は、親切心で彼に教えてあげた。”女の友人がコーヒーショップで働いていた”と嘘をついて。

自分の苗字を“間(あいだ)”だと名乗らなかったのは、弟のことを隠したかったからだ。レストランで“はざま” と言ったのは、何かの際に免許証などを見られても大丈夫なように。

ーそろそろ、亮介さんも落ちるかも?

そう思っていた。しかしー



恵を疑いだしてから、メールもあまり返さなくなった。けれど、真相が分からないのでどうしたものか…。

しかし、その亮介の予感が確信に変わる日は、ある日突然やって来た。

「おはようございます。」

朝のジョギングで、久しぶりに恵と会った。最近はすっかり会わなくなったので、もうやめたのかと思っていたが。

「そう言えば今度、日本人の風景写真家の展覧会があるみたいなんですけど、よければ一緒に行きませんか?」

友達として誘っているのか、狙っているのか…、どちらにせよ、もし自分の考えが当たっていたら厄介だ。亮介は少しカマをかけることにした。


亮介がかけたカマとは?


恵の失態


「そう言えば、この間、弟君に会ったよ。口元がやっぱりそっくりだね。」
「え、誠に…?なんで…?」

その瞬間、恵の表情が“しまった!”とでも言うように固まった。

「あ、いや、えっと…。」

走っていたせいか、予想外だったのか、つい口から出てしまったのだろう。里緒のことを嗅ぎ回っていた元バイト君は“間誠”と言う。つまり、亮介の予想は的中していた。

亮介は、これ以上ややこしい事にならないようにと、恵に釘を刺す事にした。

「弟君に伝えてくれるかな?僕の大事な人をこれ以上詮索しないでくれって。何が目的かは分からないけれど、僕は里緒に気持ちを伝えるつもりだって。」

恵の表情は一気に青ざめ、その場で固まって立ちすくんでいたが、亮介はそのまま走り去った。




里緒との約束の日。

本当に現れるのかドキドキしながら、亮介は『バー ラ ユロット』で待っていた。ここは東京で一番好きなバーで、今日の僕を後押ししてくれると思った。

約束の時間通り、里緒が現れた。いつもとは違って神妙な面持ちで。

「今日は来てくれて本当にありがとう。…この間は、不愉快にさせるような事を言って、本当に悪かった。ごめんなさい。」

里緒は少し微笑んで、優しい顔をしながら言った。

「ううん、良いの。それより私もごめんなさい。きちんと話さずに逃げてしまって。」

ホッと胸を撫で下ろしながらも、里緒の大人な対応に、“敵わないな”と思う。亮介は、こんな流れにしてしまった自分に後悔しながらも、きちんと思いを伝えようとした。

するとそれを言うより先に、里緒が口を開いた。

「その前に…話があるの」

そして亮介の目をしっかりと捉え、こう言うのだった。

「不倫の噂、本当なの。」

どこかで覚悟はしていたものの、里緒の口から語られたその言葉に、亮介はすぐに反応できなかった。

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里緒の噂の真相とは?真相を知った亮介の気持ちは?