Hi-STANDARDが見せたパンクロックバンドしてのタフさ 『THE GIFT TOUR 2017』総括レポ

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 10月26日からスタートしたHi-STANDARDの全国ツアー『THE GIFT TOUR 2017』が、12月14日のさいたまスーパーアリーナ公演をもって閉幕した。全国13会場のライブハウスおよびアリーナ会場を回るという、ハイスタ史上初の試みとなったこのツアーは、その形態のみならずセットリストにも今の彼ららしい試みが用意されていた。それは、毎回セットリストを大幅に変え、各公演の1曲目も13公演すべてが異なるという意欲的なもの。横山健(Gt/Vo)は本ツアーに対して60曲を用意していると事前にコメントしていたが、それも頷けるくらい日々大幅に入れ替わるセットリストに、ファンは大いに歓喜し、ツアーが進むに連れて「その後の公演でどんなセットリストが組まれるのか」「あの曲は演奏されるのか」などの期待がさらに高まっていった。

 18年ぶりのニューアルバム『The Gift』を携えたツアーという事実はメンバーにとって非常に意味深いものとなっていたはずだが、それは観る側にとっても同様であり、果たして90年代のメロディックパンクナンバーが2017年を生きる“今のHi-STANDARD”の楽曲と並んだときにどのような化学反応を起こすのか、並んでも違和感は生じないのか、などさまざまな懸念事項があったはずだ。筆者は昨年12月に行われたショートツアー『GOOD JOB! RYAN TOUR 2016』の新潟公演および福岡での『AIR JAM 2016』を観ているが、そのときは16年ぶりの新曲を収めたシングル『ANOTHER STARTING LINE』の楽曲が数曲加わっただけで、確かに新たなアンセムが誕生したという喜びがあったが、単純に「ハイスタの新曲を生で聴けた!」「90年代のハイスタを勝るライブだった」という喜びが勝り、そこまで客観的に新曲と過去の楽曲とのバランスについて考えていなかった。だが、今回のツアーではそういった現実と向き合わざるをえない。アルバム『The Gift』は現在進行形のハイスタが余すところなく収められた傑作だったと今でも確信しているが、ライブではどうなるんだろう……と。

 そんな思いで、まずは11月4日の朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター公演を観たのだが、すべてが杞憂だったことをこの1公演で思い知らされた。アリーナクラスでのフルステージはこの日が10月28日の名古屋ガイシホールに続いて二度目だったにもかかわらず、会場の大小関係なく圧倒的なステージを繰り広げ、なおかつ新曲と過去の楽曲を交互に演奏することで双方の楽曲の魅力はさらに増し、また新曲を通過したことで“今のハイスタ”が演奏する90年代の楽曲の深み/凄みがさらに倍増している事実にも気づかされた。2011年の『AIR JAM』で再始動した時点では、いや、のちに活動休止してしまう『AIR JAM 2000』の時点でも、のちのハイスタがこんな境地に達するなんてこれっぽっちも想像できていなかった。それぐらい、2017年のハイスタは唯一無二であり、鉄壁のパンクロックバンドへと進化していたのだ。

 そんな健在ぶりを証明しつつけるハイスタが、ツアー最終地に選んだのがさいたまスーパーアリーナという大会場。2万人以上ものパンクキッズが集結した本ツアー最大キャパのライブには、約40万通もの応募があったという。思えば90年代、オールスタンディング会場の最大規模といえば全国のZepp会場か当時の赤坂BLITZ程度しかなく、このバンドの需要を満たせる会場は存在しなかった。これを受けて当時のハイスタは野外会場で大規模なライブを行い、1998年の豊洲ベイサイドスクエアの『AIR JAM 98』では3万人を、千葉マリンスタジアム(当時)での『AIR JAM 2000』では3万5000人をそれぞれ動員している。それを思うと、彼らがフェスではなくツアーの一環として2万人キャパの会場でライブをするという事実には圧倒させられるものがある。

 本ツアーではBRAHMANやSLANGといった盟友のほか、04 Limited Sazabys、HEY-SMITH、WANIMA、MAN WITH A MISSIONなどハイスタ活動休止後に結成されたバンドと各公演で共演。この日はマキシマム ザ ホルモンという強者がゲストとしてライブのトップバッターを務めた。ホルモンは「握れっっっっっっっっ!!」から勢いよくライブをスタートさせると、すでに満員のスタンディングエリアおよびスタンド席の観客は激しいヘッドバンギングで応酬。スタンディングエリアではモッシュやクラウドサーフも続出し、早くもクライマックスかと錯覚するほどの盛り上がりを見せた。

