子供がお小遣いをほしがらなくなった理由

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子ども達から物欲が消えつつある。博報堂生活総研が子ども(小4〜中2)を対象に調査した結果、毎月決まった金額のおこづかいをもらう子が半数を下回り、「新しい商品が出るとすぐほしくなる」、「流行に関心がある」と回答した子どもは過去20年間で最低になった。背景にあるのはスマホをはじめとする情報環境の大変化だ。彼らはなにをほしがっているのか。博報堂生活総研の酒井崇匡上席研究員が考察する――。(第4回)

■特に動きが大きかった「消費と情報」

博報堂生活総合研究所が20年間にわたって実施している「子ども調査」では、その多くの項目が1997年の第1回調査から継続して聴取されています。調査対象となっている小4〜中2の子どもたちの年齢はおおむね10〜14歳。彼らを取り巻く環境は20年間で大きく変化しているものの、「そうは言っても“子どもは子ども”。変わらない部分も多いよね」という意見も多く聞かれます。

では、実際にはどうなのでしょうか? 「子ども調査」で1997年から2017年まで継続聴取している項目は583項目あります。それらを分析したところ、約6割(348項目)には統計上有意な変化が見られました。約4割(235項目)の変化しなかった項目とは、「将来は結婚したいと思う」(97年85.8%→17年86.4%)、「特別な彼氏・彼女とよべる人がいる」(97年9.2%→17年7.6%)、「自分の将来は明るいと思う」(97年90.9%→17年92.4%)などです。

一方、変化した約6割の中でも、特に動きが大きかったのが「消費と情報」に関する項目でした。

■「物欲レス化」する子どもたち

消費に関して、私達が注目したのは子どもの物欲に関係する項目です。「値段が少し高くてもちょっといいものがほしい」、「新しい商品が出るとすぐほしくなることが多い」という意識が大きく減少し、過去最低値となりました。どうも、子どもの物欲が徐々に減ってきているようなのです。

同様の変化は子どものおこづかい事情にも現れています。1997年当時、私は中学3年生で毎月3000円程度のおこづかいをもらっていました。子ども調査でも1997年には8割近くの子どもが「おこづかいをもらっている」と回答していたのですが、今では6割近くまで減少。中でも、「毎月きまった金額をもらっている」という子は、半数を下回っています。

そうは言っても、おもちゃやゲーム、服などほしい物はいろいろあるんじゃないか? そう思って家庭訪問調査でもしつこく聞いてみたのですが、ある中1の男の子によると、「欲しいゲームはおじいちゃん、おばあちゃんが買ってくれるので、お金はあまりいらない」んだそうです。私達が取材した学童NPO代表の方も、「今の子どもたちは誕生日やクリスマス以外にも、「運動会で○位になった」というような機会に欲しい物を買ってもらえる子が増えている」と話されており、そのような状況の変化も一つの要因となっているようです。

■「流行に関心がある」が過去最低になった

欲求の減少は、モノだけでなく情報についても顕著です。「流行に関心がある」、「はやっているものを人より早く知りたい方だ」、「はやっているものを人よりも詳しく知りたい方だ」は今回、全て過去最低値となりました。

この背景となっている彼らを取り巻く情報環境の変化として最も大きいのは、やはり「スマホ」などのスマートデバイスの普及です。今回の調査は2017年2月から3月にかけて実施したのですが、その時点でスマートフォン(親所有のものを含む)を使ってネットを利用している小4〜中2の子どもは56.4%と半数を超えています。

それだけでなく、携帯ゲーム機でYouTubeやWebサイトを見ている子も36.4%ほどおり、ネット結線されたテレビ(16.5%)などを含めると、子どもたちは平均してひとり当たり1.9種類のデバイスを使いこなしています。家庭でネット利用をしていない子は、もはや6.1%ほどしかいない状態です。

ちなみに自分専用のスマホを持っている子も小学生(小4〜小6)では21.6%、中学生(中1〜中2)では61.6%でした。小学生では家庭の方針や学校の指導などもあって、自分専用のスマホを持っている子はまだ少数派ですが、中学生になると6割以上はスマホを持っているのです。

