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●携帯大手3社が2017年にとった戦略

相次ぐ総務省からの指導と、低価格なMVNOの急伸で一方的な防戦を強いられてきた携帯大手3社。だが2016年半ば頃から昨年にかけ、低価格戦略を強化したことで顧客流出の阻止に成功。一転して再び優位な立場に立つに至っている。だが今年は再び動き出した総務省への対応を迫られるとともに、低価格戦略を推し進めたことで低下した収益の改善などが求められ、決して安泰とはいえない。

○顧客流出防止の強化で一転してキャリアが有利に

昨年の携帯電話業界の動向を振り返ると、ここ数年来元気がなかった大手キャリアが、ようやく反転攻勢に転じた1年だったといえるだろう。

大手キャリアに対してはここ数年来、逆風の嵐が吹き荒れていたといっても過言ではない。その理由は、大手3社の市場寡占による市場競争の停滞を嫌い、新規参入事業者を増やして競争を加速したい、総務省が大ナタを振るったことだ。

中でも最も大きな影響をもたらしたのが、2015年末頃に実施された総務省の有識者会議「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」だ。ここでの議論の結果、端末の実質0円販売を事実上禁止するなど、従来の商習慣を大きく覆すガイドラインが打ち出され、大手キャリアは大幅な戦略転換を余儀なくされたのだ。

加えて総務省はMVNOの支援も進め、現在では700社を超えるMVNOが市場参入するに至っている。その結果、従来の半分から3分の1で利用できるMVNOのサービスが人気となり、大手キャリアから顧客が流出。かつてのように端末価格の安さでユーザーを他社から奪うことができなくなる一方、顧客がMVNOに流出し続けるという、大手キャリアにとって圧倒的に不利な市場環境が生まれてしまったのである。

そうした状況に強い危機感を募らせた大手キャリアは、従来の方針を大きく転換。これ以上大きく新規顧客が増えないことを見越し、総務省の支持には従いながらも収益基盤となっている自社の顧客を守るべく、MVNOへの顧客流出を徹底して阻止する戦略に打って出たわけだ。

1つは、低価格のサービスを提供するサブブランドの強化である。ソフトバンクはワイモバイルブランドに力を入れ、低価格でサポートがしやすい「Android One」スマートフォンの充実を図るほか、学割施策を強化し学生層の獲得に力を入れるなどして一層の顧客獲得を進めている。またKDDIはUQコミュニケーションズの「UQ mobile」に加え、昨年1月にMVNOとしても大手のビッグローブを買収。ジュピターテレコムの「J:COM MOBILE」と合わせ、傘下のMVNOを増やし低価格を求める顧客の受け皿を増やした。

そしてもう1つは、より安価な通信料を実現する料金プランの提供だ。NTTドコモの「docomo with」や、KDDIの「auピタットプラン」「auフラットプラン」などがそれに当たるのだが、これらは通信料金が従来より安い代わりに、端末代を値引きしない仕組みとなっている。端末の値引きをせずに通信料金を引き下げるというのは、まさに総務省の要望に沿ったものであり、総務省の要求に応えつつも、安い通信量で自社の顧客を守る手段に打って出たわけだ。

●総務省が再び動く

○再び動き出した総務省、大手キャリアに影響を与えるか

それら一連の施策の結果、大手キャリアの顧客流出は確実に低下しているようだ。実際NTTドコモは、昨年10月27日の決算会見において、MVNOの伸び悩みを受けて、2017年度の契約純増数を220万から130万へと大幅に下方修正したことを明らかにしている。一方で同社の代表取締役社長である吉澤和弘氏は、「自社のスマートフォンやタブレットの契約数が大きく減っているわけではない」と話しており、NTTドコモの顧客は現状維持がなされているようだ。

低価格戦略の出遅れによって、MVNOへの顧客流出を最も懸念していたKDDIの代表取締役社長である田中孝司氏も、昨年11月1日の決算会見で「番号ポータビリティによる(他社への)流出も、グループ全体で見ればほぼ止まっている。アンダーコントロールな状況になりつつあるんじゃないか」と話しており、一連の施策によってMVNOへの流出阻止に目途が立ったとの発言をしている。

