リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣より、ドラマ評論家の成馬零一氏、ライターの西森路代氏、佐藤結衣氏を迎えて、2017年のテレビドラマを語り尽くす座談会を開催。前編では、『ひよっこ』『カルテット』『過保護のカホコ』など、2017年に大きな話題となった作品を中心に振り返りつつ、そこから読み解ける各局の傾向や社会の変化について語り合った。

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■成馬「『民衆の敵』は意外な傑作」

西森:10月期のテレビドラマは、女性の群像劇がすごく多かったですね。前のクールはそれほど多くなかったのに、急に増えた印象です。

成馬:しかも、〈男VS女〉みたいな構図の作品が多くて、世相を反映している。ハリウッドでハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ報道があって、Me too運動が広がっている中、奇しくもドラマの流行も連動していった印象です。面白いのが、女性を主人公とした物語が多いのに、脚本を書いているのは男性作家がほとんどなんですよね。『監獄のお姫さま』(TBS)の宮藤官九郎もそうだし、『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ)の金城一紀もそうだけれど、男子校ノリの作品を書いていた人が、女性側の視点から悪い男たちをやっつける話を書いている。

西森:ただ、プロデューサーのクレジットを見ると、『奥様は、取扱注意』は『桐島、部活やめるってよ』などを手がけてきた日テレ アックスオンの枝見洋子さんらで、『監獄のお姫さま』は磯山晶さんが企画・編成でかかわっているので、女性の視点が企画の中に織り込まれているのかなと。

成馬:ちょっと毛色が違いますけど、『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』も女性の視点から描いていますね。たぶん「希望の党」代表だった小池百合子とかをモチーフにしていたのだけれど、代表辞任など一連の騒動が起こったことで、ドラマまで出鼻をくじかれてしまった感があります。

西森:『民衆の敵』は開始当初、それほど期待せずに観ていたんですけれど、回を重ねるごとに面白くなってきましたね。それで、改めて第1話から観てみたら、実は最初からすごくしっかりした作りのドラマでした。

成馬:『東京女子図鑑』をアマゾンプライムでやっていた黒沢久子さんという方が脚本を手がけていて、彼女は荒井晴彦の弟子筋の人なんですよね。今回の連ドラ脚本は大抜擢だったけれど、脚本自体はものすごくよくできていた。でも、作り方がやはりフジテレビで、ちょっと盛り込みすぎ。最初の選挙だけで5話やっても良いくらいで、もう少しゆとりのある展開にしてほしかったです。ただ、脇役の活かし方は上手で、高橋一生とか、最初は脱がせておけば良いみたいな安直な使い方しているように見えるけれど、実は複雑な内面を抱えたキャラクターとして描いていて、良い役でした。

西森:篠原涼子と高橋一生の関係性も良かったですね。恋愛関係ではないけど、すごい信頼しあっていて、バディ感がありました。一生さんの演じる藤堂は、デリヘル嬢と付き合っている設定で、最初はそういう色っぽいシーンを入れるためなのかと思っていたら、そこの関係性も後になるとグッとくるんですよね。

成馬:後から効いてくる。個々のパーツを見ると安直に思えるのに、見るほどに深みが増していく、意外な傑作でした。

西森:あんなに面白かったのにそれが伝わる前に終わってしまったのが残念です。

■西森「SNSで話題になるのは平和な作品」

佐藤:フジ月9枠という視点では、ここ1年の流れをどう見ていましたか? 今年は『突然ですが、明日結婚します』からスタートしています。個人的には、主人公たちが集う場所がものすごく広い高級マンションで驚いたのを覚えています。

成馬:主人公はエリート銀行員で、アナウンサーと付き合っているという設定でしたね。昔のトレンディドラマのノリを、今の時代にあえてやってみたという感じの作品。その後に相葉雅紀を主演に迎えた『貴族探偵』があって、『コード・ブルー』のシーズン3があって、『民衆の敵』と続きました。『突然ですが、明日結婚します』も『貴族探偵』も、視聴率的に振るわなかったけれど、『貴族探偵』は実はミステリー好きや原作ファンには評判が良かったんですよね。『コード・ブルー』のシーズン3は、『リッチマン、プアウーマン』を作った脚本家の安達奈緒子さんとプロデューサーの増本淳さんによる作品で、個人的にこのコンビはフジテレビでも一番実力があると思っています。彼らがちゃんと“仕事と恋愛”を描けば、ここまで高い水準の作品が生まれるということを、改めて認識しました。フジテレビは今期でいうと、『刑事ゆがみ』も『民衆の敵』も『明日の約束』も、すべて水準以上の出来なんですよ。それでも視聴率で苦戦しているのは、フジテレビのブランドイメージが下がってしまっているからで、とてももったいないと思います。

