9秒98ブランド・桐生祥秀(22=東洋大)が“就職”に選んだのは日本生命だった。8月の世界陸上ロンドン大会後、卒業後の進路について聞かれると「就職かプロかの二択」と答え、卒業後も練習拠点を現在の東洋大にしたいとも話していたため、プロ化が有力視されていたが、最終的に選んだのは複雑な契約だった。
 「厳密に言うと、桐生は日生に就職したのではなく、“所属契約”を交わしたのです。金額や契約年数は公表されていません」(体協詰め記者)
 このスタイルは桐生祥秀選手のライバルであり良き友である山縣亮太選手と同じような形だ。ちなみに、山縣亮太選手は、セイコーホールディングスに所属しつつ、慶応大学を拠点に活動している。

 日生には強豪野球部、女子卓球部はあるが、陸上部は持たない。桐生以外のスプリンターも迎えて新たに創部するという動きもない。実質、プロとしてサポートを受けるわけだ。
 「同じ100メートル走のライバルでもあるケンブリッジ飛鳥はナイキ所属で、プロとなりました。練習拠点も日本大のままです」(同)
 つまり桐生と同じなのだが、それでもプロを名乗らなかったのは“オトナの事情”によるものだという。

 日本陸上競技連盟関係者によれば、桐生のもとには日清食品グループ、トヨタ、住友電工、大阪ガスなど多くの強豪実業団から同様のオファーが届いていた。それだけでなく、他にこんな動きもあったという。
 「桐生が東洋大に練習拠点を置くのは施設の問題だけではありません。信頼する土江寛裕コーチの存在が大きかったのです。コーチを訪ね、陸上部を立ち上げる話を持ち掛けた企業もありました。桐生と一緒に土江コーチも獲得するつもりだったのでしょう」(関係者)

 しかし、土江コーチは桐生の後輩たちも指導しなければならないとし、その誘いを断った。
 「日生は、契約金が発生したことは否定していません。今後、桐生が海外の大会に出たり、長期合宿を行う際の経費、帯同するコーチの人件費が契約金には含まれていたようです」(同)

 桐生は“東京五輪の顔”だ。五輪の協賛企業からすれば、桐生が特定企業に就職するか、プロになった場合、CMに起用しづらくなる。そうしたしがらみに進路決定は遅れた。
 そうした桐生祥秀選手は、日本生命の実務には一切携わらない契約の模様で、つまり、実働ゼロ。これは、日本生命の顔として、トレーニングは自由にやっていいということらしい。日本生命は東京オリンピックで大きなPRを目論んでいるということだろう。