小熊俊哉が選ぶ、2017年邦楽ベスト10 作り手の意識の変化による“アップデート”感じた一年に

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・PUNPEE『MODERN TIMES』・tofubeats『FANTASY CLUB』・サニーデイ・サービス『Popcorn Ballads』・8otto『Dawn On』・土岐麻子『HIGHLIGHT』・柴田聡子『愛の休日』・ものんくる『世界はここにしかないって上手に言って』・UNKNOWN ME『subtropics』・東京塩麹『FACTORY』・あめとかんむり『nou』

 これまで新譜キュレーションの筆者担当回では、ロックを中心に海外の注目リリースを取り上げてきた。その一方で、2017年はこれまでにないくらい、邦楽が充実していた一年だったと思う。きっといろんな背景があるのだろうけど、どこかで一斉にスイッチが切り替わり、作り手側の意識がグイッと豹変したような気がして、そのアップデート感がとにかく心地よかった。そのなかでも個人的によく聴いた10枚を紹介しよう。

参考:渡辺志保が選ぶ、年間ベスト・ヒップホップ・アルバム10 “ラップが持つパワー”感じた1年に

 まずは自分としても、PUNPEEとtofubeatsは無視するわけにはいかない。新譜キュレーションの第3回で、イギリスの音楽賞であるマーキュリー・プライズを取り上げたが、もし日本にもこういうオルタナティヴな賞があったら、2017年は2人のどちらかが選出されるべきだと思う。

 PUNPEEの『MODERN TIMES』から連想したのは、コーネリアスの『FANTASMA』。謎と叡智とユーモアが無数に散りばめられているからこそ、脊髄反射で興奮してしまうし、誰かと語り合いたくなるという、夢のようなポップレコードだと思う。Spotify片手に遠くから眺めているぶんにも、日本のヒップホップは充実作が目白押しだったが、そのなかでも同作はまったく別の方向を向いていたような気がする。と同時に、2009年にS.L.A.C.K.『My Space』を初めて聴いたときの、世界がひっくり返るような衝撃を思い出したりもした。

 同様の高揚感を、toufbeatsの『FANTASY CLUB』からも感じた。(柴那典さんも新譜キュレーションで指摘していたように)Migosやリル・ウージー・ヴァートといったトラップを復習で聴きまくった今だから気付くことも多い前半、アップリフティングなハウストラックが用意された中間部から、メロウな内省へと再び移っていく終盤と、アルバムを通しての流れがあまりに素晴らしい。それも、ただ単に新しいだけではなく、葛藤も曝け出しているし、時代の混乱とも対峙しながらポジティブな勇気を見せている。そういう意味では、(インスト曲も含めて)シンガーソングライター的な作品とも位置付けられそうで、こういう誠実なアルバムを他ならぬtofubeatsが届けてくれたのも嬉しかった。

 ちなみに、ハウスはまた時代の気分として巡ってきた印象で、2017年の洋楽でいえばJorja Smith X Preditah「On My Mind」やYaeji『EP2』などが象徴的だし、個人的に愛聴したKelly Lee Owensのデビュー作『Kelly Lee Owens』やBlue Hawaii『Tenderness』のように、インディーにもその波は押し寄せている。今挙げたのはいずれも女性ボーカルの作品だが、それらと日本でリンクしているように感じたのが、あめとかんむり『nou』。元・校庭カメラガールツヴァイのもるももるによるソロプロジェクトで、ローファイで陰りのあるトラックと、ラップの合わせ技が癖になる。ほかにもハウスで括るなら、ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)や5lackも参加したiriのEP『life』や、エモ&バンドサウンドに落とし込んだDATSも印象的だった。

 過去作からの飛躍ぶりに驚いたのは、土岐麻子と柴田聡子。Tomi Yoによるプロデュースが圧巻の前者は、本人が売り文句としている「クイーン・オブ・シティポップ」よりも、カーリー・レイ・ジェプセンやチャーリーXCXが、PCミュージック一派など先鋭的なスタッフ陣と制作している未来的なポップサウンドと並べたくなってくる(逆にシティポップ〜ニューミュージックの直系では、見汐麻衣『うそつきミシオ』を推したい)。くるりの岸田繁や山本精一がプロデュースに携わった後者は、次の展開が読めないカラフルなアレンジで新境地を開拓。持ち前のピュアでフォーキーな歌心に、新しい表情がいくつも上乗せされた会心作となった。シンガー・ソングライター系だと、mei ehara『sway』も味わい深い一枚だ。

