「ピーキングの難しいシーズンになると思う」

 今年の2月、カーリング日本選手権で中部電力に王座を明け渡したあと、ロコ・ソラーレ北見(LS北見)の主将・本橋麻里は、珍しく厳しい表情を見せてそう語った。

 彼女の言う「ピーキング」とは、チームとしてどの大会に照準を定めるか、調子を上向きに持っていくかのマネジメントを指す。

 LS北見はこの日本選手権で優勝していれば、平昌五輪の日本代表に内定するはずだった。それが、準優勝に終わったことで、9月に五輪の出場切符をかけた中部電力との代表決定戦に臨むこととなり、シーズン早々にもピークを作らなければいけなくなったからだ。

 通常、カーリングのシーズンは9月上旬に本格的に始まる。近年は夏に国内大会が新設されたこともあって、ここ最近は日本の有力チームもおおよそ7月には実戦をスタート。そこから徐々にギアを上げていって、年末から年明けに向けてピークを持っていくのがチームビルディングの正攻法となっている。

 その場合、9月の時点では、チームの仕上がりは30〜40%ほどでよかった。しかし今季(2017-2018シーズン)は、その9月に非常に重要な一戦が組まれ、LS北見はまず、そこに合わせてチームの状態をトップに持っていく必要があった。

 ゆえに、例年であればシーズン終了後、3カ月前後のオフを取るが、今年に限っては2月に(2016-2017)シーズンが終わったあとも、数週間だけ休んで、新シーズン(2017-2018)に向けて積極的に氷上での練習を積んできた。

 その結果、7月のアドヴィックスカップ(北見市)で準優勝。続く、中部電力との前哨戦となった8月のどうぎんクラシック(札幌市)では、優勝を飾った。

 そして、肝心の代表決定戦では、中部電力を3勝1敗と危なげなく退けて五輪切符を獲得。第一のピーキングには成功した。

 しかし、五輪出場を決めたLS北見は、休む間もなく海外遠征を実施した。五輪へ向けての強化はもちろんのこと、11月にも来年3月の世界選手権(カナダ)出場がかかったパシフィック・アジア・カーリング選手権(以下、PACC。オーストラリア)が控えていたからだ。

 代表決定戦でも好調を維持していたサードの吉田知那美が、それ以降のチームの状態について語る。

「今シーズンは(ピーキングの)難しさが確かにありました。最初に9月の試合のためだけにピークを作ったので、(次戦に向けて)あれからは少し落とす必要があった。余力で(いいショットを)投げられてしまう部分もあったけど、9、10月の遠征ではそこに頼らず、各々が9月までにできていなかったことをすべて洗った感じですね」

 代表決定戦後、LS北見は6週間でカナダと欧州各地を巡り、6大会に参加。11月のPACCに向けて、第二のピークを作っていった。そして――。

「代表チームとして行くので、下手な試合はできない。PACCに向けて、またピーキングし直しました。正直(選手みんな)疲れてはいたけれど、自分たちの選んだスケジュールなので、言い訳にはならない」

 カナダ遠征中に本橋がそう振り返ったとおり、LS北見は満身創痍ながらPACCを何とか2位で終えて、世界選手権への日本の代表枠を勝ち獲った。第二のピーキングは決して成功とは言えなかったが、最低限の結果は残した。

 それでも、LS北見に休息はない。PACCの舞台から直接、再び海外へ飛んだ。今度は最大目標となる平昌五輪へ向けて、カナダに乗り込んでカルガリーで合宿を張った。そののち、レッドディアで開催されたボンスピル(トーナメント)にも出場している。

「長い遠征と長いシーズン。モチベーションの部分でちょっと難しい部分もあった……」(リード・吉田夕梨花)

「とりあえず、おうちに帰って犬と触れ合うとか、普通のことをしたい」(セカンド・鈴木夕湖)

 昨季が終了後、ほぼ休みなくトレーニングを続け、海外遠征も重ねてきた。さすがにこの時期になると、冗談半分ではあるものの、各メンバーから疲労の蓄積などによる弱音とも思えるコメントも聞こえてきた。

 しかし特筆すべきは、それだけ疲労が蓄積した状態で、しかも個々の課題に取り組んでいるなかでも、LS北見は例年以上の結果を残してきたことだ。

 今季、彼女らが欧州、カナダの遠征で出場したボンスピルは8つ。そのうち5つで、クオリファイ(決勝トーナメント進出)している。これは、過去に海外遠征を実施してボンスピルに挑んできた日本女子のチームとしては、トップクラスの成績だ。

「本当はもっとタイトルを獲りたかったけど、これだけクオリファイできたので大きな収穫」(吉田知)

「チームの課題であったアイスリーティング(氷の状態を読むこと)は、スイープの面でも、投げでも、よくなっている実感がある」(鈴木)

 遠征中は弱音を漏らす場面もあったが、その遠征を総括する場面では誰もが前向きな発言を繰り返した。

 そして、遠征から帰国して挑んだ、五輪出場チームが5チーム参加し”プレ五輪”の位置づけとなった12月の軽井沢国際(長野県)を制した。


軽井沢国際を制したLS北見(最前列)

「自分たちが戦ううえでの、態度だったり、自信だったりを実感できた」とは、スキップ・藤澤五月のコメントだ。そこからは、80試合近く戦ってきた今季の最大のピーク作り、つまり平昌五輪のための第三のピーク作りへの自信がうかがえる。

 LS北見はこのあと、クリスマスと年末年始という束の間のオフを経て、1月中旬にコンチネンタル杯(カナダ)に参加したあと、そのままカルガリーに移動して五輪前の最後の強化合宿を行なう。

「カーリングって、このチームが圧倒的に強いってことはないんですよね。本番でしっかり力を出すことのほうが大切。きちんと自分たちの試合をすれば、勝てるチャンスはたくさんある。

 オリンピックというのは、他の大会とはまた違うプレッシャーとか、ストレスとかがあると思うんですけど、それを準備の段階でできるだけ少なくして、心地いい状態で大会に臨みたい」

 そう藤澤が言うように、LS北見に残された課題は微調整のみ。チームは仕上げの段階に入った。

 過去の五輪で日本女子の最高成績は5位。彼女たちが作り出す今季3度目のピークは、その上の高みへとつながっていくことだろう。

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