北朝鮮の金正恩委員長は、さらなる挑発行動に出る可能性がある(写真:ロイター/KCNA)

度重なる核・ミサイル実験で世界を震撼させている北朝鮮。米国との緊張関係は続いているが、2018年の米朝関係はどうなるのだろうか。

「非常に心配している」と、米上院議員のタミー・ダックワース(民主党)は2017年11月、ネットメディアVoxとのインタビューでこう語った。米陸軍の退役中佐であり、攻撃ヘリコプターのパイロットとしてイラク戦争で服務中、両足を失くしているダックスワース上院議員は、米国でも「戦争に詳しい」議員としてよく知られている。

そのダックワース議員がこう言うのである。「ホワイトハウスから発せられる情報だけで判断しているのではなく、国防関係者の情報も併せてそう感じる。米国民が思っている以上に、われわれは北朝鮮絡みの軍事対立にかなり近付いている」。

「備えなければならない段階」になっている

ダックワース上院議員は、米国防省高官と定期的にコンタクトを取っている。「総合的に判断すると、個人的見解としては、米軍は、『こういう事態を避ける手立てを講じなければ』という段階を越え、『ドナルド・トランプ大統領は決定を下す見込みだから、われわれはそれに備えなければならない』と述べる段階に入っていると思う。

米軍は、軍事対立を望んでいるわけではないし、明日にもそういうことが起こると思っているわけでもないだろう。しかし、トランプ大統領とホワイトハウスが言い続けていることに応じて、軍事対立への準備をしているのだ」

現在、朝鮮半島は戦争に向かっているのか、あるいは、平和に向かっているのか、という問いかけほど今、重要な疑問はないだろう。日本と韓国にとっては、これは死活問題である。朝鮮半島で戦争が起きれば、日本が巻き込まれるのは必至である。米軍の軍事基地として、かつ、北朝鮮の潜在的ターゲットとして。

現段階で、戦争か平和か、という疑問に決定的に答えられる人物は存在しない。ただし、今後示される「2つのシナリオ」がどんなものになるのか、ということはある程度予想することができる。 1つは一種の平和、そしてもう1つは戦争のシナリオである。

「平和への道」が、最も想像しやすいのではないだろうか。ただし、それは真の平和ではなく、戦争の回避に過ぎず、将来戦争がより起こりやすくするかもしれない平和である。

この道は、北朝鮮の金正恩体制とトランプ政権との間の直接対話から始まる。これには、2つの条件が合わなければならない。正恩氏が挑発行動を行わず、対話を行う状態が整うこと。もう1つは、トランプ大統領が、厄介で困難になることが目に見えている交渉を厭わない、ということだ。ここ数週間の状況を見ていると、現状はどちらもこの状態からは遠い。

挑発行為をエスカレートさせている北朝鮮

まず、北朝鮮の状況を見てみよう。2017年夏には、ベテランの北朝鮮研究家たちは、正恩氏は「核戦力保有国」というステータスに向けて情け容赦なく前進している、と確信していた。

9月3日には、それ以前に行われた実験の少なくとも10倍の規模の、大規模弾頭実験に成功している。北朝鮮は、これは長距離ミサイル搭載可能な小型水素爆弾であり、「核兵器プログラム完成における、実に意義深い一歩」だと主張した。

一部の専門家は、正恩氏が核保有国としての勝利宣言をするのを、期待していた向きがある。そこから、焦点が経済発展に移り、それにより米国との何らかの交渉に入るのではないか、と。

しかし、この期待は裏切られた。正恩氏は、北朝鮮に対する制裁措置、またこれに中国がかかわっていることの影響を肌で感じている様子で、さらに行動をエスカレートしたのである。

11月29日には、長距離弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射実験を実施。これは、「超大型の重量弾頭で、米国大陸全域が射程に入る」もので、これにより「朝鮮民主主義人民共和国 (北朝鮮の正式名称)により定められた、ロケット戦力システム開発という偉業を実現した」とブチ上げた。

