新聞販売店のスタッフが飲食店の出前を配達する。国内最大級の出前仲介サイト「出前館」は人手不足を受け、配達シェアリングの取り組みを拡大している(写真:夢の街創造委員会)

久々に家族や親類がそろう正月。すしなどの出前を取る機会も増える。その出前を配達するのが近所の新聞販売店のスタッフだったら、さぞかし驚くだろう。しかし、そんな状況はすでに出現している。あらゆる業種で人手不足が深刻化する中、出前の配達戦力もシェアする時代がやってきた。


新聞販売店のスタッフが、飲食店スタッフから料理を受け取り、出前に出発する(写真:夢の街創造委員会)

国内最大級の出前仲介サイト「出前館」は、新聞販売店との協業で配達スタッフの確保に乗り出した。出前館は外食チェーンなどの加盟店と、食事を宅配してほしいユーザーを仲介するウェブサイト。ユーザーが、出前館のサイトにアクセスして食べたいものを注文すると、最寄りの店が配達する。支払いは現金だけでなくクレジットカードやアップルペイにも対応しており、店側には配達スタッフの代金管理業務を省けるメリットがある。

配達機能を持たない店も加盟可能に

ユーザーと店双方にとっての高い利便性が人気を呼び、加盟店舗数は現在、1万5000店舗を超えるまでに拡大。「ガスト」や「ドミノ・ピザ」など大手もこぞって活用する。アクティブユーザー数は2017年11月末時点で245万人に上る。


新聞配達用のバイクに出前館オリジナルのボックスを取り付け、出前に使う。保冷・保温バッグを最大4個収納可能だ(写真:夢の街創造委員会)

ユーザーにとって選択肢は多いほうがよい。加盟店舗数の拡大は出前館を運営する夢の街創造委員会にとっても、成長の必須条件だ。だが、配達機能がない店は加盟できないことがネックとなっていた。そこで、配達スタッフを出前館側で提供する仕組みを構築した。名付けて「シェアデリ」。デリバリー機能を複数の加盟店でシェアするという意味だ。

出前の配達にはバイクと人が必要になるが、出前館側は自ら抱えず、2016年12月に業務提携した朝日新聞の販売店ASAが提供する。新聞販売店でバイクが稼働しているのは、朝刊を配る早朝と、夕刊を配る午後2〜4時ごろだけ。ちょうど人のおなかがすく時間帯は稼働していない。バイクが空いている時間帯に出前をしてもらおう、というのが今回の試みだ。


新聞販売店の中には出前館専用のバイクを別途購入する店もある(写真:夢の街創造委員会)

運ぶのが料理だけあって、普段新聞を配達しているバイクをそのまま使うことはできない。出前館専用のバイクを別途購入している店もあれば、新聞配達用のバイクに出前館オリジナルのボックスを取り付けるだけの対応にしている店もある。

出前の配達スタッフは、実は新聞を配っているスタッフではなく、販売店側が別途アルバイトを募集している。条件はその販売店の近辺に居住し、その地域を知り尽くしていること。出前館は注文時に配達までの待ち時間も表示しており、配達スタッフが道に迷えば遅配が起きるからだ。

その意味では新聞の配達スタッフ自身が出前館の配達も手掛けたほうが確実ではあるものの、新聞配達のスタッフは新聞の配達時間帯以外の時間は学校に行っていたり別の仕事に就いていたりして必要人数が確保できない。新聞販売店自体に“土地勘”は蓄積しており、出前館がバイクに取り付け可能なポータブルナビゲーションも提供することで補完している。

出前の教育用スマホアプリも用意


シェアデリ向けにオリジナル容器を用意し、汁物のこぼれを防いでいる(写真:夢の街創造委員会)

料理の配達は難しそうだが、汁物はオリジナルの容器でこぼれを防ぎ、保冷・保温ボックスを使って傾きも最小限度にとどめられるようにした。配達先とのやり取りも含め、マニュアルや教育用のスマホアプリも用意、新たに参入する販売店には2週間の研修受講も義務づけている。

初期投資、アルバイトの募集、アルバイト料の支払いはいずれも販売店の負担だが、配達手数料は飲食店側の負担だ。シェアデリは1回の注文金額1500円以上で利用可能で、配達手数料は30円〜注文金額の3割など、地域や店によってバラツキがある。配達手数料を負担する意思がない飲食店は加盟できない。