彼らはスマホに限らず、複数のデバイスを使いこなすことで、情報はいつでも、いくらでも自分で引き出すことが可能です。常に最新の情報を追い求めていた上の世代と違い、まとめサイトなどの情報のデータベースも豊富にある今の子どもたちにとって、情報はあえて最新を追いかけなくても、気になった時に手元のデバイスを立ち上げれば、容易にキャッチアップできるものになったのです。

一方で、中学校の先生によると、流行にはあまり興味を示さなくなったものの、自分の興味のあることや趣味に関してはとても主体的で、大人がびっくりするほど詳しくなる子も多いんだそうです。

■SNSの登場と「同い年」になる子どもたち

そもそも今回、調査対象となった子ども達が生まれたのは、おおむね2003年〜2007年です。彼らが生まれたのがどんな時代だったのかというと、04年にはmixiやGREE、前略プロフィールといった和製のSNSが登場し、ニコニコ動画(06年)やYouTube日本版(07年)などの動画共有サイトもこの頃サービスを開始しました。彼らはSNSを10代の頃から利用しているSNSネイティブな世代よりさらに若い、SNSと同い年の世代なのです。

彼らが小学校の低〜中学年の頃には、光回線はもちろん、スマホやWi−Fiが既に過半の世帯に普及していました。また、LINEなどのチャットアプリ、メルカリなどのフリマアプリを含めて、主なWebサービスやアプリがほぼ出そろった状態だったわけです。

もちろん、10年前の2007年調査時点でも一部の子ども達はSNSや動画共有サイトを使いはじめていたでしょうが、それはまだリテラシーの高い子に限定されていましたし、それを見るにはわざわざリビングのPCを立ち上げなくてはいけませんでした。それに比べると、スマートデバイスの普及した今の子ども達にとってさまざまなネットサービスの敷居は圧倒的に低いのです。

実際、動画共有サイトはほとんどの子が利用しています。LINEなどのチャットアプリは利用を制限する学校も多いことから、小学生の利用率は16.5%ほどにとどまりましたが、中学生ではほぼ半数が利用している状態です。

■今の子ども達はタダ・ネイティブ世代

では、物欲が低下し、最新の情報も求めない、SNSと同い年の今の子ども達は結局、どんな世代ということができるのでしょうか。

鍵になるのは、コスト感覚です。例えば、ネット接続にせよ通話にせよ、以前は量や時間が増えるとそれだけ通信コストがかかっていましたが、光回線とWi−Fi、通話アプリなどの普及によって、親が光回線の通信料を払っている限り、家庭内でそれを利用している子ども達にとっては、使い放題、話し放題の状況が生まれています。

コンテンツについても、以前は何を利用するにせよ有料だったものが、スマートデバイスさえあればほとんどが入り口は無料。YouTubeには膨大な無料のコンテンツが格納されています。実際に、彼らはゲームも、音楽も、マンガも全て無料のアプリで楽しんでいますし、以前はゲームセンターに行って撮っていたプリクラも、手元の画像加工アプリが代替しています。

費用や手間、労力をかけずとも、情報もコンテンツも自由に利用できるというのが物心ついた時からの当たり前。いわば無料が当然という「タダ・ネイティブ世代」なのです。だからこそ、物欲や情報ニーズについても、根本的な地殻変動が起こっているのです。

ただし、タダ・ネイティブ世代は、全くお金を使わない、無料だけを志向する世代というわけではありません。私達の実施した家庭訪問調査では、タダ・ネイティブ世代の子ども達は、タダが前提だからこそ、これまでにないお金の使い方を見いだし始めていることも見えてきたのです。

次回からは家庭訪問調査での発見を中心に、タダ・ネイティブ世代が生み出す、次の時代のスタンダードとなりうる価値観に迫っていきたいと思います。

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酒井 崇匡(さかい・たかまさ)
博報堂 生活総合研究所 上席研究員。2005年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、教育、通信、外食、自動車、エンターテインメントなど諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。2012年より博報堂生活総合研究所に所属し、日本およびアジア圏における生活者のライフスタイル、価値観変化の研究に従事。専門分野はバイタルデータや遺伝情報など生体情報の可視化が生活者に与える変化の研究。著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。

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(博報堂 生活総合研究所 上席研究員 酒井 崇匡)