ICBM開発の「完成」宣言は、かなめに到達するという確約が実現間近である、という意味にとらえられるのではないだろうか。北朝鮮は窓を開けたと同時に、行動を一時的に「休止した」とも言える。しかし、問題はこの「休止」がどの程度本物なのか、という点である。

金正恩政権が、再度挑発のレベルを引き上げる時、それがどんなものになり得るのか、すでにわれわれに知らしめているのではないか。それは、太平洋上どこかで行われる大気圏内核実験である。

噛み合わないホワイトハウスと国務省

一方、レックス・ティラーソン米国務長官は2017年12月中旬、北朝鮮との対話の用意があることを示したが、方々から批判を受け、数日のうちに、ホワイトハウスからもこうした声明を撤回するよう要求される結果となった。

それでも、国務省側は北朝鮮と対話をする心積もりがある、という姿勢を崩していない。国務省とホワイトハウスのスタンスが異なる背景には、2つの要因がある。1つは、国務省高官らが、6カ国協議に北朝鮮が同意しないかぎり、どんな対話もあり得ない、としてきた態度を軟化させようとしていることだ。

もう1つは、国務省高官らが、特に最終目標を定めず、その上である取引を行おうと考えていることだ。その取引とは、米国が、北朝鮮に対する制裁措置を部分的に緩和することや、韓国との共同軍事演習を保留するといった譲歩を行うことで、北朝鮮の核ミサイル実験を「一時停止」させるという取引だ。

これに対してホワイトハウスは、「すべての対話は、非核化につながらなければならず、凍結政策を止めることはない」、という発表済みの姿勢を、公的に変える考えはない。

こうした中、国務省の姿勢を支持する政府関係者らは、トランプ大統領は、単に、北朝鮮を屈しさせ、米国に向けられたICBMの脅威を退けたという勝利宣言をしたいだけだ、と話している。とはいえ、米国内で困難な政治的状況に直面し、今年11月には中間選挙を控える中、トランプ大統領は国務省の考えに傾く可能性があると、高官らは見ている。

そこで、カギを握ることになりそうなのが、韓国の文在寅政権である。前述の取引が、韓国とのさまざまな取り決めに北朝鮮が肯定的に応じるものであれば、特にだ。中国、そして、ロシアもこれを歓迎するだろう。

ただ、日本だけは蚊帳の外に取り残され、単に見守る形になるだろう。北朝鮮が、対日核攻撃能力を失わずに済む、まさにこのような不利な取引に対し、日本政府は警告を発し続けていたからだ。

しかも、米国が取引に応じれば、北朝鮮にとっては自動的に同盟国である米韓からも同意を得たという形になってしまう。しかしながら、取り残されることに不安を感じる日本は、最終的にはこれに応じることになるのではないか。

最初の数カ月が重要な時期となる

正恩氏は新年の演説で、平昌オリンピックに向けて韓国との対話への関心を示しており、北朝鮮が韓国だけではなく、経済制裁の緩和を視野に米国とも何らかの交渉を行いたいと考えていることは明らかだ。一方、これはトランプ政権にとっても、高まり続けている米朝間の緊張を緩和するために、ありがたいチャンスと言えるだろう。

2018年は、最初数カ月が重要な時期となる。2月の韓国・平昌オリンピック開催中に、国連による休戦協定が結ばれるかもしれない。その時こそ、正恩氏がほんのわずかでもドアを開け、韓国との話し合いに応じる時である。もしその際に、米国とも話し合うという決定が下されれば、細い小道が開けるかもしれない。

それでは、もう1つのシナリオ、つまり、戦争の可能性を考えてみよう。北朝鮮が、米国と話し合いの場をもちたがっているのは明白だ。トランプ政権に、北朝鮮の核兵器保有国としてのステータスを認めさせることにつながる合意を得られれば、正恩氏にとっては勝利となる。

