キャリアも幸せな結婚も、そして美貌も。

女が望む全てのものを手にし、したたかに生きる女たちがいる。

それは、東京の恋愛市場においてトップクラスに君臨する女子アナたちだ。

清純という仮面をかぶりながら、密かに野心を燃やす彼女たち。それは計算なのか、天然なのか。

そして彼女たちはどうやって、全てのモノを手にしようとするのだろう…?

局の絶対的エース橘花凛と同期でありながら、地味枠採用の田口レミ。花凛の本性を目の当たりにし、花凛が狙う大物政治家の息子・幸一郎を奪おうとするが、花凛と幸一郎のツーショット写真を見てしまう。





-花凛が、幸一郎と・・・?

先日見た週刊誌の記事が、頭から離れない。

それは、大きなマスクで顔を隠した花凛が、幸一郎と仲睦まじそうに手を繋いでいるツーショット写真だ。

初めから幸一郎が花凛を狙っていた、とかだったらまだ納得はいくのかもしれない。でも、幸一郎は花凛とデートすると同時に、私ともデートしていたのだ。

そして最も納得がいかないのは、花凛は私に対して恋愛のアドバイスまでくれた、という点である。

-故意なのか、それとも私が好きだと知らずに幸一郎さんと“たまたま”デートをしていただけなのか...

頭がクラクラする。一時は勝利に酔いしれていたのに、これでは無様なだけだ。

不意に、アナウンサー試験の準備が始まった大学3年生の夏のことを思い出した。

アナウンサー試験は、既に大学3年生の夏に始まっている。20歳そこそこで、人生の勝敗は決まっていたのだ。

その大切な勝敗を決めるあの夏…あのときもたしか、花凛は私に“アドバイス”をくれたのだ。


知られざるアナウンサー試験の実態。その真相とは?


20歳で決まる、人生の勝敗


アナウンサーを志して応募したのは、毎年夏に、某テレビ局が大学三年生を対象に開催している“アナウンサー塾”だった。(後になってから分かったことだが、これは夏季講習という名の“青田買い”である。)

そんなことは露知らず、私は現役のアナウンサーの方に話が聞け、かつテレビ局にも実際に足を運べるこの企画に飛びついた。

実際に数日間でアナウンスの基礎を習ったり、参加していた他の子と仲良くなれたりと中々有意義なものだったが、私はある一人の女の子に目が釘付けになった。

それが、花凛だった。

その名前の通り、彼女の周りにはまるで花が咲いているような、華やかなオーラがあった。




「はい、じゃあ各自名前と簡単な自己紹介をお願いします。」

私は講師役の現役男性アナウンサーの指示にしどろもどろになったが、それとは対照的に、花凛は落ち着いてこう答えた。

「橘花凛と申します。趣味はピアノとゴルフです。」

華やかな雰囲気に、細い手足。アナウンス技術も抜群にうまく、同い年のはずなのにグンと飛び抜けて見える。

正直に言うと、花凛より可愛い子はたくさんいた。それでも、なぜか皆花凛に釘付けになる。

公式にはなっていない情報だが、このスクールで上層部から気に入られると、本番のアナウンス試験では1次、2次試験はパスできることが多い。(基本的に、アナウンサー試験は5次くらいまである)。

あるいは、既にここで“他の局は受けないでほしい”と直談判されることもある。

もちろん私にはそんなお声は全くかからなかったが、実際のアナンサー試験の際に花凛が余裕綽々だったのは、きっとこの夏で既に仮内定が出ていたからだろう。

「花凛は、いいなぁ。ほぼ内定決まりだよね。」
「そんなことないよ〜。レミちゃんも、私受かる気がする!」

なぜか花凛は私に積極的に話しかけてきてくれ、そしてアナウンス試験を一緒に頑張ろうと励ましてくれた。

「レミちゃんの雰囲気なら、“報道志望”って言うのがいいと思うよ。実際に報道志望でなくても、そう言った方が気に入られる気がする。」

そんなアドバイスをくれたのは、花凛だった。

そして実際に、私は上手く試験をくぐり抜け、晴れてアナウンサーになれたのだ。

ミスコンのタイトルもなければ家柄も普通。縁故採用なんて全く望めない私が、どうしてアナウンサーになれたのか。実は今でも不思議である。

でも、一つだけ明確な理由がある。

それはきっと、私が“派手過ぎなかった”から。

スキャンダルを起こしそうにもなく、何よりも華やかな花凛と二人並べるとちょうど良いバランスになった。だから“報道”志望はキャラ的に一致したのだろう。

だから、私は花凛に感謝している。
花凛の優しさに、救われたから。

しかしそれは、私の幻想だったのだろうか…?

そんな思い出に浸っていると、アナウンス室長が私のところにすっ飛んできた。

「田口〜!!お前、何やったんだ!!上層部に謝りに行くぞ!」

全く身に覚えのない室長の怒りに、私はポカンとしていた。


女子アナになるのも足を引っ張られるのも、全て出来レース


「あのぉ...私、何かしましたか?」

廊下を大股で闊歩する室長の後ろ姿を、私は小走りで追いかける。

さっきまで室内用のスリッパを履いていたが、慌てて9cmのピンヒールに履き替えた。こんなことなら、ピンヒールはやめておけばよかったな。何て思いながら、室長の怒りが収まるのを待っていた。

「は・・?お前、知らないのか?」

急に室長が止まるので、私は思わず室長にぶつかってしまった。もう、何が何だか分からない。

「一体、何のことですか?何でそんなにお怒りなのでしょうか?」

室長が頭を横に振りながら、小脇に抱えていた一冊の週刊誌を黙って差し出してきた。

そこには、目を疑うような見出しが躍っている。

ーダークホース、田口レミ。まさかの仲良し同期・橘花凛の彼を略奪愛!?

その記事には、二人きりで食事している写真が掲載されていた。

私と幸一郎さんが食事に行ったのは、たった一度のみである。

それなのに、どうして撮られているのだろうか…?




私は、狐につままれたような気分になった。この状況が、全く理解できない。

「え・・?これ、どういう意味ですか?」

キョトンとしている私を見て、室長はがっくりと肩を落としている。

「どういうも何も...こっちが聞きたいよ。田口、お前どういうつもりなんだ?花凛の彼と三角関係って、社内的にどんだけ問題で、社にとってどれほどのイメージダウンになるのか分かっているのか?」

会社のイメージダウンなんて、関係ない。もはや泣きたいのはこっちである。

私は、何も知らない。

そもそも、花凛と幸一郎が付き合っているなんて寝耳に水だったし、騙されたのは私である。

「本当は、来クールのゴールデン番組のMCに花凛ではなくお前を抜擢しようと思っていたのに。残念だよ。」

室長に言われて、私は気がついた。

これは、巧妙に仕掛けられた罠だったと。

その“ゴールデン番組”とは、ニュースメインで報道色が強い。年齢のことも考え、最近バラエティーから報道に転身したいと言ってた花凛にとって、格好の花道になる番組である。

きっと、どこからか私が抜擢されるという噂を聞きつけ、幸一郎を巧みにそそのかし、私のキャスティングを潰しにかかってきたのだろう。

「ご迷惑おかけして、すみません...」

消え入りそうな声で謝りながら、私はただ頭を下げることしかできなかった。

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女子アナたちのバトルは終わらない?勝利の女神はどちらに微笑むのか!?