東海大のムードメーカー、西田壮志。箱根駅伝、出走なるか

東海大・駅伝戦記  第19回

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 箱根駅伝の区間エントリーが発表された。

 箱根初制覇を狙う東海大の区間エントリーで注目をしていたのは、2区と5区だった。

 エース区間の2区経験者は春日千速(ちはや/4年)、川端千都(かずと/4年)、關颯人(せき はやと/2年)と3人おり、阪口竜平(りょうへい/2年)も調子がよかった。2区は各大学がエースを置いてくるので、ここで大きく離されるわけにはいかない。調子のいい、スピードのある2年生を置くだろうと思っていたが、阪口をセットアップした。關を1区に置き、3区の鬼塚翔太(2年)とともに1区から3区までスピードランナーを揃え、ハイペースでの駅伝が可能になった。そうなれば東海大の思惑通り優位にレースを展開できる。

 もうひとつ、注目していたのが5区だ。

 区間エントリーでは松尾淳之介(2年)が入った。松尾は試走タイムで西田壮志(1年)を上回るなど調子がよく、昨年の箱根で4区を走り、今年も出雲を走るなどレース経験も考慮されての抜擢だ。そういう意味では極めて順当な起用だが、まだ西田の可能性がないとも言えない。

 本来、5区はキャプテンの春日が走る予定だった。夏から山の準備を始め、白樺湖合宿では厳しい上りのコースを難なく走り、両角速(もろずみ はやし)監督も「春日が5区を走ってくれれば」と期待していた。松尾は全日本インカレのために山の練習をしなかったが、西田は夏合宿で山上り練習をスタートさせた。白樺湖での山上りでは春日より1分早くスタートしたが中盤で追いつかれ、最後は風と急勾配に全身の筋肉を使い、ゴールした後、しばらく倒れたままだった。

「厳しい、もうダメ」

 帰りの車の中で西田は悲鳴をあげていた。この状態では、今年の箱根は難しいだろうと思っていた。しかし、9月上旬の北海道・紋別合宿中、春日が大腿部疲労骨折で離脱。復帰まで1カ月半を要した。その間、西田は松尾と争い、メキメキと力を伸ばしてきた。

 この急成長してきた1年生が非常に気になるのだ。

 力をつけてきた要因は、「食事」だという。

「高校時代までは食が細くても大丈夫だったんです。でも、大学になって走る距離が倍以上になるんで、『エネルギーになるものを口から取らないとダメだぞ』って監督に言われて……。それで、朝と夜は、ごはんを2杯以上食べることを決めたんです。

 最初はキツかったんですけど、ちゃんと食べると距離を増やしても持久力が増して、故障するリスクも少なくなりました。そこで食べるのが大事だなとすごく感じることができたんです。今では2杯以上が普通になり、嫌いだったピーマンとかも食べられるようになりました」

 食事だけではく、ビタミンや鉄分などのサプリメントもしっかりと摂っている。もともと体は強い方だが、食事を改善した効果だろう。今年はまだ風邪もひいておらず、身体はいたって元気だ。さらに強くなった体で山を試走し、結果を出してきた。

「試走のタイムは特に聞いていないですけど、自分の感覚では予想以上に走れました。自分が得意とする坂だったので、キツかったけど、そんなに苦しさもなかったです。トラックのレースより楽しく走れましたし、監督からは『いいぞ』って褒めていただいたので、自信がかなりつきましたね」

 西田は山への思いが非常に強い。九州学院高校時代から山を走ることを決めて東海大に入学してきたのだという。

「柏原(竜二/東洋大)さん、神野(大地/青学大)さんを見て、山を登ることを高校時代から意識してやってきました。5区は大きく逆転できる区間ですし、自分がそこを走って逆転したり、後続に差をつければ、東海大の優勝に貢献できると思うんです。『山の神』までは意識していないですけど、自分の走りをして、目立ちたいですね。性格的に目立ちたがり屋なので。今回はただ調子がいいからメンバーに選ばれたと、みなさん思っているでしょうし、僕のことは知らないと思います。秘密兵器ってことにしておいてください(笑)」

 飄々(ひょうひょう)とした明るい性格で先輩たちにイジられ、可愛がられている。西川雄一朗主務には「チョロ松」と呼ばれ、ぴったりの愛称に思わずに笑ってしまったが、練習の合間や練習以外では輪の中心にいる。1年生ながらムードメーカーの役割を果たしているのだ。

「みんなにイジってもらえれば、ありがたいです」

 西田自身もそんな状況を愉(たの)しんでいる。

 普段、練習の時は先輩たちといるので、オフの時は同期と楽しむようにしている。今の楽しみはショッピングモールに行き、塩澤稀夕(きせき/1年)と映画を観ることだ。12月はさすがに行けていないが、箱根が終われば、また楽しみにしているという。

「映画はその時期に一番流行ったものを観にいくことにしています。一緒に行く塩澤とは一番仲がいいですね。箱根は出られたら、塩澤や名取(燎太)、他の1年生の分も自分が背負って走るつもりです。他大学では神林(勇太・青学大1年)に負けたくない。高校の時からずっとライバルですし、神林が出雲を走って、すごく刺激を受けました。箱根では区間は違うと思いますが、負けられないという気持ちが強いですし、俺の方が強いっていうところを見せたいですね」

 神林は7区にエントリーされた。4連覇を目指す青学大とは熾烈な優勝争いを展開しそうだ。西田が出走するかどうかはわからないが、走る場合、161cmの小さな体がチームの大きな期待を背負うことになる。

「プレッシャー? 箱根は楽しみしかないです。レースではあまり前に立たれるのは好きじゃないので、前にいる選手は全部抜きたいですね。そのまま単独走で自分のペースで行ければ。秘密兵器として目にモノ見せてやる気持ちで走りたいと思います」
 
 果たして西田は、柏原、神野のような「山の神」になれるだろうか。潜在的には神野と同じような体型で、軽い体を活かして跳ねるように上っていくので”山”の適性があり、”神”になれる可能性は十分にある。もし、西田が走り、「山の神」になれば、東海大最強時代を担う選手になり、他大学にとっては大きな脅威になるだろう。

「走る時は、これって言う勝負曲はないですが、テンポの速い盛り上がる曲を聴いて、テンション上げていきます。それがルーティンなんで」

 出走する選手が確定するまで、西田は準備を続けることになる。松尾はピーキングに少し難があるが、今のところ好調を維持しており、粘り強い走りができる好選手。その壁は高く、出走は厳しいだろうが、西田にとっては先輩のバックアップをしながら箱根を見る経験も決してムダにはならないはずだ。

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