年末企画:荻野洋一の「2017年 年間ベスト映画TOP10」 映画それじたいを擁護していきたい

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 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2017年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優たちも紹介。映画の場合は2017年に日本で劇場公開された(Netflixオリジナル映画は含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第17回の選者は、映画評論家の荻野洋一。(編集部)

1. 『花筐/HANAGATAMI』2. 『立ち去った女』3. 『甘き人生』4. 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』5. 『彼女の人生は間違いじゃない』6. 『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』7. 『マイ・ハッピー・ファミリー』8. 『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』9. 『春の夢』10. 『静かなふたり』

 年末に入って大林宣彦の新作『花筐/HANAGATAMI』が公開されるにおよんで、わがベストテンの様相が一変してしまった。元来私は大林宣彦支持者というわけではないが、今回はしたたかに打ちのめされた。寄せては返す大波小波のごとく、あるいはヴァーグナー楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のごとく、快感と悪夢とが3時間にわたって執拗にリフレインされる圧倒的な光景は、もはやフランス最大の映画作家のひとりアベル・ガンスの『ナポレオン』(1927)にも匹敵する。

 昨年のトップテンはすべてアメリカ映画で統一させていただいたが(ただしラテンアメリカも含まれる)、今回はオーソドックスな2017年劇場公開作トップテンとなった。そのうち、日本映画が3本(『花筐』『彼女の人生は〜』『夜空はいつでも〜』)、フィリピン映画1本(『立ち去った女』)、韓国映画1本(『春の夢』)と、アジアだけで半分を占める。概してハリウッドのエンタメ大作がもうひとつだった。ただし、次点をX-MENウルヴァリンのラストムービー(?)『LOGAN/ローガン』とする。7位のNetflix限定公開『マイ・ハッピー・ファミリー』はグルジア(ジョージア)映画。『花筐/HANAGATAMI』『甘き人生』『夜空はいつでも〜』『ネルーダ』については本サイトに映画評を寄せたので、そちらをご参照いただきたい。

 2位のラヴ・ディアス監督『立ち去った女』は、上映時間4時間を贅沢に費やして、ひとりの母親が、町の権力者の陰謀によって無実の罪で獄につながれた半生を清算せんとする。つまり、町の権力者への復讐を計るわけだが、その過程で彼女はもうひとりの人物像──タフでクールな姐御──を捏造し、またその別人だからこそのさまざまな出会い、彼女の慈愛の行動が、尾ひれとなって付属する。この尾ひれによって、彼女自身が救われるだろう。獄中生活だけではない、復讐計画だけでもない、ひとりの女性の生の変容が、静かに、冷淡なまでに静かに謳い上げられる。

 10本中最も知られていないのは10位の『春の夢』か。シネマート新宿、シネマート心斎橋の〈ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク〉で上映された。監督は中国の延辺朝鮮族自治州出身の張律(チャン・リュル)。同自治州からソウルの場末に流れてきた朝鮮族の女性と、彼女がいとなむ居酒屋に集うしがない男たちとの四角関係が軸となるが、物語はこれといってない。無為の時間が流れ、鬱屈と安逸の境界線上を渡り歩いていく。軍政独裁期に活躍したイ・ジャンホ監督の『風吹く良き日』『馬鹿宣言』あたりを彷彿とさせる、社会から見捨てられた底辺の人間たちの蠢きである。

 やや乱暴に総括するなら、ここに挙げた10本はいずれも、座礁した孤独な精神としてあり、孤立し、混乱し、絶望に打ちひしがれながらも、なんとか立ち続け、幸も不幸も一身に引き受ける、そんな健気な映画たちである。かつてゴダールは「ただ映画だけが」と自信たっぷりに放言しながらも、途中で中断するその言葉のうちに、映画だけが何かをなし得ることを口こもりがちに示唆しようとした。「映画だけが」幸福と不幸のはざまを具体的に示しうる。「映画だけが」映像と音域の対位法によって、自我と宇宙のバランスを見出しうる。「映画だけが」戦争の悲惨を、平和のうつろいやすさを、信仰の敬虔と欺瞞とを、友情の温かさを、休息の安らかさを、身をもって体現しうる。そんなゴダールの格言を取っ替え引っ替え反芻しつつ、映画それじたいを擁護していきたい。ここに挙げられた10本は、そのささやかな擁護の10本としてある。(荻野洋一)