必要と思われる人数のアルバイトを雇い待機させていても、それに見合う注文が入らない、という事態がシェアデリ事業に参入する販売店にとっての最大のリスクだ。そのリスクを回避させているのが出前館に蓄積されたビッグデータだ。エリアごとに曜日や時間帯、天候に応じて、過去にどのくらいの注文が出たのかのデータを持っており、そこから配達に必要な人数を割り出している。

シェアデリのサービスエリアも厳選している。配達拠点を決める際は、月間の注文がコンスタントに450万円以上見込めるエリアを抽出。そのエリアの新聞販売店にシェアデリ業務を担えないか打診している。

シェアデリでは、想定以上に注文が入った場合に備え、新聞配達のスタッフをヘルプに入れる対応もしている。それでもキャパを超える場合は、ウェブに表示する配達までの待ち時間を延ばすことで注文数を調整している。どのくらい待ち時間を延ばすとどのくらい注文が減るのかも、過去のデータによって割り出せるそうだ。

新聞は販売部数の漸減が続き、新聞販売店の経営状態は年々厳しさを増している。販売店の疲弊は部数減を加速しかねないだけに、新聞社にとっても販売店の収益多角化は課題だった。そこに登場したシェアデリ事業は販売店・新聞社双方にとって干天の慈雨。「配達用バイクや配達ノウハウといった新聞販売店の強みを生かせる」と販売店も好意的に受け入れた。

夢の街創造委員会は当初、朝日新聞社以外の新聞社にも声をかける意向だったが、先にアポイントがとれた朝日新聞社に義理を立て、今後は「ほかの新聞社とは組まない」(夢の街創造委員会の中村利江代表)という。

シェアデリを導入した飲食店の反応はどうか。2017年6月にシェアデリを導入したハンバーガー店の店長は「設備投資や交通事故のリスクを考え、デリバリーには二の足を踏んでいた。シェアデリは売上増に貢献している」と笑顔で話す。配達機能が元からあり出前館に加盟している飲食店でも、自前での配達をやめ、シェアデリに切り替える店舗が出始めている。配達手数料を支払ってもなお、出前スタッフを雇わずに済むため、固定費の削減効果は大きいうえ、「自社配達では行けなかった遠いエリアまで配達してもらえる」という声もあり、新規顧客の開拓に一役買っている。

シェアデリ拠点数を3倍超に拡大へ

2017年3月に神奈川県相模原市のASAが業務を開始してから9カ月。ASAに加え、寿司の茶月など宅配インフラを持つ事業者にもシェアデリ拠点は拡大している。現在の拠点数はASAを中心に首都圏に16、大阪府と福岡県にそれぞれ1の合計18。出前館では今年8月までに現在の3倍超の60拠点に拡大したい考えだ。


出前館が手掛けるシェアデリのさらなる拡大には、配達スタッフの安定的な確保に加え、良質な配達サービスを提供できるかもカギを握る(写真:夢の街創造委員会)

シェアデリを伸ばす上で課題はないのか。飲食店の人手不足対策で始めた取り組みだが、やはり配達を担うスタッフを安定的に確保し続けられるかがポイントになる。シェアデリ事業に参入した新聞販売店も知恵を絞っており、中には出前に電動アシスト自転車を使う店もある。運転免許がない人やシニアも活用できる。

また、配達スタッフの質も大事だ。スタッフの接客態度が悪ければ、飲食店や出前館に対するユーザーの印象が下がる。ユーザーと飲食店双方に継続的に使ってもらう上でも、シェアデリ拠点は配達スタッフの接客態度や習熟度に目配りする必要がある。

こうした課題を乗り越えられれば、シェアデリには商機があるといえる。出前需要は堅調に推移しているからだ。外食産業が総じて苦戦を強いられる中、出前館を運営する夢の街創造委員会は、目下5期連続で増収・営業増益が続いており、この5年間で時価総額は60億円から880億円へと、およそ15倍になった。新聞販売店との協業で始めたシェアデリは、出前館のさらなる成長エンジンになるか、その成否が注目される。