年末年始に読みたい“おいしい絵本”。ホットケーキはどうやってできるの?

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ブックディレクター 山口博之さんが、年末年始に読みたい“おいしい本”をセレクト。第1回は、甥っ子、姪っ子へのギフトとしてもおすすめしたい、ホットケーキを題材にした絵本。

ブックディレクター 山口博之さんが、さまざまなジャンルより選んだ、「食」に関する本、4冊をご紹介。子どもむけの絵本から専門書まで、それぞれの視点で綴られる食にまつわるエトセトラは、読めば食べることがもっと楽しくなるはず。家でくつろぎながら、または帰省のあいまに、年末年始の課題図書として“おいしい読書”を楽しんでみては。

第3回は、甥っ子、姪っ子へのギフトとしてもおすすめ。『はらぺこあおむし』で知られる絵本作家エリック・カールによる、ホットケーキが題材の絵本。

『ホットケーキ できあがり!』
(偕成社)作:エリック・カール 訳:アーサー・ビナード


2017年の4月から7月にかけて世田谷美術館で大規模な回顧展が開催された、『はらぺこあおむし』で知られる絵本作家エリック・カール。1929年に生まれ、今年で88歳になったエリックは、68年に最初の絵本を出版するまでグラフィックデザイナーとして活躍していたが、絵を描くこと以外にも料理に関心があった人でもあるようだ。あるインタビューで「アーティストにならなかったとしたら、何になりたかったか?」という質問に、エリックはコックと答えている(でも料理はできないらしい)。

『はらぺこあおむし』を出した翌年の70年に出たのが本書『ホットケーキ できあがり!』であり、『はらぺこあおむし』が食べるという経験を通して、虫の成長を描いたものであることを考えると、コックという夢は遠い可能性だったかもしれないが、食べるということがエリックにとって大事なことであるのは間違いなさそうだ。

本書は、タイトルの通りホットケーキをつくるお話なのだが、実際につくる部分は全体の4分の1程度しかない。エリックが大事にしたのは、ホットケーキの素である、「こむぎことたまごとぎゅうにゅうとバターといちごジャム」がどうやって子どもたちのところにやってくるかだった。「きょうは でっかい ホットケーキが たべたいなぁ」と朝起きて考えた主人公のジャックはお母さんにホットケーキをお願いするが、忙しいお母さんはいろいろな材料の調達を逆にお願いしてくる。エリックは、ジャックに小麦を買いには行かせず、黄金色に輝く小麦を刈り取って籾殻を落とし、石臼で挽くことから描き、牛乳からバターをつくり、焼くために薪をくべて火をたくところまで子どもにさせている。しかも、小麦粉は卵を鶏からもらうために餌として食べさせ、牛から絞った牛乳はホットケーキの種だけでなくバターとしても使われるという、食べ物の流通と加工までをさらっと触れてくるあたりが実にうまい。

今の子供に、「これから小麦刈ってこい」とはそうそう言えないが、小麦粉が小麦であること、人間が食べるだけでなく飼料になることなど、食がどういう風景を巡って私たちの口にまでやってくるのかを見事に描いた、時代を超えて読まれるべき作品になっている。

次回に続く。

PROFILE


山口博之(やまぐち・ひろゆき)

編集者/ブックディレクター

1981年仙台市生まれ。立教大学文学部卒業。大学在学中の雑誌「流行通信」編集部でのアルバイトを経て、2004年から旅の本屋「BOOK246」に勤務後、16年まで選書集団BACHに在籍。公共空間からショップ、個人邸まで行うブックディレクションをはじめ、編集、執筆、企画などを行ない、三越伊勢丹のキャンペーンのクリエイティブディレクションなども手がける。最近の仕事に、新木場のコンプレックススペースCASICAのブックディレクション、小説家阿部和重のマンガ批評『阿部和重の漫画喫茶へようこそ!』の編集など。