 いわゆる新世代ジャズの流れで台頭してきた日本のバンドは、同時代の音楽と並べたときにプロダクションの垢抜けなさがどうしても気になったものだが、ものんくる『世界はここにしかないって上手に言って』は一つの正解を手繰り寄せた印象。R&Bなどモダンな音要素も吸収しつつ、キャッチーな歌心と職人的なソングライティングを融合させており、歌ものポップスとして全編飽きさせない。このアルバムにも参加しているドラマーの石若駿は2017年も大車輪の働きぶりで、彼の参加クレジットを追いかけていればフレッシュな驚きには事欠かなかった。CRCK/LCKS『Lighter』はもちろん、本人のソロワーク『Songbook』もジャズの色眼鏡を外して手にとってみてほしい(第2作もリリースされた)。

 その石若やWONKとも接点のある東京塩麹は、ミニマルミュージックの可能性を追求するアカデミックな新鋭アンサンブル。彼らのデビュー作『FACTORY』は、現代音楽を援用したポップ・ミュージックとして昨年の網守将平『SONASILE』に続く好内容だし、『ポストロック・ディスク・ガイド』の改訂版を出すなら大枠レビューで取り上げるべきサウンドでもある。

 海外ではVisible Cloak『Reassemblage』やコンピレーション『Mono No Aware』など、近年のニューエイジリバイバルを通過したアンビエントの傑作が目立った。その辺りとの同時代性も感じさせるのが、やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHI、大澤悠大によるUNKNOWN MEの2作目『subtropics』。陽だまりのような音響がじんわり溶けていく快感は、筆舌に尽くしがたい。ほんのりトロピカルな空気感と内省的(密室的)なトーンが共存しているあたりは、ジャンルこそ全然異なるが、ドレイクの「Passionfruit」やカルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol. 1』、あるいはTAMTAMの『EASYTRAVELERS mixtape』あたりと重なる部分もあるように思う。

 「ロックが停滞気味」と書くのにうんざりしているなかで、8ottoがプロデューサーの後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)と一緒に作り上げたプロダクションは衝撃的だった。打ち込みも交えながらバンドサウンドを再構築し、アレンジやリズムアプローチなどで実験を重ねたことで、名うての中堅バンドが大変身。ナイジェル・ゴドリッチ(Radioheadなど)やブレイク・ミルズ(Alabama Shakesなど)といったプロデューサーたちのモダンな方法論を意識しつつ、8otto独自のソリッドな演奏とGotchらしいパワーポップ的なエッセンスが組み合わさったことで、はち切れそうなテンションが徹頭徹尾に詰まっている。

 こういうふうに、「いいものはいい」だけでは生き残れないことを、ある程度上の世代がはっきり自覚しだしたのも興味深い兆候だろう。元キリンジの堀込泰行が、D.A.N.やtofubeats、WONKらとコラボしたEP『GOOD VIBRATIONS』で、堀込高樹のKIRINJIとは異なる「ネオ」を獲得していたのも象徴的だ。そして何といっても、ストリーミングサービス時代のリアルと向き合い、質・量ともに桁外れすぎる大作となったサニーデイ・サービスの『Popcorn Ballads』は、やはり問答無用のマスターピースである(大作といえば、凄まじいのが同作に参加したCRZKNYの『MERIDIAN』。3枚組160分のヴォリュームだけでなく、ジュークを拡張する破壊的サウンドも規格外!)

 実際、『Popcorn Ballads』のスケール感とフットワークの軽さには大きなヒントが隠されている気がして、2018年は若い世代のロックバンドからも無邪気な野心が飛び出してきたら面白くなりそうだ。志の高いアルバムも少なくなかったが、今のバンドシーンは正解に頼りすぎて、こじんまりとしている気がしなくもない。

 最後に、曲単位ではシャムキャッツ「このままがいいね」、Negicco「愛は光」、あっこゴリラ「ゲリラ × 向井太一」の3曲に強くときめいた。それにやっぱり、SKY-HI「キョウボウザイ」も欠かせない。勇気と情熱をもった音楽に心動かされる一年だった。(小熊俊哉)