結婚に適した男は、30歳までに刈り取られる。

電車で見かけた素敵な男は大抵、左手に指輪がついている。

会社内を見渡しても、将来有望な男は30歳までに結婚している。

そうして「青田買い」に目覚めた、大手不動産会社勤務の奈々子(28歳)は、幸せを掴むことができるのか・・・?

先週、田中に告白された奈々子。田中と奈々子の今後は・・・?




-何を祈ってるんだろう。

奈々子は、手を合わせ、目をぎゅっとつぶって参拝する田中の横顔を盗み見ながら、自分との未来でありますようにと、淡い期待を抱く。

今年、奈々子には大きな仕事の転機がやってくる。転勤の辞令だ。

古今東西、どこに転勤になるか分からないし、転勤後田中とうまくやっていけるのか、公私ともに不安なことだらけだ。

せっかく掴んだ田中との幸せも、そう長くは続かないのかもしれないと思うと目頭が勝手に熱くなる。

今考えても仕方ないと分かっているのに考えてしまい、脳が疲れるだけというループに陥った奈々子は、新年早々、弱気になっていた。

その時、田中がパチリと目を開けると奈々子の方を向いて、ニッと笑った。

「ご飯でも食べに行きましょう。あ、その前に記念写真」

参拝客の邪魔にならないところまで移動し、田中がインカメラを向ける。

田中はかなり不器用で、連写や地面の撮影を繰り返した。

見かねた奈々子がスマホを奪い、一発で撮影を成功させると、田中は手品でも見たかのような反応をして、奈々子は思わずプッと吹き出したのだった。


田中が予約した店に驚く奈々子。その理由とは?


どんどん吸収してくれる、喜び


鳥居の下でピシッと足を揃え、深々とお辞儀をする田中。そういう律儀なところ、好きだなと思いながら、奈々子は付き合い始めた日のことを思い出す。

イルミネーションが幻想的に輝く丸の内仲通りでの出来事だった。

自分から田中に気持ちを伝えようと思っていた奈々子だが、いざ田中を目の前にするとなかなか言い出せずにいた。

すると、田中が奈々子に「好きです」と告白してきた。

奈々子は、「ありがとう。私も」と伝えるのが精一杯で、涙が溢れ出た。

奈々子の涙につられたらしく、田中も目をパチパチさせながら涙を堪えており、その姿がたまらなく愛おしかった。

頰に伝ったお互いの涙を拭きながら、おでこを付き合わせ、二人はしばらく見つめ合ったのだった。




「今日はここを予約してます」

明治神宮を後にし、田中に連れられてきたのは、表参道の『ラス』。これまで、田中が選ぶのは学生っぽさの抜けない店が多かったため、奈々子はあっと驚く。

席に着くと、「ペアリングがオススメらしいです」という気の利いたアドバイスをし、再び奈々子を驚かせた。

「このお店、奈々子さんに教えてもらった雑誌に載ってて・・・。この前も、教えてもらったお店を会社の接待で使ったら上司がとても喜んでくれました。奈々子さんと一緒だと心強いです」

教えたことをしっかり吸収しようとする素直さに、奈々子は小さな感動を覚える。

すると、田中が背負っていたリュックの中からガサガサとグルメ雑誌を取り出した。

雑誌には付箋がびっしり貼られている。

「付箋!?」

奈々子が目を丸くして聞くと、田中は雑誌に目を落とし、恥ずかしそうに答える。

「奈々子さんと行きたいお店はピンクの付箋、会社の接待で使えそうな店には黄色の付箋にしたんですけど・・・。結果的にピンクばっかりになっちゃいました。僕ってバカですねえ」

照れ笑いする田中を見ながら、奈々子は幸せな気持ちでいっぱいになる。

「そうね。色んなレストランに、一緒に行こうね」

ワインを堪能しながらとりとめもない話をしていると、田中が急に不安そうな顔になり、声を落とした。

「奈々子さん、僕のお願い聞いてくれますか?」

-お願い!?

