「現代の魔法使い」落合陽一(右)と「妄想インベンター」市原えつこ(左)

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『情熱大陸』出演で話題沸騰、“現代の魔法使い”落合陽一が主宰する「未来教室」。『週刊プレイボーイ』で短期集中連載中、最先端の異才が集う筑波大学の最強講義を独占公開!

亡くなった人のロボットと49日間だけ一緒にいられる『デジタルシャーマン・プロジェクト』で総務省の「異能vation」に選出され、第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞も受賞した“妄想インベンター”市原えつこは、学生時代から「倫理のひだに触れにいく」作品を発表し続けてきた。

例えば、なでまわすと喘ぐ大根や、虚構の美女とインタラクションできるシステムなど。

顰蹙を買いかねない――事実「炎上」も起きた――彼女の創作は、しかし伊達や酔狂でなされているのではない。ひとりのアーティストとして日本の文化・風土と真剣に向き合うところから市原の妄想は生まれ、作品に結晶する。

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市原 巫女の恰好してるのはなんでかってよく聞かれるんですけど、一応これ、私の勝負衣装なんです。ふだん大学でお話するときはさすがに浮くから着ないんですが、落合さんの授業ならと思って着てきました。

私は早稲田大学の文化構想学部というところの出身で、もともとは特にアーティストになろうとは思っていませんでした。普通に大学生活を送っていたんですが、3年生の頃になぜか性器崇拝、性器信仰にハマッてしまったんです。

例えば、神奈川県川崎市の金山神社の「かなまら祭り」って、巨大な男根を祀りあげるんですが、衝撃を受けました。性的象徴物って学校では「恥ずかしい」とか「いけません」って教わるものなのに、なんで神聖な神社に祀られているのか気になってしまって。日本人ってもともと農作民だったので、男根のイメージに豊作とか豊穣という意味を込めて信仰してたんだと、後で調べてわかったんですが。

ほかにもいろいろと、性器崇拝の神社以外も回ったんですが、特に感動したのが静岡県熱海市の熱海秘宝館。マリリン・モンローのスカートに風を送ってめくれさせるとか、そういうくだらない仕掛けがたくさんあるんです(笑)。このナンセンスな感じは意外と日本的なメディアアートなんじゃないかと、ひとりで悶々と考えてしまって。

そのほかにも日本には、イメクラとか変なラブホとか、春画とか、いろいろあるじゃないですか。ヤバいな、これは性の大豊作だな!と思ったんですよ(場内爆笑)

それから、日本人の性的イマジネーションを表象する「セクハラ・インターフェース」を大学の先輩の渡井大己さんと作り始めました。これは何かというと、“喘ぐ大根”です。大根をなでると喘ぐっていう、ただそれだけの作品です。

こういうことをやりながら大学を卒業して、某大手IT企業に就職しました。それで、本名を出して会社とひも付けされると困ると思って、ペンネームで活動し始めたんです。「市原」は本名で…。

落合 「えつこ」がペンネームなんだ。

市原 そうです。市原悦子さんって、有名な女優さんがいらっしゃるじゃないですか。だから中学生の頃から先輩に「えつこ」と呼ばれてて。その“パチもん感”がすごく気に入ったので、今に至るまで使っています。

それで、かれこれ2年くらい大根を作っていたんですが、さすがに飽きてきました。もっと体験者の心情を根本からゆさぶるものが欲しいなと思っていた時に、脳科学者の藤井直敬先生と出会いました。

藤井先生は当時SR(代替現実)を研究されていたので、セクハラ・インターフェースとのコラボをさせていただきました(「妄想と現実を大隊するシステム SR×SI」)体験者はヘッドマウントディスプレイをつけて、虚構のお姉さんを見ながら脚をなでる。でも傍から見ると、大根をなでてニヤニヤしてるだけという

この体験者にアンケートをとったところ、8割くらいの方が、5段階評価で「4」(かなり興奮した)をつけてくださいました。女性からは「思春期の童貞男子の気持ちがわかった」という意味深なコメントをいただきました。



それから入社4年目に、人型ロボットのペッパーと出会ったんですが、ペッパーの造形を見ていて気になることがひとつありまして。胸部にタブレットがついてるじゃないですか。そこをみんな触って操作するから、後ろから見てるとセクハラに見えたんですよ(笑)。

この違和感を具現化したいと思い、開発イベントで10人がかりで「ペッパイちゃん」を作りました。タブレットにおっぱいが表示されていて、触ると喘ぐんですが、やりすぎると触ってる人のスケベ顔を写真に撮って、その人の特徴と一緒にツイッター上に流すようになってます。

これ、けっこう話題にはなったんですが…、一度展示した時に炎上。それも、超大炎上してしまったんです。

落合 ツイッターのフェミニズムクラスターなどの敏感な方々には引っかかりますよね(笑)。

市原 「実際に被害にあった女性がフラッシュバックを起こす」など、お怒りの声をいただいたり。その時に叩かれ、ディスられながら反省しつつも考えていたのは、「人ってなんで、人の形をしたものに感情移入するんだろう」ということです

