内村光良さん(中央)は今年の大晦日のNHK「紅白歌合戦」で総合司会を務めます

「ほぼ同期のウッチャンが(紅白歌合戦の)総合司会やってる裏(番組)で(僕は「笑ってはいけない」でお尻を叩かれている)。ハッキリ明暗が分かれましたよね」という松本人志さんの言葉が、事の重大さを物語っています。

芸人が「NHK紅白歌合戦」の総合司会を務めるのは1983年のタモリさん以来、34年ぶり2人目の快挙。内村光良さんの起用理由は、「現在のバラエティで最も視聴率が取れる」と言われる「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)でMCを務めるほか、NHKでもコント番組「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」の座長として番組をけん引してきたからと言われていますが、決してそれだけではないでしょう。

松本人志さんの強みが創造力や発想力としたら、内村光良さんの強みは総合力。つまり、さまざまなスキルを兼ね備えた総合力の持ち主だからこそ、「総合司会にふさわしい」と言えるのです。

なかでも“MC=リーダー”としての総合力は、経営者や管理職のビジネスパーソンにも参考になる3つの力から構成されています。

現代のリーダーに求められる“笑顔力”

内村さんは、今年2月に発表された「『理想の上司』ランキング」(明治安田生命発表)で、タモリさん(2位)、池上彰さん(3位)、原晋さん(4位)、所ジョージさん(5位)らを抑えて初の男性部門1位に輝きました。ちなみに、内村さんは昨年5位から4ランクアップ。それ以前の9年間はランク外だったことを踏まえると、「急速に理想の上司像へ登り詰めた」ことがわかります。

同アンケートは「なぜその人が理想の上司なのか?」という理由を「実力がある」「指導力がある」「頼もしい」「親しみやすい」「知性的・スマート」「おもしろい」「落ち着きのある」「明るい」「天才(肌)」「優しい」「熱血」「兄貴(肌)」「その他」という13個の中から選ぶことになっていました。

内村さんが選ばれた理由で多かったのは、「親しみやすい」(30.2%)、「優しい」(27.0%)。この上位2つは、3番目の「実力がある」(11.1%)と大きな差がありました。

最大理由の「親しみやすい」は、内村さんだけでなく5位までの人物イメージにも当てはまることから、「現在求められているリーダー像」であるのは明白。その点、表情のデフォルトが笑顔であり、大物でありながらどこかスキを感じさせる内村さんは、老若男女問わず親近感を感じさせるタイプのリーダーです。実際、内村さんが後輩芸人だけでなく、俳優やアイドルなどからも気軽にツッコミを入れられるシーンは少なくありません。

2番目に多かった理由の「優しい」も、内村さんのイメージにピッタリ。今年3月までMCを務めていた「優しい人なら解ける クイズやさしいね」(フジテレビ系)という番組名は、その証と言えます。

「親しみやすさ」も「優しい」も、それを感じさせるトリガーとなっているのは笑顔。威厳を保とうとして険しい顔をする人や、冷静さを感じさせるために無表情のリーダーをよく見かけますが、“笑顔力”の高い内村さんのように慕われるのは至難の業です。

くしくも現在、ハラスメントの告発で連帯する「#Me Too」が大きな話題となっていますが、物腰が柔らかく高圧的なところのない内村さんは、パワハラとは最も縁遠いタイプ。かつて「俺は芸能人オーラを消すことができる」という迷言を放って笑わせたことがありましたが、そんなエピソード1つとっても、時代に選ばれたリーダーであることがわかります。

一方、あなたの周囲にいる優秀なビジネスパーソンは、どんな顔のイメージでしょうか? 内村さんを見る限り、常に真顔の人や、気難しい顔の人より、笑顔の人のほうが底知れない力や深みを感じてしまうのです。

後ろに立ち、後でやる“後方力”

内村さんの先輩芸人でMCと言えば、ビートたけしさん、タモリさん、明石家さんまさんのいわゆる「お笑いBIG3」。同年代なら、とんねるず、ダウンタウンが挙げられます。いずれも共演者や視聴者にとっては、「オーラが凄い」「厳しそう」というイメージがありますが、内村さんにはいい意味でそれがありません。

心理学の法則に、「人や物のある特徴に影響されて、他の特徴への見方が(良くも悪くも)歪められてしまうこと」を表す“後光効果”というものがあります。その点、内村さんは前述した“笑顔力”が前面に出ているため、共演者や視聴者に、本来持ち合わせているオーラや厳しさを感じさせないのでしょう。

さらに、「オーラが凄い」「厳しそう」と思わせないもう1つのポイントは、内村さんの立ち位置と順番にあります。それは「先に共演者を光らせよう」という“後方力”。もともとテレビ番組におけるMCは権威の象徴であり、昭和の大物司会者・大橋巨泉さんや萩本欽一さんらがそうだったように、自己の存在感を前面に押し出して番組を進めていくスタイルが基本です。

現在でもこのスタイルが大半を占める中、内村さんの立ち位置と順番は真逆。「先に共演者を前面に押し出して、自分は後方からフォローする」というスタイルを採っているのです。特に芸人のMCは、自分のツッコミやボケありきで番組を組み立てていく傾向が強いのですが、内村さんは共演者のタイミングや言動に合わせてツッコミを入れたり、ボケたりするスタイル。

ボケにしろツッコミにしろ、先にやらせてもらえる共演者が伸び伸びと持ち味を出せるのは言うまでもありません。実際、内村さんがMCを務める番組から有吉弘行さん、さまぁ〜ずさん、くりぃむしちゅーさん、バナナマンさんらがブレイクのきっかけをつかみましたが、ジャニーズやAKB48グループなどのアイドル、若手からベテランまでの俳優、アーティスト、文化人といったあらゆるタレントが魅力を発揮できるのです。