ようやく顧客流出阻止に目途をつけることができた大手キャリアだが、現在の調子が来年も続くかというと、そうとは限らない。その理由はやはり総務省にある。大手キャリア、ならびにそのサブブランドや傘下のMVNOが勢力を伸ばしたことで、独立系MVNOの勢いが落ち、3社の寡占体制に再び戻ってしまうことを総務省は懸念。大手キャリアとMVNOとの間に同質・同等性が確保されているかを検証するべく、12月25日に新しい有識者会議「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を実施したのだ。

その第1回目の会議では、特に大手キャリアの「2年縛り」が自動更新されてしまうことを問題視する声や、大手キャリア傘下のMVNOやサブブランドが優遇され、独立系MVNOとの間で競争上の平等性が担保されていないのではないかという指摘などが多くなされていた。参加者の中からは「MVNOと大手キャリアとでは事業規模や資金力などで広大な差がある。MVNOを振興する観点に立つならば、何らかのハンディキャップを課すことも必要なのではないか」(神奈川大学経営学部 教授の関口博正氏)など、大手キャリアに一層厳しい措置が必要との声も上がっていたようだ。

この会議では今後、大手キャリアやMVNOなどへのヒアリングを実施し、今年の3月まで6回にわたって議論を実施して何らかの結論を出すものと考えられる。既に大手キャリアに対する厳しい意見が上がっているだけに、2015年の有識者会議同様、今回の会議が大手キャリアに何らかの逆風をもたらす可能性は十分あり得るだろう。

●大手携帯を苦しめるもうひとつの悩み

○安さを求める顧客に付加サービスを契約してもらえるか

だが総務省以外にも、大手キャリアを苦しめる大きな要素が1つある。それはARPUの低下だ。先にも触れた通り、大手キャリアはここ最近、顧客流出阻止のためサブブランドや低価格な料金プランを提供したのだが、その結果として当然のことながら、顧客1人当たりから得られる料金は減少しているのだ。

実際、ソフトバンクの2018年3月期 第2四半期決算において、ソフトバンク・ワイモバイルの主要回線の通信ARPUを見ると、前年同期比220円減の3790円となっている。同社のARPUの減少は既に長期的な傾向となっており、ワイモバイルへの注力によって通信事業でベースとなる売上を落としている様子を見て取ることができるだろう。

またKDDIも、高い売上を誇るauの契約者数が2500万を切るなど減少トレンドにある一方、UQ mobileなどのユーザー数が100万を超え、大幅に伸びている。それだけKDDIも1契約当たりの単価が低いユーザーが増えていると見られ、収益低下をいかにカバーするかが大きな課題となってくる。

この点について、大手キャリアは既存顧客に対し、充実したサービスやコンテンツを提供することによって、売上を高める戦略に打って出ている。実際NTTドコモは「スマートライフ領域」の事業強化を図っており、金融・決済系サービスは、取扱高が1兆5000億円近くに上り、dカードの契約数も1800を超えるなど好調だ。またスポーツ動画配信の「DAZN for docomo」を展開するなどサービスの充実を図るなど、利用できるサービスの拡大を進めている。

KDDIも同様に、ライフデザイン事業への注力を進めており、有料会員サービスの「auスマートパス」は1500会員を突破。さらに決済サービスの「au WALLET」も、有効発行枚数が2000万を超えているほか、最近ではディー・エヌ・エーから買収して事業展開している「Wowma!」への注力を進めることで、サービスの拡大を図っている。

一方ソフトバンクは、自社サービスの充実度は高くないものの、同じソフトバンクグループ傘下のヤフーが運営する「Yahoo! Japan」との連携を急速拡大。ソフトバンク・ワイモバイル契約者に対し、有料の「Yahoo!プレミアム会員」相当のサービスを無料で提供する施策を展開しているほか、「Yahoo!ショッピング」で買い物をした時にポイントを優遇するキャンペーンなどを実施。ソフトバンクが持つ顧客を生かしてグループ内での売上を高める戦略に出ている。

だが今後は、各社共に一層低価格のサービス利用者が増える可能性が高く、付加サービスで売上を拡大していかなければ、従来通りの高収益体制を確保することは難しくなってくる。料金の安さを求める顧客に対していかに付加サービスを使ってもらうかという難題を乗り越えることが、今年以降大手キャリアにとって大きな課題となってくるだろう。