(左)徳本一善さん(右)稲田翔威さん

写真拡大 (全3枚)

 女子人気急上昇中の箱根駅伝! 今年も注目選手が目白押しのなか、過去に箱根を沸かせた選手たちは今どうしてる? 涙のリタイアを経験した、ビッグマウスのあの選手、『ガルパン』好きが話題となり、アニメファンから熱い声援を受けたあの選手の、意外な“今”に迫る!

【画像】当時は茶髪の徳本さんと、稲田さんを応援したコトブキヤによる横断幕

法政大学OB徳本一善さん、途中棄権から15年「もう1回走りたい」

 駅伝ファンなら忘れようがない。当時の学生は、誰もが黒髪でどこか素朴。そんな中で、ほぼオレンジ色の明るい茶髪にサングラス姿で箱根を駆け抜けた徳本一善さん(’99 〜’02年・法政大、現・駿河台大学駅伝部監督)はあまりに斬新だった。自信満々のビッグマウスに眉をひそめる大人も多かった。しかし、バッシングなどどこ吹く風。走れば誰よりも速かった。

  ◇   ◇   ◇  

「何が起きているのかわからなかった。自分は走っているのに、どんどん遅れていく。スローモーションみたいでしたね」

 ’02年、エースが集う2区。4年の徳本さんのふくらはぎは肉離れを起こした。監督の制止を振り払い、フラフラと蛇行しながら前に進むも、涙のリタイア。

「止められて、病院に行って、初めてわれに返ったというか。終わったんだな、と。現実を受け止められなかったです」

 高校時代から全国に名を馳せ13大学、4実業団から勧誘が。選んだのは箱根の予選会常連校だった法政大。

「どこに行っても自分は絶対強くなれる。好きにできるなら、どこでもよかった。法政大は本当に自由で、合ってましたね」

 箱根駅伝にはまったく興味がなかったという。

「僕は中距離の選手でしたから。監督に頭を下げられ、なかば無理やり(笑)」

 1年は1区で区間10位。こんなに華やかな陸上の大会があるのか。強烈なインパクトだったという。次は絶対トップを取ると心に誓うも、駅伝は1人が速くても勝てない。

「僕は協調性がありませんし、思い描くビジョンもチームメートとは明らかに違っていた。周りにイライラしたし、衝突も多かった。だいぶ浮いてましたね」

 同時にスポーツ選手の価値は、見た人の感じ方で決まると考えていた。

「その価値を作り出すひとつとして、周りがやってないことをやる」

 派手な格好は計算されたもの。2年は1区で区間賞。2学年上の坪田智夫さん(現・法政大監督)と“オレンジ旋風”を巻き起こす。3年でチームは総合4位に。優勝を狙える位置まで来た。しかし……。

「できることなら、もう1回走りたい。結果がどうであれ、ベストな状態であの場に立ちたい。今でも後悔はあるけど、その後悔が経験になっているので」

 卒業後は日清食品グループで活躍。アテネ五輪(’04年)には0.8秒届かなかった(5000m)。そして、ほぼ無名の駿河台大からオファーが届いた。

「実は3回断ったんですよ。もうね、お粗末で漫画みたいなレベルでしたよ(笑)。脳科学や心理学など、いろいろと勉強しながらやってます。何より、人間が成長する過程は興味深いですね」

 監督となって6年。今回の予選会は23位だった。

「学生には“俺は(箱根駅伝を)4回経験してるし、結果が出なくてクビになっても別にかまわない”と言っています。そして、“俺が箱根に連れていくんじゃないからな。おまえたちが俺を連れていくんだよ”とも(笑)」

〈profile〉
駿河台大駅伝部監督。’79年6月22日生まれ。広島県出身。法政大で箱根駅伝に4度出場。順天堂大学大学院卒業。日清食品グループ、モンテローザを経て、’12年より現職。既婚。中学生の娘と小学生の息子がいる。

順天堂大学OB稲田翔威さん、箱根&ガルパンで就職決定

 ’14年の第90回大会。駅伝ファン以上に(?)、アニメファンが熱い声援を送った選手がいたのをご存じだろうか? 当時、順天堂大2年の稲田翔威さん(現・コトブキヤ陸上部)だ。

  ◇   ◇   ◇  

「僕は『ガールズ&パンツァー』(以下ガルパン)というアニメが大好きで。劇場版は30回見ました。簡単にいうと、女子高生が戦車を使った競技で全国制覇を目指す物語なんですが、キャラクターの心情や成長など、スポーツ選手だと共感できる部分がたくさんあって……」

 のっけから“ガルパン愛”が止まらない。発破をかけると、いい走りをすると見抜いていた長門俊介コーチ(現監督)は、大会前にこう告げたそうだ。

「“1人抜かれるごとに、フィギュア1個没収”と。たぶん、冗談半分だったんですけど、新聞やSNSでどんどん広まって。シャレにならなくなって(笑)」

 結果は、3区で区間15位。2人に抜かれた。“嫁が2個没収されてしまう”と嘆いたツイッターは、瞬く間に拡散。すると、フィギュアを製造・販売するコトブキヤが“弊社から補給いたします”と、まさかのコメント。

「びっくりしたし、感激しました。でも、甘えるわけにはいかない。実際、没収はありませんでしたが、“来年、2人抜いて取り戻す”と誓い、自らマネージャーにフィギュアを預けました」

 以後、予選会を含め、稲田さんが箱根を走る際には、必ずコトブキヤがキャラクターの横断幕を作って応援してくれた。そして、翌年は4区で区間6位。見事2人を抜いた。

「フィギュアはすごいモチベーションでした。“絶対抜いてやる!”と思いましたね(笑)」

 4年の最後の箱根は7区で区間5位。チームを9位から5位に押し上げた。卒業後は、陸上自衛隊に進むか、実業団で走るかで悩んだ。そんな中、長門コーチは陸上部を持たないコトブキヤで“宣伝ランナー”として走ることを発案する。

「せっかくの縁。不安はありましたが、挑戦しようと思いました」

 稲田さんと長門コーチの熱意に応え、コトブキヤは’16年に陸上部を設立。現在、稲田さんは社名の入ったユニフォームで試合に出ている。

 しかし、“宣伝ランナー”は、実業団選手とは働き方が異なる。

「9時半から4時半まで、店舗勤務。『ガルパン』を含めたフィギュアなどの売り場が担当です。レジ打ち、店内巡回、品出し、在庫管理……などを行っています。その後に軽めの練習。休日は、母校などで練習しています」

 今夏は『ひぬま夏海マラソン』で優勝。自らの提案で行った優勝セール&撮影会は大盛況だった。そんな稲田さんの夢とは?

「コトブキヤで『ニューイヤー駅伝』に出ることです。長距離選手って、けっこうアニメ好きが多いんです。まだ陸上部は僕ひとりですけど、少しずつ結果を残して、いずれはメンバーを集めて出たいです!」

〈profile〉
コトブキヤ陸上部所属の宣伝ランナー。’94年2月23日生まれ。茨城県出身。順天堂大で箱根駅伝に3度出場(2〜4年)。アニメ『ガールズ&パンツァー』が大好き。「好きなキャラクターは西住みほとケイ」。