1区、2区の走りが優勝争いのカギを握る。どの大学が抜け出すか。

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今年の箱根駅伝は、ひさしぶりに優勝校が予想しづらい「戦国駅伝」になっている。前哨戦となる昨年11月の全日本大学駅伝で神奈川大学が優勝し、青山学院大学と東海大学という「2強」に割って入ってきた。どこに注目してレースを楽しめばいいのか。「勘所」を紹介しよう――。

■優勝争いは青学大、東海大、神奈川大の三つ巴

「ハコネは祭りのようなものだ」

出場校の監督には、箱根駅伝をそのように言い表す人がいる。“祭り”とは言っても“遊び”というニュアンスではなく、その盛況ぶりを指した表現なのだろう。周囲の熱狂は選手を鼓舞し、時にリズムを狂わせる場合もある。ひょっとすると、選手のリラックスを促す監督の意図を表しているのかもしれない。

94回目となる箱根駅伝の季節が巡ってきた。

今大会は、原晋監督率いる青山学院大学が席巻した過去3大会とは様相が異なる。主導権を取り得るチームが複数存在しているのだ。これは2011年の第87回大会以来の混戦になると予想される。いわば“戦国駅伝”の再来だ。

2011年の大会で優勝した早稲田大学と2位東洋大学の差は21秒。5位明治大学までの差も8分強だった。最近の大会では1位から5位までの差がほとんどが10分を超えていることを考えると、いかに混戦だったかがわかるだろう。シード権争いに至っては7秒の間に8位〜11位がなだれ込んでいる。

今回もチームの戦力は拮抗しているが、優勝争いのできる有力校は限られる。ひとつは青学大だ。昨年度、3大駅伝と言われる出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝を制し、箱根駅伝では3連覇を達成した。箱根で勝つ味を知る5人の選手が今回も登録メンバーに名を連ねている。

もうひとつは東海大だ。昨年度、高校陸上界の実力派ランナーがそろって入学し、2年生となった彼らの成長と共に戦力を充実させてきた。今年の出雲駅伝はスピードランナーを多くそろえる東海大が優勝をさらい、青学大は2位だった。

「やはり、この2校か」

はたから見ればそんな思いを抱く人々も多かったはずだ。しかし、そこに割って入ったのが神奈川大学だ。出雲駅伝より距離が倍以上あり、よりチームの底力が問われる全日本大学駅伝で20年ぶりに優勝を果たしたのだ。区間賞獲得選手は1人だが、8区間の平均区間順位が4位とノーミスのレースを展開し、2強を出し抜いた。神奈川大は、過去の箱根駅伝では連覇の実績もあるが、近年は低迷が続き、第86回大会では予選敗退の憂き目にも遭った。その直後から掲げた「5カ年計画」でまき続けた種が、「7年目」でようやく実り、前回大会(第93回)では5位という結果を残した。

青学大、東海大の2強論が主流を成すなかで、有力校の指揮官たちにとって神奈川大は当初から不気味な存在として映っていた。記録会に多く出場せず、じっくりと調整を重ねていく姿勢から、露出が少ないこともその感情に拍車をかけていたことだろう。神奈川大が優勝戦線に浮上したことが、今大会を混戦たらしめているゆえんでもある。

■青学大、東海大、神奈川大のポイント区間は?

優勝候補3チームの強みを挙げてみよう。

青学大:選手層の厚さ
東海大:スピード型とスタミナ型の選手がバランスよく混在する体制
神奈川大:主力選手の安定感

青学大の場合はここに、経験値、神奈川大の場合は勢いが加わるが、定量的な指標では上記になるだろう。

続いて、優勝争いにおけるポイント区間はどこになるだろうか。過去5大会の内4大会は、総合トップ3のチームが往路で5位以内に入っていることから、往路の展開が分水嶺になりそうだ。中でも要所は1区、2区、5区だろう。

青学大は今季の駅伝シーズンはいずれも1区で出遅れた結果勝利を逃している。選手層の厚さには強みを持っているだけに、箱根でも同じミスを繰り返したくはない。神奈川大は山藤篤司という経験豊富な1区のスペシャリストを擁しており、2区のエース・鈴木健吾との2連打で前半はトップをひた走る可能性が高い。

東海大の課題は2区。12月29日の区間エントリー時点では、前回1年生ながら2区に出走した關颯人が1区。2区には出雲駅伝の1区で区間賞を獲得した阪口竜平が名を連ねた。最長区間の一つであり、各校のエースが集まる2区の出来は、以降に大きな影響を与える。“スピード駅伝”とも呼称させる出雲駅伝では結果を残した阪口だが、箱根路でどこまで対応できるか。まとめると、往路の前半はトップの神奈川大を、青学大と東海大が追うという展開になりそうだ。