佐藤:一時期、キャスティングの話題性に注目が集まってしまう作品が続いていた印象があります。旬なメンバーが集結するのは嬉しいですが、そうすれば“高視聴率が出る”という安直な姿勢として視聴者に捉えられていたような……。

成馬:それもあるし、フジテレビ独特の業界ノリみたいなのが見透かされているんだと思います。『民衆の敵』で篠原涼子が「愛しさと切なさと心強さと」をカラオケで歌おうとするシーンを入れてみたり、突然、藤原さくらを女子高生役で出してみたり。そういうところに90年代のフジテレビのノリが今も見え隠れしていて、それが安直に映ってしまうんですよ。

西森:たしかに『民衆の敵』では、篠原涼子にかつての作品を思い出させるような演技をさせちゃう感じがあって、なぜ昔のままにするんだろうという疑問がありました。これは、ほかのドラマでもあるんですけど、今の演技を見せてくれれば良いのにと。

成馬:福山雅治が主演だった『ラヴソング』にしてもそうですよね。TBSの火曜10時枠とかと比べると、キャスティングの仕方が時代とズレている感じがしました。SNSとの連動もイマイチうまく行っていない感じですし。作り手は本当に優秀なんですけれどね。

西森:フジテレビ系でも、関テレ制作のドラマは安定して人気がありますよね。

成馬:でも、関テレ制作で一番良かったのは、たぶん『銭の戦争』の路線ですよね。程よいピカレスク感とエンタメ感を融合していて、気軽に楽しめる良さがあったけれど、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』、『僕たちがやりました』、『明日の約束』の三作は、ちょっと敷居が高くなってしまった感じがします。ドラマファンからは評判が高いし、実際のところ隙のない良作なんだけれど、火曜の夜に仕事から帰ってきた人たちが観るにはちょっとハードすぎて辛い内容だったかなと。それで視聴率が下がっているように思います。

西森:作り手が危機感を感じて、クオリティの高い骨太な作品を作ろうとしている意思は感じますけれど。

佐藤:ショッキングな急展開などで視聴者の興味を引きつけようとするのは、SNSでの盛り上がりを期待してのことなのでしょうか。

西森:さっきの作品をショッキングさでとりこもうとしているかというと、またそれとも違うとは思うんですけど今、SNSで口コミで話題になるのって、逆にバカリズムさんが脚本を手がけた『架空OL日記』(読売テレビ)みたいな何も起こらない平和な作品のほうだと思うんですよね。映画とか見てるとわかりますけど、「観る」という動機になるのは、良い作品に対する口コミのほうなんですよね。

成馬:むしろ、次々に過激な展開が起きるような炎上商法的なやり方は、視聴者から拒絶されつつあると思います。そういう手法の有用性は2013年の『半沢直樹』(TBS)がピークで、それ以降は“人を傷つけない優しいドラマ”が求められているように感じます。もちろん、作り手の心情として、人の心をえぐるような“痛いドラマ”を作ってみたいと思うのは当然で、それをやらなければドラマにならないという考え方も理解できます。それに、なにも起こらない物語を作るのは書き手の資質が問われるし、やっぱり難しいです。

西森:何も起こらないのに視聴者の興味を引き続けるって、本当に難しいですよね。それができていたのが、『架空OL日記』とか『ひよっこ』(NHK)なのかなと。

■佐藤「『カルテット』や『監獄のお姫様』は万人受けを狙わなかった」

佐藤:火曜ドラマの『カルテット』や『監獄のお姫様』は、優しいドラマでしたよね。ただ、好きな人とそうでもない人に、割とはっきり分かれたイメージがあります。もしかしたら、作り手側に「わかる人にだけ届けばいい」という思いがあったんじゃないかな、と。万人受けを狙って誰にも刺さらないドラマよりも、少数でもしっかりメッセージが届くような作品がつくりたかったのではないかと感じました。

西森:あの枠は、作家性が強い人が書くときと少女漫画原作のときがあって、作風にも大きな差がありました。それが交互にやってくるようなイメージで、意外とブランドイメージは一定ではない。

