青学大は逆転で史上6校目のV4を果たす(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

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第94回箱根駅伝は青学大が復路で爆発的な強さを発揮。原晋監督の予告通りに、6区で東洋大を悠々と逆転して、02〜05年の駒大に続く、史上6校目の4連覇を達成した。レース後の記者会見で、原監督はこれまでの優勝との違いをこう話した。

「過去3年間はスタート前からほぼ勝つだろうという状態でした。でも今回は対・青学大を掲げたチームが多かった。これが過去の名門チームが通ってきた道なんだとプレッシャーを感じましたし、ここで勝ってこそ、真の強豪校に成長するんだと思っていました」

今季は出雲で2位、全日本で3位。11月下旬の1万m記録挑戦競技会でも過去3年間と比べて、好タイムを出すことはできなかった。
「王者、危うし」の声は小さくなかったが、原監督に不安はまったくなかったという。

「弱音を吐くのはリーダーではない。逆境に立たされるとメラメラと闘志が沸いてくる。駅伝で2敗して、原監督のスイッチが入りましたよ」と振り返る。
そして、選手たちには、「当たり前のことを当たり前にやろう」と伝えたという。

単なる精神論者ではない。早大大学院でインテリジェンスを身につけた原監督は、箱根駅伝に勝てる「明確な理由」をきちんとデータ化していた。

「13年間の歴史を修士論文にまとめています。箱根駅伝における青山学院大の育成メソッドですね。3連覇したときのデータを洗い出して、必勝メカニズムを開発しました。頑張るべきことが明確になり、それが今回の青学大の強さにつながったと思います。そのなかで、トラックシーズンの5000mタイム、夏合宿の消化率、ハーフマラソンのタイムが3連覇したときと変わらなかった。最後の微調整さえうまくやっていけば同じ成果は出ると思っていたんです」

青学大は箱根駅伝で勝つための方程式を確立。それを選手たちも理解できるようになり、チームの方向性がバッチリと固まった。原監督は“微調整”の部分を明かすことはなかったが、過去の優勝時と同様に選手たちは直前になって調子をグンと上げてきた。

 夏から5区を意識してきた竹石尚人(2年)は全日本後に故障があり、エース格の下田裕太(4年)も左足にできたマメの不安が消えたのは10日ほど前だったという。そのため、チームエントリー(12月10日)の頃には、スピードを必要としない5区に下田を起用するプランが浮上していた。

 それが12月下旬には、竹石を5区、下田を8区に起用するメドが立ち、王者・青学大にとって理想的なオーダーが完成した。さらに2区森田歩希(3年)と7区林奎介(3年)が神がかり的な快走を見せる。

 花の2区は青学大にとって不安のある区間だった。

 3年連続で好走してきた一色恭志(現・GMOアスリーツ)が卒業。前回区間賞の神奈川大・鈴木健吾(4年)が相手では分が悪かったからだ。「設定タイムは1時間8分30秒。前回の一色(1時間7分56秒)に近づいてくれれば」(原監督)という状況で、森田本人も「できれば1時間7分台を出したい」と話していた。それが1時間7分15秒の区間賞。並走していた鈴木を突き放して、神奈川大の野望を早くも打ち砕いた。

 そして7区の大会MVPに輝いた林は誰もが驚く1時間2分16秒の区間新記録。設楽悠太(東洋大/現・Honda)、佐藤悠基(東海大/現・日清食品グループ)ら学生長距離界のエースたちが刻んだタイムを上回った。

 森田、林の快走はサプライズともいうべきものだったが、そのサプライズをこれまで現実のものにしてきたのが青学大のメソッドだ。

 毎年、こういう選手を何人も誕生させてきた。同時に過去の成功体験も重要視。6区の小野田勇次(3年)と8区の下田を3年連続で同じ区間に起用して、確実にウイニングショットを決めにいった。

 さらにV4戦士となった3区の田村和希(4年)の存在も大きかった。
 区間賞こそ逃したが、区間3位の鬼塚翔太(2年)に48秒差をつけて、出雲と全日本で先着された東海大を一気に引き離して戦意を喪失させた。

 神奈川大はチーム3〜4番手の鈴木祐希(4年)が外れ、1区と2区がもうひとつ伸びず、5区で大ブレーキ。東海大はエース格の關颯人(2年)が離脱して、2区、4区、5区、7区も期待外れ。10区では区間16位の失速もあった。青学大も様々なアクシデントがあったものの、見事な「調整力」で完全にリカバリーした。

 近年の箱根駅伝は上位校の戦力はさほど大差がなく、トップを独走するチームが断然有利になる。

 そういう意味ではどこで首位に立ち、どうやってセーフティーリードを奪うのか、という2点が勝つためには重要だ。今回、東洋大はトップに立ち、主導権を握ることができたものの、大量リードを確保することはできなかった。反対に青学大は6区で狙い通りにトップを奪うと、7区でセーフティーリードを手にして、8区でダメ押し。復路は完璧なレース運びで、最終的には独走Vを飾っている。

 そして、今回のVメンバー7人が残る青学大には5連覇の希望もキラキラに輝いている。
 そのなかで2区で区間賞に輝いた森田、二度ほど立ち止まりながら5区を区間5位でまとめた竹石、6区区間賞の小野田、7区区間新の林。この4区間はライバル校にとって脅威となるだろう。さらに出雲でアンカーを務めた橋詰大慧(3年)など、今回外れたメンバーのなかにもレギュラークラスの実力を持つ選手がいる。

 青学大の箱根V5を食い止めるとすれば、史上5校目となる「10年連続3位以内」を達成した東洋大と、登録10名の平均タイム(5000m、1万m、ハーフ)すべてでトップだった東海大の2校しかない。

 3年生以下のオーダーで往路を制した東洋大は、10区小笹椋(3年)も区間賞。今回は10区間中5区間で青学大を上回った。ただし、「選手層の違いが、復路に出ましたね」と酒井俊幸監督。7区と8区では2分30秒以上の大差をつけられている。そして来年、優勝を奪い取るには、「青学大は復路が強いので、往路で最低でも2分以上の大量貯金をつくるか、7区に(主力を)ぶつけるしかないと思います」と酒井監督は次回の戦いをシミュレーションした。

 一度も青学大の前を走ることができなかった東海大・両角速駅伝監督は、「この1年間、箱根以外は勝ったかなという感じはあったんですけど、箱根は別物。圧倒的な差を考えると、完敗かなと思いました」とこぼす。来季は最強世代が3年生になるが、「スピードにこだわるという基本方針は変えたくありません。このやり方で青学大に勝負を挑むなら、1万m28分30分切りを10人そろえていくようなかたちになると思うんですけど、それでも20km以上は簡単ではありません。『速さ』にプラスして『強さ』を身につけさせていくしかないと思います」と話した。

「陸上の本質を追い求めてきた」という原監督がレベルを引き上げた箱根駅伝。そこに東洋大と東海大も独自のメソッドで、王者アオガクを追いかけていく。新たなる“3強”の時代が幕を開けることになる──。

(文責・酒井政人/スポーツライター)