トレーニングでADHD患者の交通事故が減るという実験結果が(depositphotos.com)

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 日本では20年ほど前から社会的な注目を集めるようになった発達障害の一つ「ADHD(注意欠如多動性障害)」。注意不足でそわそわと落ち着きがなく、突然気分が変わりやすい、キレやすいなどの特徴がある。

 生まれつき脳内の神経伝達物質のバランスが悪いため、中枢神経の機能に何らかの障害が発生するという説があるが、はっきりした原因はまだ解明されていない。

 子どもの有病率は3〜7%で男性に多く、かつては成人期になると症状が落ち着いて目立たなくなるともいわれていた。しかし今では、その半数以上が成人期になってからも症状が続くということがわかってきた。いわゆる<大人のADHD>だ。

 多動で衝動性があるということは、裏を返せば、好きな分野や得意分野で独自の視点や発想力に繋がるポジティブな側面もある。アインシュタインやエジソン、ピカソなど、偉人として語り継がれる人にはADHDの特徴を示すエピソードが少なくない。

 ただ、日常的生活においては、注意力が持続しない性質は何かと不都合が多い。症状のない人と比較すると「事故に遭うリスクも高い」と指摘されているのだ。

ADHDの危険度は「携帯ながら運転」並み?

 2015年に世界的な医学雑誌『Lancet』に掲載された、デンマークでの192万人を対象にした大規模調査によると、ADHDがある人が早死にする率は、ADHDがない人に比べると、子どもで約2倍、18歳以上の大人で約4倍になった。

 詳細は不明だが、ADHDの死亡者のうち、死因がわかっている人の多くが「事故死」だったという。

 特にADHDを有する人が自動車事故を起こすリスクが高いことについては、過去のいくつかの研究がそれを指摘している。

 たとえば、2014年に『JAMA Psychiatry』で発表されたスウェーデンの研究。ADHDのある1万7000人超のデータを調べたところ、自動車事故を起こすリスクが男性では通常の1.47倍、女性では1.45倍になることがわかっている。

 また、男性の場合は投薬で58%の減少が見込めるものの、女性には違いが見られなかったという。

 ほかには、2013年の米医学誌『JAMA Pediatrics』に掲載された米シンシナティ小児病院医療センターのMegan Narad氏らによる報告では、未成年でADHDを有する人の運転は、「携帯電話ながら運転」と同等の危険度だと報告している。

 さらに、運転中の携帯電話の使用による自動車事故リスクの増加は、ADHDの若者で特に顕著だったという。

ADHD患者の危機感知スキルがアプリで改善

 ADHDを有する若いドライバーの交通事故リスクが高いのは、目の前の危機を感知するスキルが低いことと相関するといわれている。では、危険感知能力を改善する方法として、コンピュータ技術を用いた訓練は効果的だろうか?

 そうした今まで例のなかった研究に取り組んだのは、School of Allied Health(オーストラリア)のC.R. Bruce氏らのグループだ。

 コンピュータアプリケーションを用いたトレーニングで、ADHDをもつドライバーの危機感知能力が変化するか、さらに時間が経過しても持続されるかを調査し、『Accident; analysis and prevention』(オンライン版・2017年10月14日号)で報告した。

 この研究では、ADHDと診断されたドライバー25例を無作為に2つのグループに分けた。「即時介入群」には、「ドライブスマート」というアプリを使って、危機感知のトレーニングを行った。

 もう一方の「コントロール群」は、先に無関係のドキュメンタリービデオを視聴し、その後に「ドライブスマート」でトレーニングを実施した。そのうえで、対象者の危機感知能力をハザードパーセプションテスト(HPT・ドライバー視点の動画を見ながら危険を指摘する試験)を用いて測定。

 その結果、トレーニング実施後のHPTスコアはグループ間で有意な差があり、「即時介入群」には大きな効果が見られた。さらに6週間のフォローアップの中でも、「即時介入群」には有意な維持効果が認められた。一方「コントロール群」内では有意な効果はみられなかったという。

 この研究は、プロジェクトの実現可能性を探るために事前調査として行われたものだ。

 論文の著者らは「ADHDドライバーに対するスマートトレーニングは危機感知能力を大幅に改善し、一定期間持続させる。トレーニングに対する多様なアプローチが、維持を容易にすることが示された。本研究によって今後、本格的な試験が実施できる」と述べている。

 この取り組みは始まったばかりだが、ADHDの行動療法の一環として運転のトレーニングが確立され、その結果事故が減るのであれば社会的にも有用なことだ。ADHDが個性のひとつとして受け入れられ、患者が自分らしく生きていけるよう、日々のリスクを少しでも取り除いていくことが望まれる。
(文=編集部)