そして5区、である。タイム差や順位の変動が起きやすい区間だが、見る限りでは、今のところ優勝候補の中からいわゆる“山の神”が誕生する気配はない。青学大は前回区間8位と無難に走破した貞永隆佑が登録メンバー外となってしまった。神奈川大、東海大も前回はブレーキ区間。つまり、算段が立ちにくい。好走、凡走、鈍走がどのチームに発生するかによって、5区での首位交代劇、あるいは独走に拍車をかけ、逃げ切り態勢が築かれることになるかもしれない。もちろん、逆もまたしかりだ。

往路要所における想定や、復路に残すことができる余力も鑑みて総合的に判断すると、候補3チームの中では、優勝は神奈川大、2位東海大、3位青学大大と予想したい。

■3強を追う、駒澤大、中央学大、東洋大

ここまでに挙げた3チームに食らいつかんとするのが駒澤大学と中央学院大学、少し離れて東洋大学だろう。いずれのチームも総合力は高いが、前述した3つのポイント区間の内、駒澤大と東洋大は5区、中央学大は2区がキーになる。駒澤大には、学生の世界大会であるユニバーシアードにおいてハーフマラソンで1、2位を占めた片西景、工藤有生の2枚看板がいる。区間エントリー時点では片西が1区、工藤が7区。往路、復路それぞれに支柱を配す布陣だが、5区は経験者が卒業したため、未知数だ。

中央学大は1区に大森澪、5区に細谷恭平と経験者を擁し、2人は今季も堅調な仕上がりを見せているが、2区の爆発力が課題。東洋大は実力派ルーキーの西山和弥が1区、全日本大学駅伝の1区で区間賞を獲得した相澤晃が2区に入った。前回大会2区で堅走したキーパーソン、山本修二の区間配置次第では往路優勝争いを展開する可能性もある。ただし、前回復路で堅実に走った3人の選手がメンバーから漏れた。東洋大が総合力で“少し離れる”要因はここにある。

以上の6校が今大会の上位候補。3強に、駒澤大、中央学大、東洋大が挑む。そんな構図で捉えることができそうだ。ポイント区間を終えて各校がどの位置にいるのかを把握しつつ観戦すれば、より熱が入るのではないだろうか。

ここまで上位争いについて見てきたが、勝負の行方を占う上で、もうひとつポイントがある。それは“レースの流れを追う”ということだ。前回の箱根駅伝終了後、流れにうまく乗ったチームと、乗れなかったチームの違いについて書いた(青学大圧勝!箱根駅伝の明暗を分けた「もう一つの要因」:http://president.jp/articles/-/21079)。“レースの流れ”というあいまいな表現に対する解釈として、流れを生み出す要素に「エースランナーの走り」「各区間に点在する要所での粘り」を挙げた。ここでは後者について再度触れておきたい。各区間における要所とは以下の5つと仮定する。これまで往路に絞って話を進めてきたが、レースの流れを左右し得るポイントはその他の区間にも存在している。

●2区:権太坂〜戸塚中継所に至るまでの急登
●4区:小田原中継所に至るまでの終盤。距離変更に伴い、前々回大会まで5区の一部であった細かいアップダウンが待ちうける
●5区:小涌園〜芦ノ湖まで。終盤に差し掛かり、箱根の山を登坂する選手の地力が試される
●6区:函嶺洞門〜小田原中継所に至るまで。山を駆け下ってきた選手を待ちうける約3kmの平地。登りにも感じられ、ペースダウンを誘う
●8区:茅ヶ崎〜遊行寺に至る約9km。15.6km過ぎの遊行寺坂が最大の難所。この頃から気温も上昇傾向となり、ペースダウンの一因にもなり得る

前回大会は、上記のポイントを着実に走りきった神奈川大と順天堂大が最終的に総合上位(4、5位)に食い込み、他方で、下馬評に反して苦戦した駒澤大と東海大は、エースランナーの失速に加え、いずれかにおける取りこぼしが9位、10位という結果となって表れた。上記区間を含む通過情報は、定点計測の速報としてインターネット上で把握することができる。優勝争いだけではなく、同じく混戦が予想されるシード権争いにおいても、ひとつの指標となりそうだ。

青学大の4連覇か、東海大の初優勝か、神奈川大が20年ぶりの戴冠なるか。あるいは、伏兵の駒澤大、中央学大、東洋大が3強を食うか――。

第94回箱根駅伝、まもなく号砲である。

(フリーライター 吉田 直人 写真=吉田直人)