厚労省が労基関係法違反企業を公表 押し寄せる「働き方改革」の波

 5月10日、厚生労働省労働基準局監督課が、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として法令違反した企業名を初めて公表した。違法な長時間労働や賃金未払いなど、いわゆる「ブラック企業」を想起させるこの企業リストは同省が発表した「過労死等ゼロ」緊急対策の一環だ。違反企業は毎月定期的に掲載され、総数は全国で500社を超えた。企業名の公表は概ね1年間で、公表を続ける必要性がなくなったと認められる場合や是正及び改善が確認された場合は削除される。だが、一旦公表されながら改善や是正などで非公開となった企業数は2割未満にとどまる現実は重い。
 政府が推進する「働き方改革」は、(株)電通(TSR企業コード:291096654、東京都)の過労死問題で注目された。長時間労働の是正から時短勤務、オンラインをフル活用した在宅勤務など、様々な取り組みがスタートし、ビジネスマンの働き方に変化が生まれた1年だった。

 一方で違法な労働環境に対する風当たりは強い。社名公表された企業には電通のほか、パナソニック(株)(TSR企業コード:570191092、大阪府)、三菱電機(株)(TSR企業コード:291021212、東京都)、(株)エイチ・アイ・エス(TSR企業コード:292203993、東京都)(いずれも労働基準法違反)など、業界を代表する大手企業も名を連ね、法令違反が発覚する度に大きく報道された。
 だが、大企業ばかりに目が向くが、公表された企業のうち売上高10億円未満の中小・零細企業が全体の7割を占める事は見逃せない。値下げ圧力のなかで受注や納期、利益確保に取り組む中小・零細企業の厳しい現実が浮き彫りになったからだ。社会に警鐘を鳴らす目的でスタートした企業名公表だが、産業界が抱える重層的下請け構造の問題点にどこまで踏み込めるか、まだ答えは出ていない。
 違法な労働条件を許さない世論は高まり、労基関係法の違反企業は厳しい社会的制裁を受ける。深刻な人手不足を背景に、企業名公表は取引上の信用だけでなく人材確保でも大きなリスクになる。こうした現実を認識し、労基関係法の遵守を最優先した取り組みが求められている。

電通本社

後を絶たないパクリ屋被害

 2017年もパクリ屋(取り込み詐欺)による被害が散見された。7月にはリフォーム会社を名乗る(株)ガスクル(TSR企業コード:314168435、東京都)の関係者5人がカーナビなど1億6,000万円分の商品詐取の容疑で逮捕された。9月にも東日本大震災の復興支援イベントのためなどと虚偽の説明で食料品などを詐取した容疑で、リバアースジャパン(株)(TSR企業コード:297076728、東京都)の関係者ら7人が逮捕された。「警視庁捜査2課は取り込み詐欺事案の取り締まりを強化している」(全国紙記者)と話し、成果が表れた格好だ。とはいえ事件化にはかなりの時間を要する。また、事件化するのは氷山の一角だ。TSRには毎月10社を超えるパクリ屋関連情報が集まるが、ほとんどが数カ月で姿を消してしまう。
 パクリ屋の手法は、基本的には昔と変わらない。展示会や商談会などで近づき、最初はわずかな金額の取引で期日通りに支払って信用させ、徐々に取引額を大きくする。金額が増えると「不良債権が発生し資金繰りが悪化した」、「社員が資金を持ち逃げした」などの適当なウソで支払いを遅らせ、最終的には踏み倒して逃げる。食料品、パソコン、電化製品など換金性の高い商品がターゲットになりやすい。メールのやりとりだけで完結する顔の見えない取引が暗躍に拍車をかける。最近では「震災復興関連」や「福祉分野での新規事業」など、時流に合わせたもっともらしい事業目的を掲げるパクリ屋も少なくない。

 パクリ屋が後を絶たないのは、この詐欺が「ローリスク・ハイリターン」だからだ。取引先の中には騙されたことすら気づかない。しかも悪意か、資金繰りに行き詰まっての倒産か判別しにくい。被害を防ぐには一にも二にも当たり前だが「取引をしない」ことだ。だが、売上が欲しくなるのも当たり前。やはり新規取引には、閉鎖謄本を含む登記確認や信用調査などでチェックするしかない。
 この手の詐欺は「売上を伸ばしたい」という経営者や営業マンの心理に巧みにつけ込んでくる。天性の詐欺師集団だから、当然といえば当然だ。特に、年末は営業ノルマを抱え、ギリギリまで売上を伸ばしたい営業マンがターゲットになりやすい。うまい話には裏がある。新規取引には用心してもし過ぎることはない。

