英国・メイ首相(左)とEU委員会のユンケル委員長。離脱交渉の第1ラウンドは12月8日、2カ月遅れでようやく合意にこぎ着けた(写真:ロイター/アフロ)

英国のEU(欧州連合)離脱協議は2018年初から第2ラウンドに進む。

第2ラウンドは、EU離脱による激変を緩和するための「移行期間」の協議から始まる。離脱後に締結する英国とEUの新たなFTA(自由貿易協定)など「将来の関係」についての協議の開始は3月以降となる。

市民の権利、精算金、アイルランド国境問題について協議した第1ラウンドの進展は当初の予定より2カ月遅れ、およそ半年を費やした。英国のEU離脱は2019年3月だが、「円滑な離脱」に必要な協定の批准手続きのため、2018年秋には協定案をまとめる必要がある。残された時間は10カ月余り。果たして、「円滑な離脱」は実現するのだろうか。

移行期間の英国は権利を喪失し義務を課される

「円滑な離脱」にまず必要とされるのは、移行期間についての明確な合意だ。英国側は、移行期間としておよそ2年間を想定しており、この間の財・サービス・資本・人の自由移動を原則とする「単一市場」と域内関税ゼロ、共通域外関税、共通通商政策からなる「関税同盟」への残留を希望している。


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離脱後も、移行期間として現在と同じ条件でのEU市場へのアクセスと関税が維持されるのであれば、在英国企業は、離脱対応のための時間的な猶予を得ることができる。産業界は移行期間について早期の合意を強く望んでいる。EUも移行期間は必要と見ており、2020年末までの期間限定で応じるスタンスだ。しかし、条件がある。

移行期間の協議の早期決着は、離脱によって加盟国としての権利を喪失する英国が、EUが求める条件を受け入れることができるかが焦点となる。移行期間中の英国は、EU加盟国ではないので、EU機関やEUの意志決定に加わる権利は失う。しかし、単一市場と関税同盟に残留するため、すべてのEUルールを移行期間中の変更も含めて受け入れる義務は残る。EU予算に拠出し、欧州委員会に監視され、EU司法裁判所の管轄からも逃れられない。

うち、EU予算への拠出は第1ラウンドの精算金の協議で2020年末までの拠出を約束済みなので障害とならないだろう。だが、英国が、意思決定に加われなくなった後の新たなルールの受け入れとEU司法裁判所の管轄は、強硬派のボリス・ジョンソン外相が、タブロイド紙のインタビューで、移行期間に関わるレッド・ライン(超えてはならない一線)として挙げた項目だ。

あくまでも期間限定であり、念願の離脱の実現につながる見返りとして、強硬派がEUの条件を受け入れることができるかが鍵だ。

移行期間は、離脱後に英国と新たに締結するFTAの発効までをつなぐものだが、FTAの協議開始は3月以降とやや遅れる。EUが協議開始に先立ち、英国に要望を明確にするよう求めたからだ。

英国には青写真はある。理想はデービス離脱担当相が「カナダ・プラス・プラス・プラス」と表現した協定だ。EUがカナダと締結したレベルの高いFTAに、英国の主力産業である金融サービス分野での特別な協定を加えたものだ。カナダ型のFTAは、英国にとって、単一市場に参加するノルウェー型と違い、人の移動の自由、EU予算への拠出、EUルールの受け入れなどの「義務」を伴わないという点でも魅力がある。

しかし、EUとのFTAは、英国の理想通りとはならないだろう。EUは単一市場の4つの自由の「いいとこどり」を認めるつもりはない。一体性を重視する観点から、産業ごとの参加を否定している。カナダ型のFTAの締結には応じる構えだが、金融サービス分野のみ単一市場に残留することを認める特別措置を講じるつもりはない。

離脱後も規制や監督の同等性を評価する既存の枠組みの延長上で、英国からEUの顧客に金融サービスを提供することは認められるかもしれない。しかし、単一市場圏内に比べて自由度も安定性も低下する。円滑な離脱であったとしても、金融機関は離脱に対応して、拠点を再編せざるを得ないだろう。

今後も英国内の分断は協議の進展を妨げる

第1ラウンドの協議は、与党・保守党内での強硬派と穏健派との対立で英国側の交渉姿勢が定まらなかったことで、EU側が想定したよりも、時間を要する結果となった。

EU離脱を巡る閣内、与党内、さらに英国内の世論の分断は解消したわけではない。第2段階の交渉でも、強硬派の主権回復への期待と、経済界や穏健派が抱く経済的な打撃への懸念の双方に配慮を求められる状況は変わらない。英国政府の交渉姿勢は曖昧になりがちだ。

英国、EUともに安易な妥協は出来ないだけに、第2ラウンドの協議も制限時間ぎりぎりの決着とならざるを得ない。しかし、EU側も、英国の政治が混迷を深めて、結果として無秩序な離脱に発展する結果は望んでいない。第1ラウンドの協議では、アイルランド国境問題の事実上の先送りによって決着させる柔軟性も発揮した。

強硬派の「悪い協定なら協定なしのほうがよい」、「第2ラウンドで良い条件が得られなければ第1ラウンドの約束は履行する必要はない」といったスタンスは引き続き脅威だ。

しかし、第1ラウンドの進展で、円滑な離脱への期待はつながった。第2ラウンドも、最終的には現実的な解決策を見出すだろう。英国のEU離脱は物流や金融システムの混乱の引き金にはならないと見ている。