 1曲終えたところで、ナヲ(ドラムと女声と姉)は「お母さん、やったよーっ!」と絶叫。「こんなセリフを言う日が来るなんて……Hi-STANDARDツアーファイナルへようこそ!」と話すと、マキシマムザ亮君(歌と6弦と弟)、ダイスケはん(キャーキャーうるさい方)、上ちゃん(4弦)も感慨深げに頷く。しかし、ライブ自体はそんな感傷的な空気を一切見せない、いつもの彼ららしいアグレッシブなステージが展開された。

 とはいっても、やはりHi-STANDARDのツアーに参加できたという事実には喜びを隠せない様子の彼ら。MCではナヲとダイスケはんが、1997年の『ANGRY FIST TOUR ’97』でハイスタの恒岡章(Dr)と一緒に撮った写真や当時のツアーTシャツを持ち出して、互いにハイスタファン自慢を繰り広げる。そんなハイスタ愛は演奏にもにじみ出ており、「セフィーロ・レディオ・カムバック〜青春最下位〜」のイントロではマキシマムザ亮君がハイスタ「Stay Gold」のギターフレーズの一節をフィーチャーするなど、喜びに満ちた40分のステージはあっという間に幕を下ろした。

 そんなマキシマム ザ ホルモンの熱を引き継いでステージ登場したハイスタの3人。難波章浩(Vo/Ba)は会場に集まった幅広い層のロックファン=“All Generations”を前に「来ちゃったね、ついに。今回のテーマ“ギフト”は、Hi-STANDARDからみんなへの贈りものというわけではなくて、俺たち3人が『まだ何かやれる』って授かったものだと思う。だから、この3人がこのステージに立ってファイナルを迎えるという“奇跡”を授かった。自分たちのパンクロックを信じて、本当に良かったと思います」と挨拶してから、最新アルバムのタイトルトラック「The Gift」からライブをスタートさせた。リリースから2カ月強という短期間ながらも、この曲に対して観客は大合唱とモッシュ&サーフで応える。その大きな盛り上がりに対し、ステージの3人は嬉しそうな笑みを浮かべ、熱の込められた歌と演奏を続けていった。メンバーの興奮はその一挙手一投足からも伺え、特に恒岡は1曲終わるごとにドラムスティックを宙に放り投げるなどして喜びを表現。かと思えば、横山はMCで「俺たち3人はHi-STANDARDを名乗って、ロックンロールをしに来たズラよ!」と叫び、客席に見つけた矢沢永吉タオルを前に矢沢の「アイ・ラヴ・ユー、OK」をモノマネ付きで歌うサービスぶりでファンを喜ばせた。

 この日のセットリストも最新アルバム『The Gift』からの新曲と、「Growing Up」「Summer Of Love」「Dear My Friend」「Close To Me」など過去の楽曲を交互に演奏していくスタイルが中心。新曲になってもオーディエンスのテンションや盛り上がりが落ちることは一切なく、楽曲の新旧問わず常に盛大なシンガロングと激しいモッシュ&サーフが続いた。そんな最中、「Close To Me」を終えた恒岡がドラムロールに続いてちょっとしたドラムソロを披露。すると「思い出しました、5年前にやりたかったことを!」と言って、サッカーの応援時にサポーターが行う「オーニッポン」の掛け声にあわせてドラムを叩き続ける。珍しく恒岡が積極的にアクションを起こしたことに対して、嬉しそうな笑みを浮かべる難波と横山はそのまま演奏に加わり、この日ならではのセッションを繰り広げた。セッション後、横山は「なんで2012年にやらないのかっていうね(笑)」とちゃかすものの、その表情からはメンバーに対する愛おしさが伺えた。

 ライブ後半になっても、バンドとオーディエンスの熱量は一切下がることを知らない。「Fighting Fists, Angry Soul」冒頭では難波の歌い出しに続いて、観客の盛大なシンガロングが発生。「Starry Night」では観客が携帯電話のライトを点灯させ、会場一面を星空に見立てる自発的な演出もあった。そんな最高のオーディエンスを前に、難波は「Hi-STANDARD、生きてます!」と宣言し、続いて横山も「そして、これからも生き続けます。こうなったら誰かがくたばるまで(バンドを)畳まねえぞ!」と言い放ち、会場は盛大な拍手に包まれた。