成馬:去年の『逃げ恥』は、少女漫画原作の親しみやすさがありながら脚本家の作家性も活きていて、偶然だと思うけれど両面の良さが出ていましたね。、『ダメな私に恋してください』が受けたことで、TBSではあまりやってなかった少女漫画原作のラブコメ風の路線を押し進めていこうと考えて、現在の路線になっていったようです。主人公が女性で、イケメンドラマっぽい作りで、でもちゃんと社会性があるドラマという方向性ですね。『カルテット』と『監獄のお姫様』は、以前から温められていた企画が、たまたまこの時期で放送することになったようで、むしろこの枠では異色作だった。一昔前なら『カルテット』のような作家性の強い作品は金曜ドラマでも良かったのかもしれないけれど、裏にはジブリとかを流す『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ)などがあって、次第に弱体化していった枠なので、自然と作家性の強い作品も火曜ドラマに流れているのではないかと。個人的には今の金曜ドラマも良いですけれどね。『リバース』や『ハロー張りネズミ』はすごく楽しめた。

佐藤:『リバース』や『ハロー張りネズミ』は脇を固めたジャニーズのみなさんの活躍も良かったと思います。“ジャニーズ主演ドラマ=アイドルドラマ”と、先入観を抱かれることが多いように感じていたので。その点、脇役で良い味を出す方が増えてきているのは今後が楽しみになりました。『リバース』でKis-My-Ft2の玉森裕太さんの演技の評価も上がったように思います。

成馬:去年に引き続き、TBSのドラマは全体的に調子が良かったですね。

■西森「『過保護のカホコ』はよく考えてみると怖い話でもある」

佐藤:日テレだと今年は水曜ドラマ『過保護のカホコ』がヒットしました。

成馬:脚本家の遊川和彦さんのヒット作は、なんだかんだで日テレ水曜ドラマ枠から出ていますよね。『家政婦のミタ』もそうでした。『女王の教室』は土曜ドラマ枠でしたけれど。

西森:『過保護のカホコ』は女性をターゲットにした水曜ドラマ枠のテイストと、遊川さんの作家性がマッチした良作で、後になって考えるほど、よくできた作品だったと思います。おとぎ話のようなファンタジックな作風ながら、よくよく考えてみると怖い話でもあって。『明日の約束』で主人公が母親に日記を付けさせられていたけれど、母親が娘を愛情で縛り付ける怖さは、『過保護のカホコ』と共通していますよね。

成馬:いわゆる“毒親もの”ですね。たぶん、この問題を今年最初にテーマとして取り上げたドラマは、2017年1月から放送された『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)ですね。母親役を務めた斉藤由貴の怪演がすさまじくて、精密に作り込んだ物語や設定の面白さを、役者の演技が更に超えていく迫力に圧倒されました。。異常に仲の良い母娘の間にある歪んだ愛情って、すごく現代的なテーマだと思うんですけれど、『お母さん、娘をやめていいですか?』以降もこうした作品が続いているところを見ると、やはり何かしらの社会的な歪みがそこに見て取れるのかなと思います。

西森:毒親については、心理学者の信田さよ子さんという方が2008年に著した『母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き』などの書籍が比較的早い段階で世に出ていて、その後、漫画家の田房永子さんが2012年に描いた『母がしんどい』などで私も知ることになりました。当時は多くの人にとって「そういうことがあるのか」という認識から始まって、今やテレビドラマで奥深い物語が展開されるくらい共有されている問題になったということでしょうね。

成馬:『お母さん、娘をやめていいですか』は、正直なところ、男性目線で見るとよくわからないところがたくさんあったんです。ただ、SNSのつぶやきを見ていると、女性の視聴者がかなり過激な反応を示していて、普段は朝ドラを見て穏当なつぶやきをしている人まで、客観性をすっかり失っていたんです。特に、最後に母と娘の和解が描かれたことに対しては、「こんなに簡単なことじゃない!」という怒りの声が多くて。

西森:そこは本当に大事なポイントですね。『明日の約束』の場合は、最終的に母親が理解できない存在のままで終わっていて、そこが一番評価できると思いました。私が最近のドラマを観ていて嫌な気分になるのは、無理矢理にハッピーエンドにしようとしているのが見えたときで、多くの視聴者もそういう作為性に対して敏感になっているような気がします。物語を終わらせるために、登場人物みんなが改心するということを信じられませんからね。母親が急に考えを変えられる現実はあまりないので、無理やり変わらないほうが、視聴者に対しても真摯だなと思えるんです。それと同時に、母親の抑圧はつらいけれど「嫌い」なののではないとか、そういうことも、すごく丁寧に描かれていると思いました。