インターネットの普及で多くの人々が「好きなときに好きなものを見たり、買ったり、遊んだりできる」という自由を手に入れました。これは言わば、世間の人々が「自分が前に出て、先にやる」という主体的な立ち位置と順番を手に入れたことになります。

だからこそ人々をまとめるリーダーは、「後ろに立ち、後でやる」内村さんのようなスタイルが効果的であり、それが「自分の力を出し切ろう」「リーダーのために頑張ろう」という心境につながるのでしょう。

そして忘れてならないのは、内村さんが「メンバーを前に出して持ち味を引き出しながら、自分の持ち味である柔らかいムードを番組全体に浸透させていること。そのため、無理やりボケなくても、大声を出さなくても、視聴者に「ウッチャンの番組は安心して楽しめる」という印象を与えられるのです。

このスタンスをビジネスパーソンに置きかえると、「部下や取引先を前に出し、先にやってもらう」ということ。この立ち位置と順番は、相手に「話しやすい」「やりやすい」「力を発揮しやすい」と感じさせるとともに、「それをさせてくれるこの人は凄い」という評価を得る効果的なものなのです。

情熱やこだわりと相反する“スルー力”

内村さんがMCを務める日曜昼のバラエティ番組「スクール革命!」(日本テレビ系)を見たことがあるでしょうか。同番組には、山崎弘也さんとオードリーの後輩芸人に加えて、Hey! Say! JUMPの山田涼介さん、知念侑李さん、八乙女光さんの3人が出演していますが、特筆すべきは内村さんの育成方法。Hey! Say! JUMPのメンバーは、当初ボケどころかコメント自体が少なく、お飾りのような存在でしたが、近年では芸人以上の大ボケをかます場面も少なくありません。

この状態に至るまで内村さんは、彼らがしゃべれないときは芸人に振り直したり、スベっても笑って見守ったり、自らボケて盛り上げるなど、何度となく“スルー力”を見せてきました。ダメ出しをせず、「別にいいや」「そうなの?」と失敗をなかったことにしてあげる。あるいは、「そのうち良くなるよ」「これもアリでしょ」と結論を急がずやり続けてもらう。ポジティブな意味で、「現実をスルーできる」「相手のためなら待てる」という器の大きさを感じさせました。

そんなスルー力の素晴らしさを倍増しているのは、内村さんがもともと情熱とこだわりを持つ職人タイプであること。幼いころから映画好きで、高校生になると映画同好会に入ったほか、アルバイトしたお金で機材を買って自主制作映画を撮り、卒業後は横浜放送映画専門学院で学び、2006年、2013年、2016年の3度に渡って夢だった映画監督を務め、脚本も手がけました。内村さんの人生は、どこを切り取っても、情熱とこだわりがあふれているのです。

もちろん本業のコントやキャラクターの作り込みに関しても、業界屈指の職人肌。これまでテレビ業界で「コントに情熱やこだわりのある人は?」と言えば、必ず志村けんさんか内村さんの名前が挙げられてきました。そして、内村さんは今も「LIFE!」などで向き合い続けているのです。

ただし、情熱とこだわりは人一倍であり、それを実現させるスキルやノウハウを持ちながら、共演者には押し付けないのが内村さん流。情熱とこだわりを笑顔の奥に秘められるから、共演者の未熟さやミスをスルーして成長を促せるのです。

内村さんが芸人だけでなく、多くの芸能人から尊敬の念を集めているのは、情熱やこだわりとスルー力という、相反する2面性を持っているからではないでしょうか。その意味で、経営者や管理職のビジネスパーソンは、内村さんのような2面性を見せることで、周囲の心をわしづかみにできるかもしれません。

NHKのセルフパロディは炸裂するか

最後に、話を紅白歌合戦に戻しましょう。本番では、紅白に分かれた45組に加えて、特別企画の安室奈美恵さんと桑田佳祐さんとのやり取りはあるのか? ゲスト審査員の加藤一二三さん、鈴木亮平さん、高橋一生さん、林真理子さん、村田諒太さんら、各界のトップランナーにどんな言葉を投げかけるのか? さらに、出演が予想される旬の芸人たちとどう絡むのか?

その他の企画では、「LIFE!」でおなじみのコントやキャラクターは登場するのか? なかでも、国営放送の堅苦しさを逆手に取ったセルフパロディの「NHKゼネラル・エグゼクティブ・プレミアム・マーベラス・ディレクター」三津谷寛治(内村光良)と、決めゼリフの「NHKなんで」が炸裂したら盛り上がるでしょう。

もう1つ、ファンの間で待望論があがっているのは、千秋さん、ウド鈴木さんとのユニット「ポケットビスケッツ」の一夜限定復活。同ユニットで1998年の紅白歌合戦に出場しただけに、「もう一度見たい」という声があがっているのです。総合司会というトップ・オブ・トップの立場であり、もともと他局番組のユニットだけに、実現は難しいかもしれませんが、「ウッチャンなら何かやってくれそう」という期待感で、放送中もネット上をにぎわせてくれるでしょう。

内村さんは「この話を聞いたとき、本当に驚きました。まったく予想外のことでした」と謙虚にコメントしていました。しかし、今年の活躍と支持の高さを踏まえると、内村さんほど2017年を締めくくるのにふさわしい人はいません。今年の紅白歌合戦は、内村さんの力を得て、視聴率・評判ともに上々の結果を集めるような気がしています。