大根を喘がせるのもペッパーを喘がせるのも、私の中では一緒だったんですが、反応がこんなに違った。ここには何かあるかもしれない、と心にとどめておきました。あと、なんでこんなボロクソ言われながらも作品制作をやってるんだと自問自答した結果、仕事の余暇や暇つぶしでやってるんじゃない、私は本気でやってるんだと気づき、退職してアーティストとして生きる覚悟につながったんです。

その少し前にも転機がありました。2015年の2月に、おばあちゃんが亡くなったんです。

私は子供の頃おばあちゃん子で、身内の葬儀に初めて参加して、お葬式ってすごいなと思いました。亡骸にお花を供え、火葬して、お骨を拾ってという儀式を通して、祖母が亡くなったことが腑に落ちたんですね。

人類の歴史上ずっと、いろんな形で行なわれてきた「弔い」の意義がその時わかった。そして、一般家庭にロボットが普及したら、また新しい弔いも可能になるんじゃないかと思いました。それまで「性」をテーマにしていたのが、「弔い」に向かうようになったきっかけです

当時、私は会社員としての仕事で音声アシスタントのアプリをペッパーに移植していたんですが、そうやってペッパーに別人格が宿るのを「憑依」だと感じたことがありました。ある人のその人らしさって、意外と話してる内容よりも、声や仕草や癖にあると思いますペッパーは身体を持った媒体なので、そういう情報も残せるんです

そういう性質を利用して、死後49日間だけ一緒にいてくれるロボットをつくろうっていう企画を文化庁の「メディア芸術クリエイター育成推進事業」に提出しました。この育成プロジェクトで始めたのが「デジタルシャーマン・プロジェクト」です。

ロボットの胸のタブレットには、「四十九日」のカウントダウンが表示されるようにしました。仏教で死者の魂が地上にいるとされているその期間だけ、故人の特徴を持ったペッパーと一緒にいられるという作品です。

「ペッパイちゃん」で一度炎上してるし、その時も私はフルボッコ覚悟で作っていたんです。ところが、今度は燃えなかった。そして「感動した」っていう声が多くて、びっくりしました。応援とか期待の声を多くいただいたり、2017年のメディア芸術祭で優秀賞をいただいたり…。

それと、独立してからは「奇祭」にもハマりだしました。「なまはげ」もそのひとつで、一見非合理的に見えてけっこう理にかなってるんだなと。あれ、「泣く子はいねがー」って一軒一軒まわるのは、集落の治安を維持するためだったりするんですね。だったらその仕組みを模して「ナマハゲノート」みたいな相互監視用のSNSをつくれば、現代の都心でも応用できるんじゃないかとか。

このように、信仰や奇祭の中にある合理性に目を向けて、テクノロジーを使ってアップデートすることに今は取り組んでいます

やっぱり、自分の頭に育った妄想を実体化して社会に語りかけるっていうことが面白くて。私はたぶん死ぬまでやり続けると思います。いろいろ怒られることもあると思いますが(笑)。それで“妄想インベンター”を名乗っています。

落合 ありがとうございました! では対談パートに移ります。

まず、「セクハラ・インターフェース」って、定義はなんですか? “日本人が思うセクハラ”ってこと?

市原 実はセクハラそれ自体は、あまり作品とは関係なくて。「セクシュアル・ハラスメント」という深刻な概念を、「セクハラ」というポップで軽い言葉で略す感じが日本人的だなと思ったんです。この略語に象徴されるような、日本的なゆるい性のとらえ方を表象するインターフェースというニュアンスです

落合 わかるわかる! 俗語としての「セクハラ」だと表現のエグみが減るよね。セクハラってジャパニーズ・マスカルチャーっていうか、あんなにワイドショーで取り上げられなければポップな印象になってないと思う。行為というよりは俗語感が出るんだよなあ。もちろん痴漢行為はあかんけど。

市原 ポップな語感ですよね。セクハラ・インターフェースはジャニーズさんの番組で取り上げていただいたこともあるんです。

落合 性的コンテンツだけどグロや露悪にいかない、東洋的なエロ。

市原 逆に、西洋的なエロスの場合は戒律が厳しい感じで…。

落合 もしくは、「これは完全に“美”だからオッケー」みたいな。パリコレで全裸で歩いても大丈夫、とかね(笑)。

市原 すごい(笑)。日本的なエロスっていうのは、おじいちゃんが縁側で盆栽ちょきちょきしてるような、のほほんとした感じだと思ってます。これは会田誠さんの受け売りですが。

落合 のほほんとしたエロは大事だよね。「性」を露骨に意識するメディアがネット上にたくさんあるのに、欧米の無修正カルチャーと入り混じって、いわゆるジャパニーズカルチャーの修整版アダルトビデオが世界中に出まわっていることに、僕は奥ゆかしさを感じたりします。「隠すんだ」って。

◆この対談の続きは、明日配信予定!

■「#コンテンツ応用論2017」とは?

本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

●落合陽一(おちあい・よういち)

1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピューターが自然に共存する未来観を提示し、今年12月1日、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)。

●市原えつこ(いちはら・えつこ)

メディアアーティスト、妄想インベンター。1988年生まれ、愛知県出身。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す。主な作品に、大根が艶かしく喘ぐ「セクハラ・インターフェース」、虚構の美女と触れ合える「妄想と現実を代替するシステム SR×SI」、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生する「デジタルシャーマン・プロジェクト」などがある。

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)