2018年の元日、第62回ニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)が開催される。

 今大会の最大の注目は、前回、18年ぶりに最多22回目の優勝を飾った旭化成だ。今季から外国人選手が加入し、連覇に向けて戦力は充実している。しかし、昔からの駅伝ファンのなかには、旭化成の現状に違和感を覚える人も多いだろう。


前回のニューイヤー駅伝で18年ぶりの優勝を飾った旭化成

 かつての旭化成は、入社後に鍛えられた高卒の選手を中心に構成されたチームだった。実際に、前々回(99年)に優勝したときのメンバーを見てみると、1区木庭啓、2区小島忠幸、3区川越衛、4区高尾憲司、5区三木弘、6区佐藤信之、7区川嶋伸次。大卒は佐藤と川嶋だけで、他の5名は高卒のランナーだった。この年に旭化成は3連覇を達成。しかし、それ以降は順位が下降していき、2008年には27位に沈むなど、優勝争いに絡むことすらできない年が増えていった。

 旭化成で大卒の選手が少数派だったのは、宮崎を拠点としていたことも影響していただろう。だが、近年は東京で練習することを認めたこともあって、箱根駅伝で活躍した大卒ランナーが急増。現在チームに所属する日本人選手21人のうち、大卒の選手が14人を占める。優勝した前回は、村山兄弟(謙太、紘太)と市田兄弟(孝、宏)という箱根で名を馳せた2組の双子が活躍したのをはじめ、メンバー7人全員が大卒ランナーで固められた。

 このように20年前とチーム構成が大きく様変わりしているが、さらに今季からは、2人の外国人選手が加わった。これは、陸上界でかなりショッキングな出来事だった。「あの旭化成でも外国人に頼らざるをえないのか……」という落胆の声と、「優勝したのに、なぜ外国人選手を入れるの?」 という疑問の声が多く聞かれた。

 ニューイヤー駅伝で旭化成が17年間も勝てなかった最大の原因は、外国人選手が入る区間で大差をつけられてきたことにある。2009年からインターナショナル区間(2区)が設定されたが、パワーの違いは明らかで、日本人ランナーの”弱さ”が露呈した。

 旭化成は前々回、1万mで27分29秒69の日本記録を樹立したばかりの村山紘太が2区に参戦するも、区間24位(23分36秒)。そして前回は、5000mと1万mで日本歴代2位のタイムを持つ鎧坂(よろいざか)哲哉が挑戦したが、区間25位(23分23秒)に終わり、順位を13位から20位まで下げている。

 チームで日本人トップの走力がある鎧坂でさえ、同大会で2区を走った30人の外国人のうち、タイムで上回れたのは5人のみ。区間賞を獲得したビタン・カロキ(DeNA)には、わずか8.3kmで1分22秒という大差をつけられている。「日本人選手はトラックで世界と勝負できない」という現実を叩きつけられた形だ。

 そんな経緯から、今季は33歳のケネス・キプロプ・キプケモイと、24歳のアブラハム・キャプシス・キプヤティチという、2人のケニア人選手が加わった。

 キプケモイは5000m(13分03秒07)と1万m(26分52秒65)で日本記録を大きく上回る自己ベストタイムを持つ。しかし、キプケモイの記録は5年前のものだったため、来日時にはトラックの記録を持っていなかったキプヤティチが、ニューイヤー駅伝のメンバーに登録された。

 キプヤティチは今季、5000mで13分23秒11、1万mでは28分03秒80と、いずれも突出したタイムを残したわけではない。しかし、11月の九州大会では2区(7.4km)を走り、エノック・オムワンバ(MHPS)と17秒差の区間2位。同区を走った9人の外国人選手のなかで2番目という、まずまずの結果を残している。

 キプヤティチは区間賞争いに加わるほどの実力はないものの、前回の鎧坂と比べれば30秒ほどタイムを短縮できる見込みだ。唯一ともいえる弱点がなくなった旭化成は、このまま”黄金時代”へ突っ走るかもしれない。

 ただし、このように外国人ランナーが入ったからといって、旭化成の「日本を代表する世界的ランナーの育成」という昔からの目標が変わったわけではない。ケニア人選手の獲得は、駅伝の「助っ人」というだけでなく、世界を目指すうえでの「日本人選手の練習パートナー」の役割も担っている。

 実際に、市田孝や大六野秀畝(だいろくの しゅうほ)などは、彼らに引っ張られて練習の質が上がっているという。外国人選手との相乗効果がどんな形で表れるのか。旭化成の”進化”を楽しみにしている。

 一方で、旭化成とは逆に高卒ランナーを中心に戦っているのがトヨタ自動車九州だ。

 旭化成時代に、バルセロナ五輪の男子マラソンで銀メダルを獲得した森下広一が監督を務めていることもあって、チーム構成は昔の旭化成と似ている。今井正人ら箱根駅伝で活躍した選手もいるが、日本人選手11人のうち、高卒の選手が8人。外国人選手のカレミ・ズクも豊川高出身だ。ここ2年のニューイヤー駅伝ではどちらも3位と涙を飲んでいるが、即戦力の大卒選手に頼って優勝を狙うのではなく、長期的な育成スタイルで強化を進めている。

 大人気の学生駅伝と、世界に歯が立たないマラソン。実業団チームはその狭間で苦しんでいるように見える。実際に、設楽悠太が所属するHonda、井上大仁が所属するMHPS、神野大地が所属するコニカミノルタなど、駅伝の「日本一」を狙いながらも、マラソンで世界を目指すランナーを抱えているチームは少なくない。

 大迫傑(Nike ORPJT)のようにプロとして勝負する方法もあるが、日本は実業団という独自の”受け皿”が浸透している。現状を考えると、「駅伝」と「マラソン」の両方で活躍できる選手が現れたチームが、日本陸上界にとっての希望の星になるだろう。

 同じルーツを持ちながら、対照的な強化策をとる旭化成とトヨタ自動車九州は、どちらが”正解”なのか。その答えの一端が、元日のレースで示されるかもしれない。

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