自動車市場に活況を与えたクルマから超先取りの最先端車まで

「各部に外国車の影響を受けることが多く、独自性は薄い」と言われがちな日本車であるが、60年を超える日本車の歴史を振り返ると、「外国車に影響を与えた」、「強いインパクトがあった」、「世界初の技術を採用した」、「爆発に売れた」といったエポックメイキング(画期的な)なクルマも思い出すとたくさんある。その中には「壮大な失敗に終わったという意味で印象的だった」というクルマも少なからずあるが、そんなエポックメイキングなクルマをメーカーごと、年代ごとに挙げてみたい。

1)86&BRZ(2012年)

 2000年代後半、トヨタの車のラインアップには、2007年に生産を終了したMR-Sを最後にスポーツカーの名前はなかった。トヨタのラインアップからスポーツカーが消えた理由は「パソコンや携帯電話といったデジタル機器にお金が掛かるようになり、クルマに使えるお金を持っている人が減った」、「若者のクルマ離れ」といった時代の変化が大きかった。

 しかしその一方でトヨタ社内では「若者のクルマ離れを食い止めるには何らかの形のスポーツカーが必要だ」という意見もあり、スポーツカーの開発が始まった。

 そのスポーツカーが86&BRZであるが、86&BRZの開発において譲れない条件には「ボンネットが低いカッコいいクルマにしたい」というものがあった。ボンネットの低いカッコいいスポーツカーを作るには、エンジンは高さの低い水平対向かロータリーにしたいという意見が挙がったが、トヨタに水平対向エンジンやロータリーエンジンはない。

 そんなころ、トヨタとスバルの業務提携が決まったこともあり、「水平対向エンジンをはじめとしたスバルのメカニズムを使ったスポーツカーを共同開発する」という形で生まれたのが86&BRZである。

 86&BRZは2リッターのNAエンジンを搭載するFRのスポーツカーで、十二分な速さは持つが、インプレッサWRXやランサーエボリューションのような爆発的な速さを持つ訳でもなく、スポーツカーにとって速さが重要な性能だった1990年代に出ていたらそれほど注目されなかっただろう。

 しかし86&BRZが重視した「速さよりもクルマをドライバーが積極的にコントロールできるなどの楽しさ」や、スポーツカーとして十分なリヤシートやラゲッジスペースの広さ。さらにスポーツ走行すれば小さくないお金が掛かるガソリン代(=燃費)やタイヤ代といったランニングコストも過度な負担にならない範囲で済む点。そして安くはないけど中古車も含めれば頑張れば買える価格など、2010年代のスポーツカーに求められる要素が超高次元でバランスされており、登場当初の人気はもちろん、現在でも安定した販売台数をキープしている。

 また86&BRZは現実的なスポーツカーということでモータースポーツやチューニングのベースとしても人気となり、若者のクルマ離れなどもあり厳しい時代が続いた両業界にとっても強力な起爆剤にもなった。

 こんなことを書いていると「86&BRZが出なかったら、今頃趣味としての自動車業界はどうなっていたんだろう? 暗く辛い時代が続いていたのではないか」とちょっとゾッとするくらいで、日本にスポーツカーという文化を根付かせつつある86&BRZは歴史に残る名車と断言できる。

2)ミライ(2014年)

 水素を燃料とし水素と酸素の化学反応によりできた電気でモーターを回しクルマを動かす燃料電池車は、走行中排出するのは水だけという究極のエコカーである。しかしクルマは衝突する可能性がある道具だけに水素を積むタンクの安全性や価格、インフラ整備といった課題も非常に多く、量産車という意味での市販化は大変難しかった。

 そんな状況下でトヨタは2014年6月に「燃料電池車を700万円程度で市販化する」という耳を疑うような発表を行い、その後市販化されたのがミライである。700万円という価格は燃料電池車の生産台数や技術レベルを考えれば信じられないほど安い価格で、高価ではあるものの700万円程度の高級車がいくらでもあることを思えば現実的な価格とはいえ、トヨタが本気で燃料電池車の普及に乗り出したことは歴史に刻むべき話題と言える。

※ミライの車両価格は723万6000円だが、ミライには燃料電池車の普及のための購入補助金202万円が適応となるので実質的な価格は500万円台前半と、クラウンアスリートのハイブリッド並となる。

 登場から約3年が経った現在、燃料電池車の普及は進んでいるとは言い難いが、日本が世界に誇れる技術の1つである燃料電池、燃料電池車の普及のため、トヨタとミライには頑張ってほしい。

3)レクサスLC(2017年)

 トヨタの高級車ブランドのレクサスは2005年に日本でも開業したが、レクサスのクルマそのものはモデルが古かったり、トヨタ車を単に高級化したものが多く、ベンツ、BMW、アウディといった直接的なライバルに対するアドバンテージや個性を感じられないモデルが多かった。

 しかし今年登場した高級スポーツクーペのLCは、高い完成度に加え、スタイルやインテリアなど強い世界観を持つなど、高級車にぜひ欲しい強いキャラクターを持ち、今後のレクサスへの期待を感じさせてくれたという意味で強いインパクトがあった。

4)JPNタクシー(2017年)

 日本の路上を走っているタクシーは、クラウンなどの高級車を使う個人タクシーやプリウス、アルファードなどのミニバンもあるが、多くはトヨタのコンフォートやクラウンセダン、日産セドリックセダンといった基本設計が20年、30年前という古いセダンである。

 そのため安全性、室内空間やラゲッジスペースの広さなどクルマに求められる要素がすべて古くなっているのは否めず、トヨタは社会的な責任も強い日本トップの自動車メーカーということもあり、新しいタクシー専用車として開発されたのがJPNタクシーである。

 コンパクトミニバンのシエンタをベースとするJPNタクシーは、シエンタをベースにするだけに広いリヤシートとスーツケースが2個積めるラゲッジスペースを確保しているだけでなく、スロープを使えば車いすのままリヤシートに乗れ、リヤシートには同伴者も1人乗れるという日本の超高齢社会を見据えた優しさも備える。

 基本設計が古いタクシーではほとんど考えられていなかった安全性は自立自動ブレーキ「トヨタセーフティセンスC」、助手席エアバック、サイドエアバッグ、前後のカーテンエアバッグを標準装備し、現代のクルマとして恥ずかしくないレベルに向上。パワーユニットは1.5リッターハイブリッドを使い(燃料はLPG)、燃料代だけでなく資源の有効利用という面でも劇的な進化を果たした。

 飛行機で目的地に着いた外国人が渡航先で初めて乗るクルマはタクシーというケースは多く、そんな外国人がJPNタクシーに乗るとボディカラーを含むスタイルや各部に盛り込まれたおもてなしから日本を素晴らしさを感じてくれそうな気がする。それだけに多くの外国人の訪日が予想される2020年の東京オリンピックまでに日本のタクシーがJPNタクシーに切り替わり、日本の路上の風景も変えることを期待したい。