「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日年越しスペシャル!『絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時!』」の制作発表に出席した、左から月亭方正、ダウンタウン松本人志、浜田雅功、ココリコ遠藤章造、田中直樹(写真:日刊スポーツ新聞社)

きょう12月31日に「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」(日本テレビ系)の年越し特番「絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時!」が放送されます(よる6時30分〜)。

大晦日の夜の番組編成は、民放各局にとって勝負どころです。視聴者の多くが家でテレビを見ているので狙い目ではあるのですが、裏には『NHK紅白歌合戦』という超高視聴率番組が控えているため、何をやってもなかなか数字が伸びません。

そんな中で、唯一無二の存在感を放っているのが日本テレビの「笑ってはいけない」シリーズです。2006年以降、毎年「紅白」の裏で真っ向勝負をして、同時間帯で民放ナンバーワンの視聴率を誇る人気番組として定着しました。年をまたぐ長時間の特番で、企画内容はただひたすら笑わせるだけのシンプルなもの。ためになる情報も泣かせる要素もいっさいありません。なぜこの番組はこれほど多くの人に愛され、長く続いているのでしょうか。

松本人志さんの一言から生まれた

その理由は大きく分けて2つあると思います。1つ目は、何と言っても「笑ってはいけない」という企画のフォーマットがよくできている、ということです。この企画では、ダウンタウンの松本人志さんと浜田雅功さん、ココリコの遠藤章造さんと田中直樹さん、月亭方正さんのレギュラー陣5人が、1つの空間に閉じ込められます。そんな彼らのもとに次々と「笑いの刺客」が襲いかかってきて、あの手この手で彼らを笑わせようとします。笑ってしまったら、そのたびに罰ゲームとしてお尻を棒で叩かれることになります。

「笑ったら引っぱたかれるってどうですか?」

この企画が生まれたのは、松本人志さんのそんな一言からでした。このアイデアを聞いたとき、番組プロデューサーの菅賢治さんは「ああ、やっぱこの人は天才なんだな」と思ったそうです(参考:菅賢治著『笑う仕事術』ワニブックス刊)。

「笑ったら叩かれる」というのは、ルールがシンプルでわかりやすい。そして、ダウンタウンの2人がお尻を叩かれて悶絶しているところを想像すると、それだけで笑いがこみ上げてくる。菅さんは直感的にこの企画が面白くなることを確信していました。

この企画の核心は「必死で笑いをこらえている人を見て笑う」という二重構造にあります。レギュラー陣は、目の前でどんなに面白いことが起こっても、叩かれたくないので笑いを押し殺そうとします。彼らが必死で笑いをこらえたり、こらえきれずに吹き出したりする様子を見て、視聴者は思わず笑ってしまうのです。

人は、笑ってはいけない状況で笑えることに直面すると、普段よりも笑いがこらえきれなくなってしまいがちなものです。「笑ってはいけない」という縛りがあることで、かえって「笑い」というものを過剰に意識してしまうからだと思います。

松本さんは「笑ったら叩かれる」というルールを設けることで、その場を「笑ってはいけない空間=笑いが増幅する空間」に変えてみせたのです。しかも、笑いを我慢しなくてはいけないレギュラー陣が必死で笑いをこらえている状況は、視聴者から見ても「思わず笑ってしまう状況」となっているのです。

もともと「ガキの使い」では、このような「笑いをこらえる系」の企画がそれまでにも行われてきました。たとえば、「七変化」という企画では、まじめな会議中に芸人が意味もなくさまざまな変装をして、会議に参加するメンバーがそれを見て笑ってしまったら罰金を支払わなくてはいけません。

また、「サイレント図書館」という企画では、静かにしなくてはいけない図書館というシチュエーションで、メンバーが一斉にカードを引いて、運悪く選ばれてしまった人が過酷な罰ゲームを受けます。それを見てほかのメンバーは笑いをこらえる、というものでした。

こういった企画が生まれたのは、企画者である松本さんが、新しい笑いの可能性を貪欲に追い求めてきたからだと思います。彼は単に目の前の人を笑わせるのが得意であるだけではなく、そもそも人はなぜ笑うのか、どういう状況ならより笑いたくなってしまうのか、どうすればその笑いがより大きいものになるのか、といった「笑いの哲学」への深い洞察を持っているのです。

ただ笑いだけを追求する

2つ目の理由は、ただ笑いだけを追求する、という制作者の徹底的なこだわりです。もともと「ガキの使い」という番組自体が、ストイックに笑いだけを追いかけてきた番組ではあるのですが、「笑ってはいけない」シリーズでもその精神はしっかりと引き継がれています。

この特番では、普段だったらバラエティ番組には出演しないような大物俳優などの意外なキャスティングがあって、レギュラー陣をしばしば驚かせています。まじめなイメージのある役者がふざけたギャグを真剣にやっているのを見ると、思わずおかしさがこみ上げてきます。

昨年末の特番では、俳優の斎藤工さんが「サンシャイン斎藤」としてサンシャイン池崎さんのネタを完全コピーして話題になりました。また、過去には、遠藤さんとの離婚が発表された直後の千秋さんが、しれっと登場してレギュラー陣をあぜんとさせたこともありました。大物がまじめな顔でバカバカしいことをやるからこそ、そこに笑いが生まれます。

また、年末の大型特番である「笑ってはいけない」シリーズは、そのスケールの大きさも破格のものです。映画を1本作るぐらいの予算と手間をかけて、さまざまな仕掛けを作り込んでいます。

また、この番組では、年越しの瞬間にも独自のこだわりがあります。年をまたぐような番組では、年越しの瞬間にカウントダウンをするのが普通です。しかし、「笑ってはいけない」シリーズではそれがありません。笑いながら番組を見ていると、いつのまにか年を越しているということになります。

ここには「年を越すことよりも、目先の1つの笑いのほうが価値がある」という番組側からのメッセージが込められているのだと思います。こんなところにも「ただ笑いだけを追求する」というこの番組の姿勢が現れているのです。

国境を超えて多くの人に愛されている

最近、発売されたチャド・マレーンさんの著書『世にも奇妙なニッポンのお笑い』(NHK出版)に興味深いエピソードがありました。「笑ってはいけない」シリーズのルーツになっている「サイレント図書館」という企画は、実はインターネットの動画サイトを通じて海外でも大人気になっていました。

そのため、この企画は正式にロシア、アメリカ、スペインに輸出され、現地でその国の出演者が同じ企画をやる番組が放送されているというのです。「笑いをこらえている人を見るのは面白い」という松本さんの発想から生まれた企画が、いまや国境を超えて多くの人に愛されているのです。

オーストラリア生まれで、日本と海外のコメディ事情にも精通しているお笑い芸人のチャドさんは、「ガキの使い」を例に出しながら、企画力に優れた日本のお笑いは世界でも通用する、と断言しています。日本中の人に愛されている大晦日の風物詩である「笑ってはいけない」シリーズは、日本を代表する「笑いのカリスマ」である松本さんが手がける世界レベルのエンターテインメントショーなのです。