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正月といえば、一年の中でも、お餅を食べる機会が多いシーズンだ。だが、毎年のようにお餅をのどにつまらせて、緊急搬送される事故が起きている。東京消防庁の管内でも、2016年までの5年間で、お餅をのどに詰まらせた計542人が救急搬送されている。

東京消防庁によると、お餅をのどに詰まらせて救急搬送された人は毎年100人近くいる。その多くが65歳以上の高齢者だったという。中には、死亡事故につながったケースもある。とくに1月に最も多く事故が起きている。

東京消防庁は(1)お餅は小さく切って、食べやすい大きさにすること、(2)急いで飲み込まず、ゆっくりと噛んでから飲み込むこと――などを呼びかけている。

最近では、お餅を家庭で作らず、市販のものを買う人が多いが、もし仮に市販のお餅を食べて、のどを詰まらせた場合、製造者に責任はないのだろうか。また、自宅で親戚などにお餅をふるまった場合、お餅を提供した人も責任をとらないといけないのだろうか。福村武雄弁護士に聞いた。

●お餅に問題があるのではなく、食べ方に問題がある

「いわゆる鏡餅ではなく、袋分けされた切り餅を前提に検討してみます。

製造者に責任追及する場合、商品の設計上の欠陥があったり、そのほかの過失による不法行為責任が認められる必要があると考えます。

この点について、コンニャク入りゼリーの製造物責任の有無が問われた大阪高裁平成24年5月25日判決(原審神戸地裁姫路支部平成22年11月27日判決)が参考になります。

この事件は、1歳10か月の幼児が、コンニャク入りゼリーをのどに詰まらせて死亡したことについて、遺族が製造会社に対して、コンニャク入りゼリーの設計上の致命的な欠陥を放置したことなどを理由に損害賠償を請求したものです。

大阪高裁は、コンニャク入りゼリーが、お餅や飴と同じように、比較的窒息事故を起こしやすい特性の商品であることを認めました。

一方で、コンニャク入りゼリー自体に、たとえば発がん性物質などの有害物質が含まれているような『食品自体の危険性』ではなく、『食べ方に起因して発生する危険性』であること、『我が国の食文化として古くから定着している餅による窒息事故の方が断然多いこと』などを理由に、食品自体の安全性に問題があるとはいえないと判断しています。

この判決と比較しても、伝統的食品であるお餅は、それ自体に危険性があるのではなく、食べ方の問題であることは明白です。商品自体の欠陥性は認められないでしょう」

●安全配慮義務違反の責任を問われるケースはありうる

「次に、食べ方についての警告表示の有無による責任も認められにくいと考えます。コンニャク入りゼリーの場合、ゼリーという柔らかくて、幼児に食べさせても危険性が『ない』と誤信する名称を使用していたことも争点になりました。

一方で、お餅がのどに詰まる危険性があることは、わが国では周知の事実であるといってもよく、食事の方法について高度な説明義務は認められないと考えるからです。

したがって、お餅の製造者が責任を負うことは、よほど特殊な商品でもない限り、通常はないと考えます。ただ、海外での販売については、別の観点での検討が必要かもしれません」

家庭やイベントなどでお餅をふるまうこともある。そのお餅を提供して、事故が起きた場合はどうだろうか。

「この場合は、お餅をついたり、ふるまったりした人が作ったこと自体について責任を問われるということは通常ないと考えます。ただ、先ほど述べたように、お餅には窒息の危険性があるということは周知の事実ですので、実際の飲食の際に安全に配慮する必要はあると思われます。

たとえば、老人ホームでお正月にお餅を入所者にふるまうといったような場合、高度の危険性が予見されます。

・お餅の大きさを一般的な大きさより小さめに切り分ける

・すぐに飲み込まないように注意喚起する

・その場から離れずに苦しみ始めた人がいないか確認できるようにしておく

・窒息者が出た場合直ちに吸引できるような体制をととのえておく

このような対応をしておかないと、安全配慮義務違反の責任を問われる可能性はあるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
福村 武雄(ふくむら・たけお)弁護士
平成13年(2001年)弁護士登録、あすか法律事務所所長
関東弁護士連合会・消費者問題対策委員会元副委員長、埼玉弁護士会消費者問題対策委員会元委員長、安愚楽牧場被害対策埼玉弁護団団長
事務所名:あすか法律事務所
事務所URL:http://www.asukalo.com