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日本人のほぼ半数を占める「飲むとすぐ赤くなる人」は、同じ平均飲酒量で比較したときの食道がんリスクが「飲める人」の10倍に。一方で酒に強い人も、日々の酒量が増えるほどがんや肝硬変、アルコール依存症などの健康リスクが高くなる。アルコール依存症の専門家である久里浜医療センターの木村充医師に、「飲酒の科学とリスクコントロール」について聞いた――。

前編「“飲むほど酒に強くなる”という常識のウソ」で、筆者は国立病院機構久里浜医療センター・精神科診療部長の木村充医師に「酒に強くなる方法」について尋ねてみた。その結論は、「酒に強いかどうかは先天的に決まっていて、『飲むほど強くなる』ということはない」というもの。では、強い人と弱い人の間で、健康上のリスクも配慮した「適量」に差はあるのか。また、強い弱いそれぞれに、注意すべきポイントはどこなのか。再び木村医師に聞く。

■「酒は百薬の長」は1日ビールロング缶1本まで

――「健康被害が大きいから、女性は男性より酒量をひかえたほうがいい」と聞いたことがあります。本当ですか?

アルコールと死亡率について、聞いたことはありますか? 少しお酒を飲むと死亡率が下がるんですが、さらに飲むと死亡率が上がる。つまり、全く飲まないよりはちょっとだけ飲むほうが健康にいいといわれているのです。

――そうなんですか!?

この「ちょっとだけ」に相当する1日平均のアルコール摂取量が、男性の場合は約10〜20g。そのくらいが最も死亡率が下がって、ここから増えていくと死亡率が上がっていきます。アルコール20gとは、ビールだと500ml缶1本、日本酒だと1合くらい、25度の焼酎だと約100ml。ウイスキーならダブル、ワインならグラス1杯程度です。

ところが女性の場合は、最も死亡率が低くなるアルコール摂取量が、だいたい男性の半分なんです。男性より女性のほうが、体や肝臓の大きさが小さいことが関係しているんじゃないでしょうか。

――それは少ない。外食の場合、あまり強くない私でも上限を超えてしまいそうです。

1日の平均量なので、例えば2日に1回飲む男性なら、1回にビール500ml缶を2本飲めると考えていいです。1日平均で60gを超えると、肝臓を悪くするなど、健康上のリスクがはっきり高くなるという結果が出ています。

――60gというと、男性でビール500ml缶3本、女性はその半分ということですね。これは前編でお聞きしたような、先天的にお酒に強いタイプの人でも同じなんですか?

基本的にどのタイプの人も同じです。でも、そもそも両親から酒に弱い遺伝子を受け継いだ「弱い+弱い」タイプの人はそんなに飲めませんよね。心配なのは、父母のどちらかが酒に弱く、どちらかが酒に強いという「弱い+強い」人で、飲んでいるうちに少しづつ飲めるようになってしまったという人です。

■「飲むと赤くなる」タイプの人は要注意

――日本人の半分弱が該当するというタイプですね。自分がそのタイプかどうか、判定する方法はありますか?

「弱い+強い」人を調べるのは簡単です。初めて飲酒したころ、飲酒によって顔が赤くなってしまっていたか。またはいまでも飲むと赤くなるかどうかです。このタイプの人が習慣的に飲酒をすると、がんのリスクがものすごく上がることが分かっています。特に多いのが、食道がんや咽頭がんといった、酒の通り道のがんですね。

自分がこのタイプに属するのかどうか、簡単に調べられる方法があります。「コップ半分程度のビールを飲んで、顔が赤くなりますか」「飲み始めて1年間くらいのときにコップ1杯のビールで赤くなりましたか」。このどちらかが「はい」なら、9割くらいの正確さで、「弱い+弱い」か「弱い+強い」のタイプですね。

――私はどうやら、「弱い+強い」タイプのようです。つまり、習慣的な飲酒は避けるべき?