これは事実上、非核化への強要をトランプ政権が手放すことであり、金正恩政権に対する経済制裁を和らげることにつながり、そのうえ“ボーナス”として、ワシントンと、その同盟国との間にくさびを打ち込むこととなる。実験に対する停止令など、たとえしばらく続いたとしても、代価としては取るに足らない。

問題は、トランプ大統領がこうした取引に乗るかどうか、である。米国の米朝関係専門家同様、北朝鮮もトランプ大統領が実際にどんな人物であるのか、トランプ政権の壁の中で何が行われているか、を見極めようと躍起になっている。

実際、昨年の春から秋にかけて北朝鮮は、米国人記者や専門家を北朝鮮に招待したり、会談を申し出たりして、全員に同じ質問を浴びせかけてきた。

「トランプ大統領が何か発言した時、それをどういう意味で言っているのか、その後どういう行動に出るつもりなのか、目星をつけなければならない」とは、北朝鮮外務省高官が、「ニューヨーカー」誌のエバン・オスノス記者に述べた言葉である。「これが実に難しい」。

トランプ大統領による戦争の脅しは、中国と北朝鮮に譲歩させようとする、計算ずく駆け引きなのか。北朝鮮はそう思案にくれている。「トランプ大統領は理不尽なだけかもしれない。または、並外れて賢いのかもしれない。どちらとも言えない」と、ある外務省高官はオスノス記者に語っている。

対話を開始しようという、国務省から発せられる数々の試みに対し、なぜいまだに北朝鮮が応じようとしないかは、想像に難くない。北朝鮮でも米メディアをすべてチェックすることができ、国務省にはトランプ政権に及ぼす力がないということを知っているのである。

さすがに先制攻撃や予防攻撃はあり得ない

トランプ大統領自身からの直接の引き金がないかぎり、正恩氏らは、欲しいものが手に入るのを狙って、挑発の段階をさらに引き上げる危険性がある。とはいえ、北朝鮮は明らかに、トランプ大統領にとっての危険ラインがどこにあるのかを測りかねている。

北朝鮮はその長い歴史の中で、重大な軍事衝突を引き起こすことなく、かなり長い間挑発を続けることができることを知っている。広範囲な戦争、という脅威が、米国と韓国を抑えるのに十分であると。しかし、今は違う。これを、トランプ大統領の計算された「狂人的」駆け引きのおかげ、と言っていいかわからないが、さすがの北朝鮮も、米国がどう考えているのか、わからないのである。

今後、2、3カ月状況が変わらなければ、北朝鮮は小規模実験を繰り返し、正恩氏は以前と同じような行動に出ることだろう。米国を「わからせる」には、武力しかないと決め、さらに規模の大きい新型ICBMの実験に乗り出すことも考えられる。

「トランプ大統領は、戦争なんて望んでいない」と、ある国務省高官は話す。「戦争」が、先制攻撃や予防策としての北朝鮮攻撃を意味するのであれば、筆者もこの読みは正しいと思う。近ごろ盛んに論議されている、いわゆる「ピンポイント先制攻撃」という筋書きさえ、あり得そうではない。

これについては、ジェームズ・マティス国防長官と、ジョセフ・ダンフォード将軍兼統合参謀本部議長が、トランプ大統領にこうハッキリ伝えているからだ。こうした攻撃は、広範囲の軍事衝突を引き起こす可能性があり、全面的な戦争に発展するかもしれないと。

非武装地帯における小規模攻撃が、米国の攻撃を誘発することはないだろう、と米国政府高官らは確信している。しかし、大気圏内核実験といったレベルの挑発行為が起こった場合、すべては白紙に戻る。「そういうことになったら」米国情報機関に身を置く、ベテランの北朝鮮専門家は筆者にこう漏らした。「東京には絶対に滞在しない」。