パクリ屋の名刺と決算書

旅行業者の相次ぐ破綻

 旅行業者の倒産は、個人客を巻き込むだけに大きな話題になる。3月27日に東京地裁へ破産を申請した格安旅行会社の(株)てるみくらぶ(TSR企業コード:296263001、東京都)は、最大9万人の被害者を出し、連日大きく報道された。
 てるみくらぶの山田千賀子社長は破産時の会見後、表舞台から消え、沈黙を貫いた。11月6日にようやく債権者集会に姿を現し、「嘘に嘘を重ねた」と粉飾決算を認めたが、詐欺については一貫して否定した。だが、その2日後に警視庁は詐欺容疑で逮捕した。
 てるみくらぶの倒産は旅行業法にも影響を及ぼした。8月に観光庁は「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」で、てるみくらぶの倒産被害を念頭に旅行業者の経営状況の把握や通報窓口の設置、前受金の使途の明記、弁済制度の見直しなどを決めた。

 もう一つ注目された旅行業の倒産があった。「ARCツアー」のブランド名でツアー旅行などを手がけていた(株)アバンティリゾートクラブ(TSR企業コード:293361851、東京都)だ。同社は本社入口に「資金繰り・業績の悪化に伴いこれ以上の業務継続が困難な状況で、営業停止せざるを得ない事態となった」と貼り紙を掲示し10月11日、事業を停止した。
 突然の事業停止で代表を含む関係者と連絡が一切取れない状況が続き、関係者は対応に追われた。事業停止から1カ月が過ぎた11月20日、東京地裁に破産を申請し、同日開始決定を受けた。負債総額は約4億9,000万円だった。
 「詐欺容疑で逮捕」や「音信不通」など旅行業者の信頼を損なう倒産が続いた。旅行業者の倒産は、楽しいはずの旅行を台無しにする。来年こそは、一般旅行者に影響を及ぼす倒産がなければ良いのだが…。

アバンティリゾートクラブの本社入口

今後の金融機関の動き

 日銀のマイナス金利政策や激しい貸出競争、人口減少などで地域金融機関の経営環境は厳しさを増した。金融庁が地方銀行106行の2017年3月期実績を集計したところ、すでに54行で貸出と手数料ビジネスなどの本業利益がマイナスだった。5年後には約7割の地方銀行で本業利益がマイナスになるとの試算もある。TSRの調査では主要152信用金庫でも2017年3月期で8割の信用金庫で利ざやが前年度より縮小し、逆ざやは24信金(前年同期7信金)に及んでいる。
 再編で経営基盤の強化を目指す動きも一筋縄にはいかない。寡占による利用者への不利益、融資先企業への弊害を懸念して公正取引委員会は、長崎県の十八銀行と親和銀行(ふくおかFG)、新潟県の第四銀行と北越銀行の統合計画は継続審査とし、延期もしくは棚上げされた。手詰まり感がある収益状況を打開する再編も進まない。

 金融庁は持続可能なビジネスモデルとして、コンサルティング業務の強化など非金利収益で稼ぐ金融仲介機能の強化を柱としたビジネスモデルへの転換を推し進めてきた。2016年9月、地域金融機関の貸出姿勢などを客観的に評価する指標「金融仲介機能のベンチマーク」を公表。金融機関がこれまで行ってきた物的担保や人的担保による「与信」から、中小企業の「事業性」(稼ぐ力)に着目した新たな貸出姿勢への転換を求めた。だが、自主的な運用や開示だったため履行にはバラつきがあった。このため今後は客観的な指標を選定・公表することで金融機関間の競争を促す方針で、金融仲介機能の改善に弾みがつく可能性が出てきた。

 一方で、金融仲介機能の改善を阻害する要因に信用保証制度がある。中小企業への貸出が焦げ付いた場合、信用保証協会が金融機関の肩代わりをする制度だが、協会保証に依存し過ぎて金融機関が独自での経営支援に動かないことにもつながった。債務の80%を信用保証協会、20%を金融機関が負担する責任共有制度はあるが、実際には100%保全されているケースも少なくない。
 このため、実効性のある保証制度にするため2018年4月、新たな信用保証制度がスタートする。信用保証のない「プロパー融資」と信用保証付き融資を経営の実態に応じて組み合わせ、信用保証協会と金融機関でリスク分担させ支援の空回りを防ぐ。
 だが、収益環境が悪化し経営基盤が脆弱な金融機関は少なくない。地方経済の長期停滞や人口減少という構造問題を抱え、地域格差も避けられない。地域金融の地盤沈下は地方経済の停滞に直結する。公取委は統合、再編への線引き提示も必要だろう。


 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2017年12月6日号掲載「2017年を振り返って(下)」を再編集)

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