佐藤:もしかしたら晩婚化が進んでいる分、昔に比べて親子で過ごしている時間も長くなっているのではないでしょうか。また結婚をしても、里帰り出産をする方が増えるなど、かつてのライフスタイルよりも女性の母親の影響力が増しているのかもしれません。母親の意見との食い違いを感じながらも、自分らしさを貫こうと日々奮闘している女性たちへのエールかな、と。

成馬:斉藤由貴が演じているお母さんは、「恋愛するな」とか、「仕事するな」というような相手を束縛するようなことは基本的には言わないで、むしろ応援してるようにすら見えるんですよ。でも「結婚してもいっしょに住みましょう」という感じで、娘が自分のテリトリーから出ていくことに対してはいつも否定的な感情を持っている。一見、とても寛大なんだけれど、それが最大の抑圧になっているという構造があって、そこに恐怖を感じます。

西森:昔のドラマでもそういうお母さんはいっぱいいたんだけど、それは愛情だからって美談にされてきたんですよね。だから、今見ると「これ毒親じゃん!」って思うことが結構あって。Me tooの問題もそうだけれど、昔は気付かなかったことに、最近はすごく気付く時代になったのかなと思います。

佐藤「多くの視聴者は恋愛よりも、家庭や社会に悩んでいる」佐藤:今期のドラマは特に、恋愛ドラマが少なかったと感じています。多くの視聴者は恋愛よりも、家庭や社会における問題に悩んでいて、そうした風潮がドラマにも反映されていたのかなと。『逃げ恥』には“呪縛”というキーワードがありましたが、昨今では恋愛をする以前の問題として、自分のことをちゃんと肯定して愛する余裕がないのかもしれません。

成馬:そういう視点に立ってドラマを作ろうとすると、男性が主人公の敵になっちゃうんですよね。トレンディドラマの時代から考えると、すごいところまで来てしまったと思います。『監獄のお姫さま』にせよ、『奥様は、取り扱い注意』にせよ、敵は男性だった。しかも、優しく理解のある夫こそが最大の抑圧者だったという物語で、とてもシリアスです。

西森:そうですね。でも無理矢理なハッピーエンドを見せられるのが一番辛いから、ちゃんとリアリティのある結末を描いて欲しいとも思っていて。それが悲しい結末だとしても、納得できるし癒されるんです。逆に女性の妄想はこうなんだろうと浅いマーケティングで描いたようなファンタジーを見せられると、「そういうことではない」と萎えてしまいます。

成馬:西森さんが信じられなくなっているのは恐らく、対立の果てに和解がある、みたいな物語なんでしょうね。逆に、最初からみんな楽しく過ごしていて、波風が起きないコミュニティを描いた作品には癒される。

西森:なんですかね、対立の果てに和解があるものも好きなんですが、そのときの現実の描き方と、和解の方法が急場しのぎに見えないかによるんじゃないですか。『明日の約束』とか、映画ですけど『ビジランテ』見ても思ったんですけど、現実世界のリアリティが強ければ強いほど、最後だけ大団円というのが難しくなると思うんです。『架空OL日記』はすごくこまごました現実にはリアリティがあるんですが、どこか「架空」なので癒されるんですよ。逆にファンタジックな作品でも、物語をハッピーエンドに収束するために、キャラクターが都合よく動かされていると感じると、ちょっとつらくなりますね。現実のキャラクターはそんなに都合よくは動かないと思ってしまうんです。

佐藤:人は、そう簡単に変わらないですからね。だから、どうしていくか、というのを一緒に考えていけるドラマが愛されているように思います。

成馬:それは1クールのドラマの限界を示してもいますよね。短い期間で人物の変化を描くと、どうしても急変した感じがしてしまう。その一方で、朝ドラは半年間、大河は1年間続くから、人物の細かな変化を丁寧に描くことができる。『相棒』や『ドクターX』みたいなシリーズものもそうです。しかも、そうした長いドラマは安定して高い人気があります。

佐藤:その辺の長編作品は、キャラクターがブレなくて安心感がありますね。長く続くことで、世界観がより確立して、どこかに別の世界でそのキャラクターたちが生きているような感覚になります。

成馬:今は現実の方が何でも起こりうるから、フィクションの世界では、「誰も傷つかない優しい世界」が求められているのかもしれませんね。地震は起こるし、いつミサイルが飛んでくるかもわからない世の中だからこそ、フィクションの世界では「変わらない日常」に浸って安心したいというか。『ひよっこ』放送中に、Jアラートで2回中止になったことがあったじゃないですか。あの時はまさに「現実vs虚構」という感じで、現実の方が虚構の世界よりも、波乱万丈で何でもありになってきてるんだ、と感じました。(松田広宣)