およそ6カ月に渡り、たくさんの人に愛されてきたNHKの連続テレビ小説『ひよっこ』。放送開始当初は、初回視聴率19.5%(以下、ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。2013年度前期『あまちゃん』から8作続いた初回視聴率20%超えの記録が途絶えてしまう結果となったが、中盤以降は右肩上がりとなり、最終話の視聴率は21.4%、期間全体の平均視聴率は20.4%で有終の美を飾った。

 朝ドラに詳しいライターの田幸和歌子氏は、そんな『ひよっこ』を「今だから挑戦できた作品」と評している。

「朝ドラは15分×週6×半年(場合によっては1年)と、通常のドラマに比べて圧倒的にボリュームがあるため、物語を持たせるために“戦争など、大きな困難を乗り越える女性の一代記”が題材となりやすいです。ヒット作には、実在するモデルがいるものも多いですよね。2000年代くらいは、現代を舞台にした作品も多かったのですが、劇中で主人公が大きな困難にぶつかることもなく、スケールの小さな自分探しの物語になってしまう傾向があり、連続テレビ小説自体の人気も低迷していきました。

 転機となったのは、放送時間を15分繰り上げた2010年の『ゲゲゲの女房』で、その成功を受けて昭和を舞台とした作品が増えていきます。さらに2013年の『あまちゃん』が社会現象と呼べるほどの人気を博し、これまで朝ドラを見ていなかった層にも届くようになりました。かつては女性週刊誌だけがヒット作と呼べる作品を取り上げて紹介していた印象ですが、『あまちゃん』以降は一般誌でも朝ドラを取り上げるようになり、ここ数年はそうした状況が続いています。『ひよっこ』のように、普通の子の普通の暮らしを丁寧に描く穏やかに見えて大胆な作品は、朝ドラが多くの視聴者を獲得している今だからこそ放送できたのではないでしょうか」

 しかし、注目を集めているからこその困難もあったはずだと、田幸氏は指摘する。

「あそこまで人気になると、作り手は失敗を恐れて、安全策を選びがちになるのではないかと思います。加えて、今はネットニュースやSNSが盛んなので、ちょっとでも数字が低迷すると、すぐにネガティブな評判が飛び交い、たちまち人気が失速してしまいます。『ひよっこ』がすごいのは、開始当初は視聴率が低迷していてマスコミなどに『苦戦』と言われてばかりだったにも関わらず、方向性がまったくブレなかったこと。結果として、徐々に視聴者の支持を獲得して、その評価を確かなものにしていきました。作り手たちは視聴率が低迷している間も、『この作品はこのままで良い』と信じていたのでしょうね。実際に撮影現場も取材したのですが、脚本家の岡田惠和さんに対する信頼は絶大で、スタッフも『絶対面白いという自信があった』とおっしゃっていました。そんな現場の熱が視聴者に伝わったからこそ、人気が高まっていったのでしょう」

 主演に有村架純を選んだのも、正解だったという。

「『ひよっこ』は作品のトーンこそ穏やかですが、ドラマの作りとしてはとても大胆です。ドラマチックな出来事が起こるわけではなく、主人公が物語を突き動かしていくわけでもない、この作品を成立させるには、受けの演技が上手い有村架純の力が必要でした。朝ドラは新人女優を発掘する場でもあり、視聴者もそれを期待していますが、そこであえて知名度も実力もある有村を起用したのは英断だったと思います」

 現在、連続テレビ小説で放送されている『わろてんか』、2018年度上半期放送の『半分、青い。』、2018年度下半期放送の『まんぷく』、そして通算100作目となる2019年度前期作品『夏空』……今後も続く“朝ドラ”の歴史の中でも、『ひよっこ』は語り継がれる名作となったのではないだろうか。

参考:有村架純の「だっぺ!」はなぜ魅力的なのか? 『ひよっこ』方言ヒロインの可能性

(大和田茉椰)