奈々子は、田中のお願いが見当もつかず、少しだけ不安になる。

「お願いにもよるけど・・・」

「僕、政宗って名前なんです」

奈々子は、田中の名前が見た目に似合わず勇ましい戦国武将みたいだったことを思い出す。今さら名前の紹介なんて一体どうしたんだろう?と不思議に思っていると、田中は意を決したようにキリッとこう言った。

「まーくんって呼んでください」

奈々子は、思わずワインを吹き出しそうなる。そんなことであんなに真剣な顔をするなんて、ギャップがおかしくて仕方なかった。

「いいわよ、まーくん」

奈々子が茶化すように言うと、田中は「よっしゃー」と満足げに、フォアグラのクリスピーサンドを頬張った。


今日は帰りたくない気分・・・。田中の反応は?


彼といると、情緒が安定していく


喜ぶ田中が落ち着くのを待って、奈々子はワイングラスを傾けながら、ソフト開発のために中村に元データを渡したことを話し始めた。

田中は、奈々子の目をじっと見つめながら真剣に聞いている。

「データを小細工しちゃおうかとも思ったけど、やっぱり出来なかったわ」

悔しさをにじませながら奈々子が言うと、田中が珍しく落ち着いた表情でゆっくりと口を開いた。

「奈々子さんらしいですね。僕が好きな、真面目な奈々子さん」

田中の言葉に、奈々子は胸の奥がキュッとなる。

奈々子は今まで、自分の真面目過ぎる性格、要領の悪さが嫌で仕方なかった。もっと要領よく生きたい、そう思い続けてきた。

しかし、嫌で仕方なかった真面目な性格を、田中は好きだと言った。

奈々子は、初めて自分で自分を認められるような気がしたのだ。

「その言葉、すっごく嬉しい。ありがとう」

すると、田中がいつも通りのえくぼの出来た笑顔で「奈々子さんには何度も助けてもらってますから。僕も少しは奈々子さんの力になりたいです」と言って、お肉を口に放り込んだ。

-もう、十分力になってるわよ。

そう思いながら、でもまだまだ教えることもあるわ、と田中への気持ちを胸の中にしまった。




食事を終えた二人は、酔い冷ましに散歩しながら渋谷駅に向かう。

宮益坂下で信号待ちをしながら、奈々子はもう少し田中といたい、離れたくないという思いが募っていた。

明日は年末年始休暇の最終日。田中にギュッと抱きしめてもらったら、明後日からの仕事も頑張れる気がする。

その気持ちを正直に話すべきか迷いながら、とりあえずカフェに寄る提案をしてみる。

「コーヒーでも飲んでいかない?」

すると、田中が待ってましたと言わんばかりの表情でニコッと笑った。

「コーヒーは明日の朝食で良いですか?」

ーえ・・・?

奈々子が戸惑っていると、田中はスマホを取り出しネット検索を始めた。

「六本木のグランドハイアットが空いてそうです」

そう言うと、田中はすぐに電話をかけて部屋を取り、タクシーを止めた。



ホテルの部屋に入り、二人だけの空間になると、奈々子はたまらず田中にギュッと抱きつく。

昔から甘えるのが苦手な奈々子も、田中になら全力で甘えられる。それは、田中が全力で甘えてくれるからだと思う。

難しい言葉だと、好意の返報性と言うらしいが、一般的に、相手から何かを受け取った場合、そのお返しをしようという感情が湧く。

「好意」には「好意」を返そうとする。好意を返していくうちに好きになっていく・・・ということらしい。

奈々子の場合、「甘え」には「甘え」でお返しする、そんなところだろうか。

しばらくして、二人はベッドで寝転びながらテレビを見始めた。まるで家にいるかのように寛ぎながら、奈々子は自分の情緒が安定していくのを感じる。

そして、結局寝落ちしてしまった田中の頰に、奈々子はそっとキスをして眠りについた。

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ついに奈々子に転勤の話?奈々子田中の今後は!?