中央学院大の細谷恭平(4年)は“新山の神”候補の最有力ランナーだ(写真・アフロスポーツ)

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 箱根駅伝は“山”があるからおもしろい。往路のアンカーとなる5区は、標高約40mの小田原中継所から国道1号線最高地点(標高874m)まで一気に駆け上がる険しいコース。第82回大会(06年)から最長区間となったこともあり、「山の神」と呼ばれるようなヒーローが降臨した。

 前回から往路の小田原中継所が元の位置に移動。5区の距離が23.2kmから20.8kmに短縮された。以前ほどのタイム差はつかなくなったものの、前回は区間2位(1時間12分49秒)で走った上武大・森田清貴(現・NTT西日本)が8人抜きを演じるなど、まだまだ大逆転が誕生する区間に変わりはない。

 2018年の正月に「山の神」は現れるのか。最も“神”に近い位置にいるのが前回区間3位の中央学大・細谷恭平(4年)だ。前回は夏に右中足骨を疲労骨折した影響で出雲と全日本は欠場。11月はリハビリが中心で、実践的なトレーニングができるようになったのは12月に入ってからだった。「上り」の練習だけを積んで5区に挑んだ。

 箱根湯本(2.5km地点)の個人タイムは20番目で、本格的な上りが始まると強さを発揮。箱根山中で4校をかわして、往路ゴールに7位で飛び込んだ。区間タイムは1時間13分08秒。22秒差で区間賞は逃したが、箱根湯本から芦之湯(15.8km地点)までの「上り区間」のタイムは区間賞を獲得した駒大・大塚祥平(現・九電工)より18秒も速かった。

 今季は関東インカレ(5月)の2部ハーフマラソンで3位。夏には右ハムストリングスを痛めたものの、全日本大学駅伝では最長区間のアンカーを務めた。11月中旬時点の状態は、エアロバイクを富津合宿に持ち込んでいた昨年と比べて、相当いい。今回は万全な状態で5区に登場できるだろう。

 1月2日には「山の神」と呼ばれるかもしれない細谷だが、普段のキャラクターは力強さとは対極にある。なんだか「ふわふわしている」タイプだ。身長170センチ、体重51キロの軽量ボディを持つ細谷は、神野大地(青学大からコニカミノルタ)の走りを分析。脚の運び方、接地の角度などを参考にして、自身の走りに取り入れている

「山上りに強い選手は大きくわけて、2種類のパターンがあると思っています。柏原(竜二)さんは臀筋や脚がゴツくて、ゴリゴリと筋力で押していくんですけど、神野さんは軽量で、ピッチとテンポとで上っていく感じ。自分は神野さんのタイプを目指そうと思いました。でも、山の神なんてとんでもない。全然、自分は神じゃないんで……。それどころか、後輩にもイジられるんですよ」と謙遜する。

 大幅なタイム短縮が期待されるも、「最低でも1時間12分台では走りたいと考えています。目標が低い? いや、自分のなかでは高いと思っていますよ(笑)」と答えている。

 細谷が神野タイプなら前回区間4位(1時間14分07秒)の早大・安井雄一(4年)はどちらかというと柏原竜二に近いタイプといえるかもしれない。身長は細谷と同じ170センチで、体重は6キロ重い57キロ。
 パワーでグイグイと上っていく。前々回に現行より2.4km長かった5区を1時間21分16秒で走破していることを考えると、前回は物足りないタイムだった。大平台(7km地点)の通過タイムが11番目と序盤で波に乗ることができなかったのが原因だ。

 安井は来年2月の東京マラソンへの出場を予定しており、今季は昨季以上に走り込んできた。「1時間12分切りの準備はできています。近年の箱根は、総合優勝するためには往路優勝が必然になっている。自分の走りをしっかりして、区間賞と往路優勝の2つを手にするのが僕の仕事かなと思っています。できれば、後続に1〜2分差をつけたいです」と意気込んでいる。

 安井の持ち味は下りにも強いことだ。前回も終盤の下りでトップ青学大を猛追している。主将として名門ワセダを率いているだけに、今回は往路Vを目指して、攻めの走りを見せてくれるだろう。

「細谷vs安井」。タイプの異なる4年生の区間賞争いはおもしろくなりそうだ。しかも、今回“3強”と呼ばれる青学大、東海大、神奈川大は「初挑戦」となるクライマーが入ることになりそうで、5区は計算しにくい。中央学大と早大は山で一気に順位を上げて、トップを奪う可能性もある。

 では“3強”の5区はどうなのか。青学大は補欠登録された下田裕太(4年)が起用されることになれば爆発力が期待できるだろう。箱根は8区で2年連続の区間賞。昨年の東京マラソンを2時間11分34秒で走っており、実力を考えると期待値はすこぶる大きい。ただし、過去にエース級が何人も5区に挑んできたが、不発に終わったケースも少なくない。

 東海大は前回4区の松尾淳之介(2年)を登録。両角速駅伝監督は「1時間13〜14分」という目標を立てている。神奈川大は3000m障害をこなす荻野太成(2年)の起用が有力だ。大後栄治監督は「条件が良ければ1時間10分台。1時間13分ではまとめたい」と自信を持っているが、どうなるのか。

 他にキャリアがあるのは、前回安井と5秒差の区間5位で走った順大・山田攻(3年)と、前々回区間7位と好走した東京国際大・濱登貴也(4年)だろう。山田は身長160センチ・体重50キロ、濱登は164センチ・48キロ。ともに小柄で、「上りのスペシャリスト」ともいえる選手たちだ。

 加えて「名前」も5区向き。快走した場合、スポーツ紙を賑わすことは間違いない。あと補欠登録の東洋大・山本修二(3年)も5区での起用が濃厚だ。今季大きく成長した選手で、前回の2区からコンバートするということは、よほど自信があると見ていいだろう。

 ダークホースとしてはかつて「山の大東」という異名をとるほど名選手を輩出してきた大東大の選手を挙げたい。奈良修監督は「区間新を狙える」と話すほどで、その候補が箱根5区で2度の区間賞を獲得した奈良監督の長男・凌介(2年)と、同区間で4年連続区間賞の偉業を果たした大久保初男の長男・陸人(3年)だ。 山梨学大・上田健太(4年)も前回に続いて5区に登録された。父・上田誠仁監督は順大時代に5区で2度の区間賞を奪っており、“二世対決”がさらに山を熱くする。

 前回は区間トップが1時間12分46秒と低調に終わったが、ほぼ同じ距離で争われた第76〜81回大会(00〜05年)では、順大・今井正人(現・トヨタ自動車九州)が1時間9分12秒というタイムを叩き出している。旧コースの歴代2位は東海大・中井祥太の1時間11分29秒。1時間10分を切ってくると「山の神」と呼ばれるほどのインパクトを残すことができるだろう。誰が“神の領域”に近づくことができるのか非常に楽しみだ。

(文責・酒井政人/スポーツライター)