2020年から小学校の授業においてプログラミング教育が必修化される。しかし、これによってクリエイティビティが高まるわけではない(写真:ふじよ/PIXTA)

博多を拠点に活動するテクノロジースタートアップ企業「しくみデザイン」。その代表を務める中村俊介氏は、これまで世界の多くのクリエイティブ系のコンペティションで賞を獲得してきた。
近年は子どもの創造性を育てるデジタルツールの開発に力を注ぎ、2018年3月には世界的なビジネスイベントSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)の教育版「SXSW edu 2018」に日本代表として出場する。そんな日本を代表するクリエイターがプログラミング教育の義務化について警鐘を鳴らす。

新時代に求められる三要素

子どもに必要な三要素として、「読み、書き、そろばん」が挙げられた時代もありましたが、それも今は昔。では、今の子どもに必要な三要素とは何でしょう。それは、「アルゴリズム、オーディオ、ビジュアル」です。

アルゴリズム×ビジュアルで彩られたデジタル社会は、オーディオ×ビジュアルで作られた映像や、アルゴリズム×オーディオで生まれた音楽であふれています。テクノロジーを生かした創造性が武器になる時代が到来したのです。この新たな三要素は、これからを生きる子どもにとって不可欠な教養といえます。

スマートフォンの登場で映像や写真を撮るのが身近になった結果、新たな三要素のうちオーディオとビジュアルは、子どもが比較的取得しやすいスキルとなりました。ところがアルゴリズムは、いまだ子どもにとって縁遠いものです。アプリはなぜ動くのか。SNSでなぜシェアできるのか。ゲームはどうできているのか。

アルゴリズムとは、物事を動かす仕組みのことです。アルゴリズムのスキルを身につければ、子どもは仕組みを理解して創作や表現ができます。その際に重要なのが、子ども自身が楽しいと思えることです。

子どもが将来なりたい職業として、システムエンジニアやプログラマー、ゲームクリエイター、アニメーターなどを挙げるようになってきました。子どもは創作と表現に貪欲です。でも、それができるようになるまでの敷居が高い、というのが現状ではないでしょうか。

その敷居を下げることが最も得意なのが、デジタルテクノロジーだと考えています。

では、子どもが楽しく創作するにはどうすればいいか。そもそも創造的な活動は楽しいものですが、押し付けられたり、言い付けられたりすると楽しくなくなります。そうならないためには、何かをつくりたくなる気持ちが芽吹き、育ち、継続するための「小さな成功体験」を積み重ねが大切です。やってみたくなる敷居の低さ、やり始めたら自分の作品をつくりたくなる衝動、できたら見せたくなる思い。何度やってもまたやりたくなる楽しさが無限に続けば、子どもの創造性も向上します。

これを実現するためには、直感的かつ簡単に作品を作れるデジタルツールが必要だと考えています。ただ、いざ子どもにスマートフォンやタブレット端末を与えるとなると、「まだ早すぎるのでは」「ネットやゲームばかりするのでは」などと思う方もいるでしょう。

でも本来、子どもはとってもクリエイティブです。誰もが生まれたときから創造性の塊だということは、子を持つ親ならご存じのはずです。YouTubeやソーシャルゲームの代わりに、子どもが自然に遊びたくなるデジタルツールがあれば、懸念は解消されるのではないでしょうか。

iPadを渡して遊ばせるだけ

筆者が2012年に発表した「paintone(ペイントーン)」というアプリでは、子どもでも指と声だけで簡単に音の鳴る絵が作れます。自分で描いた絵に音を録音して、絵をタッチすると音が鳴るという仕組みです。

iPadでこのアプリを体験した子どもは、マニュアルやリファレンスを見もせず何度も試行錯誤を繰り返し、驚くべきのみ込みの早さで次々と作品を生み出します。2歳児でさえ自在に使いこなし、ツールを我が物としていきます。さらに、YouTubeやゲームに熱中する頻度も激減します。

筆者の娘が2歳で作った作品は、色とりどりに描かれた絵を押すと、娘の声が聞こえるというものでした。娘が5歳になると、桃太郎のおとぎ話をアプリで表現できるようになりました。いずれの作品もiPadを渡して遊ばせただけで、何か特別に教えたわけではありません。粘土をこねているうちに作品ができあがるように、遊んでいるうちに自然と表現できたのです。

しかし、このように創造性にあふれていたはずの子どもも、大人になると創造性を失いがちです。新しく何かをつくり出す楽しさを子どもの頃から体験させ続ければ、それが避けられるかもしれません。

そんな折、日本では2020年から小学校の授業においてプログラミング教育が必修化されます。ところが、現状のプログラミング教育は逆効果かもしれません。

文部科学省はプログラミング教育を通じ、言語ではなく論理的思考を学ばせると説明しているのですが、プログラミングができたからといって論理的思考が身につくわけではありません。それにプログラミング教育は本来、子どもの創造性を伸ばすために実施されるべきです。

また、教育現場で利用される見込みがある「スクラッチ」をはじめとした言語ベースのツールは、「大人が使うプログラミング言語を子ども用に優しくした」だけです。文字と言語の抽象化の概念が理解できるようになってやっと使えるものであり、小学校低学年や未就学児には難しいでしょう。

これではかえって、子どもをプログラミングから遠ざけてしまう可能性すらあります。子どもに学ぶ意欲があっても、プログラミング嫌いの子どもを増やして社会的なリターンが少なくなってしまっては逆効果です。

言語ベースのプログラミングが悪いわけではありませんが、子どもが勉強する楽しさを持ち続けるためには、現状のプログラミング教育では不十分でしょう。プログラミングを勉強させるのではなく、言語を使わず直感的な操作だけで自発的に作品をつくり出したくなる環境こそ、これからの子どもには必要です。

クリエイターが世界を動かす時代

世界中にクリエイターが増えることで、世の中はどんどん楽しく快適になります。もちろん、すべての大人がアート作品をつくり出すようなクリエイターである必要はありませんが、現在はビジネスを新しくつくり出す人にも創造性が求められる時代です。

世界時価総額ランキングでトップ5に入る企業は、数十年前にはまだ存在すらしていないか、全く知られていませんでした。つまり、新しく仕事をつくり出したクリエイターたちが、現在の世界をリードしているのです。今の子どもが大人になる数十年後には、もっとクリエイターが活躍する社会になっていることでしょう。創造性の向上は、数十年後の社会を生き抜くために必要なスキルを身につけることに他ならないのです。

「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代が今後の人生をクリエイティブに生きるためには、子どもが勉強を楽しいと思える環境を整えることが重要になってきます。子どもの知性と感性を刺激すれば、創造性はもっともっと拡張できるのではないでしょうか。