このコラムの著者、マーク・ダフィ(56)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。趣味のホッケーは結構うまい。◆ ◆ ◆無数に生み出されるゴミのような広告に紛れて、2017年には数少ない素晴らしい広告も生み出された。本稿ではそれら素晴らしい広告をゴミから掬いだして皆さんにご紹介したい。順番に特に意味はない。選ばれた基準はたったひとつだ:広告がどれだけクリエイティブにプロダクトを売るか。プロダクトの本質ではない社会的な意義だとか人生の意味を問いかけてくれるとか、そういった内容はまったく評価していない。広告の評価は広告としてするべきだろう。どれだけプロダクトの売上につながるかだ。

1. マヒンドラトラック「ヘビー」(南アフリカ)

インドの自動車ブランドであるマヒンドラ(Mahindra)のトラックは2.5トンを牽引することができる。この重さを実感させるために演出したのがこのCMだ。3年間の意識不明状態から起きた男性が、(元)奥さんと弟のあいだに子どもができたことを告げられるという「重い空気」をトラックが悠々と引っ張っている。エージェンシー:ジョー・パブリック(Joe Public)、ヨハネスブルグ。

2. ラノディエール葬儀屋(カナダ)

葬儀屋の広告はたいてい経営者とその息子が黒いスーツを着て、微笑(あくまでも微笑み)をたたえた写真になっている。モントリオールのラノディエール葬儀屋(Lanaudière funeral home)はちょっと違った方向性を狙ってくれた。タイトルは「一つひとつの死に、個性がある(Every death is unique)」だ。ストーリーテラーなんて肩書を名刺に入れてしまった連中には、この広告から本当のストーリーテリングを学んで欲しい。コピー部分を拡大したものが下だ。

 

(上)1923年、アメリカ人騎手フランキー・ヘイズは彼の馬がレースのゴールを駆け抜けた瞬間に心臓麻痺で亡くなった。ヘイズは死んだ状態でレースに勝利した歴史上唯一の騎手となった。一つひとつの死に、個性がある。

 

(下)服の仕立て屋フランツ・レイヘルトはエッフェル塔の最初のフロアから飛び降りて亡くなった。これは彼が最初に発明した、パラシュートの実験だった。一つひとつの死に、個性がある。
このキャンペーンのプレスリリースによると、「それぞれの人物に適した葬儀を行うことの意義に気付いてもらう」ことを目的として、このキャンペーンは作られたという。このストーリーを伝えるイラストも見事だ。エージェンシー:ブラッド(Brad)、モントリオール。このエージェンシーは、最近の私のお気に入りのエージェンシーだ。

3. ハンドガンによる暴力に反対するイリノイ評議会「テディ・ガン」

公共広告や非政府団体による広告は通常、含まないのだけれど、このFCBシカゴとディレクター、ベン・フラハーティ氏による、このスポットは非常にシンプルかつパワフルで、メッセージが強烈に胸に響くようになっている。もちろん、銃反対の広告は、まったく意味をなしていないことが近年は明確になってしまっているのだけれど。ビデオではテディベアを製造するにあたり、どれだけ細かい規制が存在しているかを説明したあと、「ただしテディベアが銃ならば、その限りではない」と、アメリカにおいて銃を販売・入手することの異様な簡単さを端的に説明している。プロダクトを売る、という本稿のフォーカスとこれはズレてしまったが、このクリエイティブの才能には敬意を払うべきだ(グレイNYCによる銃による暴力防止のための2013年のコマーシャルも見ていただきたい)。

4. ジョリー・ランチャー(プエルトリコ)

 

「Suckし続けろ(※Suckには飴などを舐める、という意味もあれば、下手だ、ダサいといった意味もある)」というこのコピー、おそらく公式のではないかもしれないが、良い広告には違いない。時系列を使った下らない広告のなかでは最高の出来じゃないか。エージェンシー:ヤング・アンド・ルビカム(Young&Rubicam)、サンフアン。

5. BMW(アメリカ)

「運転を止めたくなくなる」というコピーで締めくくられるこのコマーシャルのメッセージは「無制限のマイル保証」だ。クリエイティブは完璧。このキャンペーンにはふたつコマーシャルがあるが、このビーチ版がベストだ。エージェンシー:KBSニューヨーク(KBS New York)。

6. Google ピクセル2(アメリカ)

Googleのプロダクト、しかも90秒以上のCMということで、通常ならこういった広告はリストに入れたりはしないのだけれど、これは良い広告なので紹介したい。ちゃんと紹介すると1時間はかかるかのようなコンテンツが2分以内で、しかも面白く紹介されている。Appleの「我々のデバイス、かっこいいでしょ。この映像と音楽もかっこいいでしょ」という広告よりも、よっぽどデバイスを欲しくなる仕上がりだ。エージェンシー:ドローガ5(Droga5)。またついでにこちらのAMV BBDO(ロンドン)によるYouTubeスポットも紹介しておきたい。

7. スマート・フォー・ツー(ドイツ)

最初に表示される文章は「オフィスでのパーティに到着して貴方が最初に目にするのは、片思い中の相手が経理のボブとキスしているところ」。それがスマートカーがすいっと画面を横切っていくつかの単語を落としてしまい、「オフィスでのパーティに到着して貴方が最初に目にするのは、片思い中の相手」に変えてしまう。そして現れる「人生は貴方が駐車している時間を待ってはくれない」というコピー。小さなスマートカーであれば駐車も早いというセールスポイントなわけだ。クリエイティブはBBDOベルリン。素晴らし過ぎて嫉妬しそうになる。広告制作の支出も10ユーロぐらいだ! 同じキャンペーンには他にも2つのスポットがある:「サルサ・クラス」「ストーブ」【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら 】Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)