アルバルク東京のGM補佐兼アカデミーコーチを務める渡邉拓馬氏【写真:村上正広】

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名シューター・渡邉拓馬氏がアルバルク東京GM補佐から描く日本バスケのビジョン

 16年秋に開幕し、一躍、盛り上がりを見せているプロバスケットボールのBリーグ。まだ歴史は浅いが、クラブでは元プレーヤーのセカンドキャリアも少しずつ、広がりを見せている。その一例が、アルバルク東京のGM補佐を務める渡邉拓馬氏だ。日本代表でも活躍した希代の名シューターは、なぜ、現場の指導者ではなく、編成に携わることになったのか。就任の経緯、そして、今後のビジョンについて語ってもらった。

 渡邉氏は福島工から拓大を経て、トヨタ自動車を中心に長く活躍。日本代表でプレーし、日本バスケ界の第一線を駆け抜けた。16年春に引退。そのとき、クラブからアカデミーコーチとともに打診を受けたのが、GM補佐の役職だった。GMをサポートする立場として、選手獲得などのチーム強化にまつわるあらゆる業務を担う。

 第二の人生として、やりがいを感じた。

「現役時代、自分が感じていたのが、企業チーム特有の数字だけを見て選手を評価するということ。例えば、試合の勝敗、平均得点、リバウンドやアシストの本数、そういうところを見て『去年より成績が悪かったから年俸ダウンです』というような話をされていた。数字を残すのは、もちろん大事。でも、スポーツの中でも、特にチームスポーツは数字に見えないところがある。自分を犠牲にしたりして選手にしかわからないところを見て評価しないと、やっている選手がかわいそうだと感じていました」

 創設2年目を迎えたBリーグ。プロリーグの形こそ取っているが、実業団スポーツとして長く運営されてきた習慣は残っていた。だから、選手出身の自分に打診があり、できることがあると思った。

「自分が現役時代はGMの方も企業出身でバスケを知らない方がほとんど。『練習、観に行くよ』と言うものの、月1回来てくれればいい方。それと同じことをしていたらプロチームとしては選手のためにならないと思った。チームには数字を見られるGMがいたので、普段や試合前後でどんな心がけで練習に臨んでいるかというメンタルの部分を含め、自分は数字に見えない試合の動きをしっかり見ようと思っていました」

選手に「バスケ、知らないでしょ」で終わらせない「パイプ役」

 実際に心がけているのは「現場とフロントとパイプ役になること」だという。

「数字はリーグのスタッツに出る。数字に見えないプレーをチェックし、個人、チームに伝える役割。平均5点しか取ってなくても『この選手はチームには必要』という評価をするのが、今の役割。オフになれば、逆に点は取っているけど『チームにケミストリーを与える選手かと考えると難しいかもしれない』とヘッドコーチ、GMに意見を話していきます。僕はより選手に近い目線で伝えていけたらと思ってやっています」

 BリーグはGM制を取っているクラブは多くない。渡邉氏はGM制に肯定的というが、プレーヤー出身の選手が編成部門に携わっている例も少ない。実際にプレーしてきたからこその強みはどこにあるのか。

「選手の気持ちをわかるということかなと思います。いい時も悪い時もあるし、移籍を繰り返す心境を知っている。選手を見て、こんな道を提供してあげようとか、今はそっとしてあげようとか、選手目線で気持ちを汲み取って行動してあげられる。見てくれているんだなと気づかせてあげる声かけができるし、選手出身ではない人よりは細かな選手の気持ちわかると思っています」

 まだまだ試行錯誤を続ける日々。うまくいくことばかりではないが、業務に邁進する中で手応えを感じることもあるという。

「選手の良さを再確認させることは伝えてあげられているかな。自分を見失いかけている選手に『お前はここが強いんだから貫いていけ』と。どうしても、バスケを知らない人に言われて、表向きは『わかりました』と言っても、内心は『バスケ、知らないでしょ』と思ってしまう。頭ごなしにいうのではなく、自分がそういう状況だったら、どう接してほしいかを考えたり、その人の立場になって言えたりは、選手上がりだからできることかなと思います」

 トップ選手がクラブ強化に奔走する。こうした取り組みの広がりが、リーグはもちろん、日本バスケの強化につながっていくと信じている。

選手出身GMが日本バスケの強化に…逸材は「これからたくさん出てくる」

「自分と同じような役職につける選手は何人もいるし、これからたくさん出てくる。そういう中でクラブに合ったスタイルを確立していけばいい。ただ、その中でもクラブだけじゃなく、日本全体を意識したチーム作りがプレーヤー出身者を中心に各クラブができれば、日本代表の強化にもつながる。今の日本の状況では、チームだけのことを考えていたらいけない。それは世界ランクを上げていく上では必須条件だと思います」

 このように熱く語った渡邉氏。果たして、自身は今後、どんなキャリアを築いていくのか。

「今後、GM業を自分の仕事としてやっていくには、まだ経験が少ないと思う。ビジネス面は今、GMの下でやりながら勉強中。理想的には毎年、ファイナルに出るようなチームを作ること。アジア、世界に通用するクラブになってほしいですから。目の前だけじゃなく、日本代表のことも気にしながら、作っていけるビジョンは持ちたい。バランスです。今も大事だし、先も見て勝っていかないといけない。そういう目も養わないといけない」

 自分の仕事が日本の強化につながる。目標を現実にするためにも、もっと成長しなければいけないと感じている。

「バスケもそうだし、人間関係を形成するのもそう。自分自身の人間力の未熟さもある。理想像といえば、いるかいないかわからないけど、ひとことで選手を助けられるという存在。(フロントが)常にいると、選手も構えてしまう。その場にはいるけど、存在感を出さずに大事なときだけ、的確な言葉を伝えられる人間に成長したい。これからも、そういうような存在でありたいと思っています」(THE ANSWER編集部)