赤くならない人でも飲み過ぎればがんリスクは高まりますが、赤くなる人はもっとリスクが高いということです。例えば、平均して1日2合お酒を飲む人に対して行った調査があります。もともと赤くならないタイプの人、赤くなるタイプの人、全くお酒を飲まない人の3つのグループで食道がんになるリスクを比べたとき、赤くならない人は飲まない人の6.5倍なんですが、赤くなる人は65倍くらいに上がるんです。

アセトアルデヒドには毒性があるので、食道がんだけでなく、咽頭がん、大腸がん、肝臓がん、乳がんなどのリスクも高まります。

――乳がんにもなるのですか? なぜ胸に影響が出るのでしょうか。

アセトアルデヒドは分解されるまでに、血液に吸収されて体のなかをぐるぐる回りますから、いろんな臓器に影響が出るんです。前編でお話したとおり、アセトアルデヒド自体はアルコールよりも体内に残る時間は短いんですが、「弱い+強い」タイプの人はアセトアルデヒドの分解が遅いことがありますから。

――酒に強い人よりも弱い人のほうが健康リスクは高い、ということでしょうか。

先の調査で示されたように、同じ量を飲めば弱い人のほうがリスクは高いといえます。とはいえ、実際には酒に強い人はたくさんアルコールを飲んでしまいがちで、そこが問題になります。

前編で、体内に酒が入ったとき、アルコールをアセトアルデヒドに分解する主な酵素としてADH1Bを紹介しました。じつは、大量に酒を飲んだ際にはADH1Bだけではなく、「ミクロソームエタノール酸化系(MEOS)酵素群」も働くようになります。このMEOSのなかの中心的な酵素であるCYP2E1は、アルコールの血中濃度が高いときに登場し、ADH1Bより速いスピードでアルコールを分解します。すると、酒に強い人は「まだ酔っていない」と感じて、余計に酒量を増やすことになりがちです。

酒に強い人は、基本的にはアセトアルデヒドを分解するALDH2の働きが強いんですが、酒量が多すぎると分解が間に合わなくなる。その結果、アセトアルデヒドの血中濃度が上がって、体にたまっていくんです。アセトアルデヒドは人体に有害ですから、アルコール依存症やがん、肝炎、肝硬変、膵炎(すいえん)などの病気になる確率が高まります。

■少しずつ作られるアルコールへの「依存」

――まわりには「毎晩飲んでいる」という人もいます。日中は普通に仕事をしているのですが、こうした人はアルコール依存症なのでしょうか。

アルコールへの依存は、少しずつ作られていくんです。1杯でじゅうぶんだったのが2杯、3杯と、量に満足できなくなって、ないと欲しくなる。飲酒が習慣になっていて、夜になるとなんとなく飲みたくなって、毎日飲み過ぎてしまう人は注意したほうがいいですね。

――そういう人は、どうしたらいいんでしょうか。

まずは、自分がどのくらい飲んでいるかを把握することです。毎日飲んだ量を書きとめるようにするだけでも違います。最近は「減酒外来」といって、飲み過ぎる人の酒量を減らす外来もやっています。完全な依存症で断酒が必要というほどではないけれど、健康に問題が出てきた人などの指導ですね。患者さんには自分の飲酒量をまず把握してもらい、それから目標を定めて酒量を減らしていく指導をします。

また、近々、アルコール依存症の人のための治療薬も発売されそうです。脳に働きかけて酒を飲みたいという欲求を抑える薬で、治験では効果があったようです。

■まずは一週間の平均酒量の確認を

――どうしても飲みたいなら、「高いけれどいい酒」を少量飲む、というのもよさそうですね。

アルコール依存症の人は、「酒の味が好きで飲む」とよく言います。でもよく話を聞くと、味わうというより体にアルコールを入れて酔いたいという人が多いですね。もし量を減らせるのであれば、高くていい酒を味わって飲む、というのもいいかもしれません。

アルコール依存症の患者さんには、定年後にやることがなくなって酒を飲み始める男性が圧倒的に多いのですが、最近は鬱(うつ)を併発している若いビジネスパーソンも多いです。気分が落ち込むために酒を飲んでしまうこともあれば、アルコール自体が脳に作用する一種の薬物として、鬱を引き起こしたり、鬱状態の改善を遅らせたりすることもあります。そうするとまた落ち込みを紛らわせるために酒を飲んで、という悪循環に陥りがちです。

酒に弱い人は、依存症になるほどにはそもそも飲めません。一方、酒に強くてつい飲み過ぎてしまうと感じている人は、アルコール依存症になる前に、自分の1週間の平均酒量を確認するよう心がけてほしいですね。

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木村 充(きむら・みつる)
医学博士。専門はアルコール依存症などのアディクション医学。国立病院機構久里浜医療センター精神科診療部長として、アルコール依存症病棟を担当している。
 

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(干川 美奈子 写真=iStock.com)