 そんな横山がライブ終盤、お約束となったミニー・リパートン「Lovin’ You」のギター弾き語りカバーを披露したかと思うと、続く「The Sound Of Secret Minds」でもリードボーカルを務め会場を沸かせる。同曲を終えると横山は「今日『歌わせてくれ!』って、メンバーに頼んだんだよ」と語り、これを受けて難波も「一番は楽しい。バンドっていいね!」と嬉しそうに話す。その2人を、後方から笑顔で見守る恒岡。この関係性こそが今のハイスタ最大の武器であり、90年代との大きな違いなのかもしれない。活動休止やさまざまな困難、そして個々の音楽活動を経験することで得た自信、いろんなものが糧になり、再び3人が集まったとき、90年代とは比べものにならないくらいにタフなハイスタがそこにいた。そのタフさは2011〜12年の『AIR JAM』とは比べものにならないほどに……改めて、今回のツアーはものすごい“奇跡”を目にすることができた、貴重な機会だったのかもしれない。

 そんなことを考えていると、ライブは「Stay Gold」でついにクライマックスに。さらに「Free」の冒頭では横山の合図に続いて、オーディエンスが「Wo〜」とシンガロングして曲に花を添える。しかも「下北のほうがパンチあったぞ?」と煽り、さらに大きな声で歌うことを要求。当然のように、観客はさらに大きな声でシンガロングを続けた。この頃になると、ツアーの疲れからか難波は高音が出にくくなっていたが、そんな彼をサポートするかのようにオーディエンスは一段と大きな声で歌声を響かせる。この一体感こそがハイスタのライブ、そう思わずにはいられない瞬間だった。最後は横山の「みなさんが思っている以上に、Hi-STANDARDでいることを楽しめました」、難波の「また会おうぜ!」の挨拶に続いて「Brand New Sunset」でライブ本編を締めくくり。終了後にはメンバー同士で握手をしたり抱き合ったりして喜びを表現してから、ステージを降りた。

 アンコールでは、この日〈PIZZA OF DEATH RECORDS〉のTシャツを着用していた難波がレーベルやスタッフに対し、そして「また集まってやろうね。健くん、ツネちゃん、どうもありがとう!」とメンバーに対して感謝の言葉を述べた。そこから「また始めよう!」を合図に、ハイスタの新たなアンセム「Another Starting Line」を奏で、一瞬にして会場を掌握する。さらに「Teenagers Are All Assholes」でフロアの熱気をさらに加熱させたかと思うと、この季節ならではのカバー「Happy Xmas (War Is Over)」をプレゼント。難波はまたも「ハイスタが始まって良かった!」と喜びを口にすると、今度は「Can’t Help Falling In Love」を繰り出し会場の一体感をさらに高めていった。3人はこのツアー以降、バンドの予定は一切決まっていないと言いながらも、「来年もまた何か思いついたらやるよ」(横山)、「曲をまた作りたいな。ライブもやりたい。やりたいこと、いっぱいあるよ!」(難波)と笑顔で話し、そのピースフルな空気のまま「Mosh Under The Rainbow」でツアーファイナルを盛大に締めくくった。

 2時間以上にわたる熱演を終え、ステージから去るのが名残惜しそうな3人。記念撮影などを終えステージを降りてしばらくすると、突然3人がステージに姿を現した。すでに観客が半分以下となった状況にもかかわらず、彼らは最後の最後に「My Heart Feels So Free」「Turning Back」の2曲をプレゼント。この思わぬサプライズに、その場に残っていたファンはシンガロングやモッシュ&サーフといったアクションで喜びを表現した。この思わぬサプライズはすべての来場者が体験することができなかったものの、こういったところにもメンバー3人のHi-STANDARDに対する愛情、そして応援してくれる“All Generations”に対する愛情がにじみ出ているのではないだろうか。だとすると、あのダブルアンコールはこのツアーが終わってしまうことの名残惜しさに対する3人からの答えだったと受け取れる。

 ライブ中の言葉をそのまま信じれば、2018年は今のところHi-STANDARDとしての活動は白紙であり、3人はそれぞれの活動に戻っていくことになる。横山の発言どおり、2017年はハイスタに集中するためKen Bandとしての活動が停滞してしまったので、2018年はKen Bandのライブも活発化することだろう。しかし、こんなツアーを見せられてしまったら、それでもハイスタの次のアクションに期待してしまう。こんなに絶好調で「今が最高」なバンドの姿を見せられてしまったのだから、すぐに新曲を作ってツアーをすることは現実的に難しいとしても、3人が「今だ」と思うタイミングに再び集まり、その瞬間のベストを新曲やライブで表現してくれたら……それこそが我々にとって、新たな“奇跡”以外の何ものでもないのだから。(文=西廣智一)