AI研究、次に稼げる分野は材料!?

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 産業界がビッグデータ解析や人工知能(AI)技術を材料開発へ用いた「マテリアルズ・インフォマティクス」(MI)の応用を本格化している。これまで大学などの研究者が解析手法を開発し、データベースなどの研究環境を整えてきたが、有効性を認めた企業でも事業化が進む。産業競争力に直結するMIの活用に向け、今後は学術界の役割が問われると同時に、産業界も事業化戦略を問われる。

 囲碁でのAIの躍進は華々しい。米グーグル系の英ディープマインドは過去の棋譜データをAI「アルファ碁」に学習させた。そしてAI同士で対戦を繰り返して腕を磨き、世界のトップ棋士を次々と破った。

 そして棋譜データが不要な独学する「アルファ碁ゼロ」を開発。自力で新しい“定石”を作ることに成功した。実は新材料開発の世界でもAIが“定石”を見いだし、新たな設計指針になると期待されている。

 物質の結晶構造を囲碁の盤面に例えるとわかりやすい。囲碁は19×19路の計361の格子点上に黒と白の石を交互に打つ。MIでは、例えば結晶の7×7×7の343格子に約60種の実用元素や空隙を配置し、物性から材料機能、エネルギー安定性から製造可能性などを推定する。

 生命科学や気象、社会学など、AI技術や情報科学を取り入れる研究領域は多くある。中でも材料研究はデータの質が高く、目標となる性能や原理が明確だ。つまりAIに与えるデータが良質で、学習の指針も立てやすい。

 物質・材料研究機構の橋本和仁理事長は「MIが完成すれば従来の研究手法を覆す破壊的なツールになりえる。日本はこの開発競争に負けられない」と強調する。データを基にコンピューター上で物質の性能を推定すれば、大幅に開発期間を短縮できる。

 MIは産業競争力に直結する。旭化成の中尾正文副社長は「MIを始めてすぐに、これは有用だとわかった。年単位でかかっていた開発期間が数カ月になった。化学産業を装置産業からサービス産業に変えるポテンシャルがある」と期待する。重厚長大型の素材産業が、ファインケミカルのような研究開発と多品種少量生産を組み合わせたサービス産業に変わるかもしれない。

 ただ材料の性能は結晶構造だけでは決まらない。多くの材料は複数の結晶構造が入り交じる多結晶体で、結晶粒と結晶粒の界面などの組織構造が材料の機能に大きく影響する。

 囲碁の碁石を盤面に置くように元素を入れ替えるだけでは、材料の極一部だけしか検討できない。物材機構統合型材料開発・情報基盤部門の出村雅彦副部門長は「たった56グラムの鉄をシミュレーションする計算資源を、人類はまだ獲得していない」と指摘する。

 材料開発のすべてをAIに任せることはできない。どんなデータを集めてAIに学習させ、残りを研究者が補うか、試行錯誤が続いている。物材機構の伊藤聡情報統合型物質・材料研究拠点長は「米グーグルも材料科学をAIのターゲットに据えているが、材料の専門家でなければAIの解析結果を生かせない」と指摘する。

費用対効果計れず、必要データ数「正解ない」
 物材機構はMI研究をけん引してきた。27万3830物質の結晶構造データ、29万8000件の特性データを収録したデータベースを整え、物材機構の連携企業には第一原理計算などの解析ツールを含めて研究環境を提供している。また鍛造や溶接などの製造プロセスと材料組織、材料特性データから、材料の疲労寿命や脆化などの性能を予測する統合システムを開発。製造装置のセンサーデータをMIに活用する仕組みを整えた。

 企業にとってはMIを活用する際に、自社保有データに物材機構のデータを加えて解析範囲を広げられる。最も複雑な製造プロセスのデータも扱う仕組みも用意された。