『キネマの天使 レンズの奥の殺人者』(赤川次郎/講談社)

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 あなたは、「スクリプター」という仕事をご存じだろうか。それは、映画の撮影現場での仕事だ。フィルムをつなぐときに矛盾が出ないように、役者の動き・衣装など映像に写るすべてを記録・管理する人のことをいう。単なる記録だとあなどってはいけない。前のシーンからの変化をひとつでも見逃さないその観察眼は、観客に違和感を抱かせない映画作りのために重要な役割を担い、「映画監督の女房役」などと評されることもある。そして、ひとたび事件が起これば、その巧みな観察眼は、事件解決のカギになる…!? ミステリー界の巨匠・赤川次郎氏の最新作『キネマの天使 レンズの奥の殺人者』(講談社)は、このスクリプターが主人公だ。

 主人公は、スクリプター歴10年、32歳、東風亜矢子。ベテランの多い映画業界ではまだまだ若手の彼女は、人気映画監督・正木悠介監督が率いるチームでこき使われてばかり。現場全体を冷静に眺めることがスクリプターの仕事であるがゆえに、トラブル解決に奔走する日々だ。撮影もいよいよ佳境というある日、アクションシーンに欠かせないスタントマンが何者かに刺殺されてしまう事件が発生。さらに、それだけにはとどまらず、撮影現場では、不可解な事件が相次ぐ。容疑者は、映画のキャスト&スタッフ。一体誰が、何のために? 亜矢子はクランクアップまでに謎を解くことができるのか。そして、映画を無事完成させることはできるのだろうか。

 本作は、単なるミステリーではない。「お仕事小説」的要素が作品の魅力をひきたてている。映画をつくるのは、なんと大変なことなのだろう。スタッフたちのプロフェッショナルとしての仕事っぷりには感服。特に、仕事に妥協しない、亜矢子の姿は、なんと頼もしいことか。スクリプターには、シーンごとのささいな変化を追う以外にも仕事がある。監督、カメラマン、照明、録音、誰もが自分の仕事に打ち込んでいて、余計なことに気を回している余裕がないなかで、一歩引いて、全体をみることもスクリプターの役目だ。突然撮影スケジュールを変更したがる監督やあれこれ要望をいう役者たちの思いをかなえつつ、撮影を円滑にすすめなければならない。

 しかし、頼もしい存在であるがゆえに、亜矢子は無理難題ばかりを押し付けられる。読者から見れば、「私ならそんなことできない…」と思わされるような難しいことばかり。だが、亜矢子はどんなに理不尽なこともすべてこなしてしまう。いい映画を撮ることへの強い情熱には目をみはるものがある。

 カメラマン、録音技師、照明…職人気質のスタッフたちと、強烈な個性をもった役者たち。順調に進んでいたはずの撮影の合間で起こった、スタントマンの殺人事件。赤川作品のニューヒロインはどんな風に事件を解決してくれるだろうか。撮影現場の裏側を垣間見ることができるこの作品は、小説好きだけでなく、映画好きも楽しむことができそうな1冊。これから大きな話題を呼ぶこと間違いなしの作品だ。

文=アサトーミナミ