27回出場、優勝1回のDNA 星稜の立つピッチで見えた点差以上の“差”

写真拡大

取材・文=本田好伸(提供:ストライカーデラックス編集部)

「まるで小学生がするようなミスをするので、『落ち着いてくれ』と心で祈るだけだった」

 試合後にそう振り返ったのは、30年以上にわたって星稜を指揮してくる中で、本田圭佑、豊田陽平、鈴木大輔といった日本代表選手を育て上げてきた名将・河護監督だった。

 確かに、祈る気持ちもわかるくらい、勢いがない星稜の立ち上がりだった。前半は左サイドの長田大樹が仕掛けまくって何度も何度もドリブル突破を見せたが、そこからフィニッシュパターンへとつなげられない。しかも「右サイドが全く機能していなかった」(河監督)と、効果的な形は左サイドにしかなかった。

 ただし「それでも負けない」というのが、全国に27回も出場してきた常連校の強さなのだろうか。ミスがあったとしても、それが決定的なピンチにならない。前半で一度だけ、相手の直接FKから失点の危機を招いたが、GK新保大夢のセーブでことなきを得た。松山工のシュートは前半このFKを含むわずかに2本だった。

 2年ぶり6回目の出場となった松山工を、結果的には全く寄せ付けなかった。特に後半12分に先制点が入ってからの戦いぶり、試合運びは盤石そのものだった。

 河監督が使った交代カードは3枚。後半17分に肥田稜平、後半32分に鈴木旺寛、終了間際の後半40分に森井啓太、いずれもFWの選手だった。これは確かに「追加点を決める」という意思表示に違いないが、1点を奪ってからさらに攻撃の選手を投入して前線の運動量を上げることで、相手の攻撃の芽を早い段階で摘み取って、結果的に中盤から自陣の選手の労力を減らすことができていた。

 さらに、この展開で圧倒的な力を示したのが高岸憲伸だった。

 松本秀太とのダブルボランチのようにも見えるが、松本がアンカーを務め、高岸はより攻撃に力を割いた。「松本が守備でがっつり行って相手をつぶしてくれるし、ボールを奪ったらシンプルに預けてくれる。すごく信頼しているし、安心して後ろを任せられるからこそ、自分が攻撃に行ける」(高岸)。松本との連係がハマっていたことで、高岸は後半に入ってから一段とギアを上げた。

「自分はボールにどれだけ関われるかがすべて。それができればチームが落ち着くから、どれだけ運動量を増やせるかということに意識を置いている」

 本人がそう語るように、高岸がボールを持つと、仲間は自然と前へと動き始める。そして一人が動き始めると、その動きが全体に連鎖していく。前半に左サイドに偏っていたチームは最後、右にも左にも、中央からも攻められるバリエーションを見せていた。前半を「まるで初出場のときの雰囲気のようだった」と河監督が振り返っていたが、そうであるならば、後半に見せた強さもきっと、まだ100パーセントではないだろう。

 27回出場、優勝1回を誇る“星稜のDNA”を選手に継承する名将は、3年前の優勝チームと比較して「自信が一番足りない」としながらも、「いいところはある」と、不敵な笑みを浮かべながらそう話す。

 スコアは1−0だったが、ピッチで繰り広げられていたサッカーの質には、点差以上の差があった。それはおそらく、高岸が意識していた「試合を作る」というところに起因する。どんな展開でも自分たちのペースで試合を進めていき、最終的には勝利へと導く。

 この先100パーセントの星稜が見られたとき、彼らは二度目の栄冠を手にしているはずだ。