大義は我にあり

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 貴乃花親方(45)が闘っている相手は、相撲協会の八角理事長(54)と横綱白鵬(32)の2人だけではない。その背後に揺らめくのは、「検察」「読売新聞」という2つの巨大権力。高くて分厚い壁に玉砕覚悟で挑む「孤高の親方」は、あっけなく土俵下に突き落とされてしまうのか、それとも――。

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 相撲協会に任せたところで、元横綱日馬富士による暴行事件の真相が詳らかにされることは決してない。そう信じているからこそ貴乃花親方は弟子の貴ノ岩に対する協会の聴取要請を一貫して拒否し続けているわけだが、沈黙の背景にある“事情”について、本誌(「週刊新潮」)は繰り返し報じてきた。今回の事件の根本部分には、貴ノ岩が「ガチンコ力士」であるという事実があり、彼が警察の聴取に対して「ガチンコ」という言葉を口にすれば、それは供述調書という公的な書類に残される。公判でそれに言及した場合、傍聴した記者が記事にするかもしれない。貴乃花親方はそうした形で事件の真相が満天下に示されることを望んでいるわけだが、目下、彼の思い通りにコトが進んでいるとは言い難い。

大義は我にあり

〈元横綱日馬富士を書類送検、年内にも略式起訴へ〉

 読売新聞がそう報じたのは12月11日。鳥取地検に書類が送られたばかりというタイミングで、最終的に検察が下す「結論」について、時期まで明示して記事にしたわけだ。

「地検の担当者はまず送られてきた書類を読み込み、それから被疑者や被害者への聴取を行う。しかも、今回の事件は関係者が全員東京在住のため、東京地検に移送される可能性もある。それらが何も始まっていない段階で読売は“略式起訴へ”と書いたわけです。地検関係者は“結果ありきの捜査はあり得ない。処分内容は現時点では当然決まっていない”と激怒していましたよ」(地元記者)

 ただし、さる司法記者は、

「今回の事件は社会的な関心が高いため、鳥取地検から広島高検、さらに最高検まで報告が上がっている」

 と、明かす。

「ちなみに外国人が後輩の外国人を殴った事件、ということで外国人犯罪を担当する最高検の公安部が報告を受けています。そのため、もし事件を移送することになった場合、東京地検の公安部が担当することになるでしょう。また、書類送検直後というタイミングでも、高検や最高検が“年内に略式起訴”という緩やかな方針を決めていることは十分に考えられます」

 いずれにせよ、略式起訴となれば、公開の法廷で元横綱日馬富士を裁く公判は行われず、事件の真相が明らかにされることもない。そうなれば貴乃花親方の目論見は崩れ去ることになるが、“例外”もあって、

「略式の場合、担当は簡易裁判所になる。検察が略式起訴を求めても、簡裁の裁判官が“略式不相当”と判断することがあり、その場合、正式な公判が行われる。最近で言うと、電通の違法残業事件で簡裁が不相当判断を出した。今回の事件では、簡裁が横綱白鵬の事件への関与について疑問を抱いたりした場合、不相当判断が出る可能性もある」(検察関係者)

3人の「読売関係者」

 無論、略式起訴で罰金刑となっても前科がつくことには変わりはない。

「日馬富士の弁護士としては示談を成立させて不起訴に持ち込みたいでしょうが、検察や協会としては不起訴より略式起訴のほうが都合が良い。不起訴となり、検察審査会に審理を申し立てられると、捜査資料を外に出さなければならなくなるからです。それは、非公開で事件を処理してほしい相撲協会にとっても、無用な混乱を避けたい検察にとってもマイナスでしかない」(ベテラン検察担当記者)

 相撲協会で今回の事件への対応を担っているのは、外部理事で危機管理委員長の高野利雄氏。元名古屋高検検事長である高野氏が検察内部に人脈を持っているのは当然のことで、

「鳥取地検の仁田良行検事正だけではなく、広島高検にも最高検にも、高野さんの後輩はいる。仁田検事正とは同じ時期に東京地検に勤務していたこともあります。そうした後輩たちと高野さんが何か話をしていたとしても全く不思議ではありません」(先の司法記者)

 この点、仁田検事正は、

「お話しする立場にない」

 と言うのみ。

 一方、高野氏に仁田検事正のことを聞くと、

「面識がない」

 とした上で、元横綱日馬富士について、

「そんな非礼な男じゃないですよ、あいつは。きちんとした人ですよ」

 そう話すのだ。傷害容疑で書類送検されたばかりの男を指して「きちんとした人」とは驚く他ない。高野氏と言えば、被害者の貴ノ岩に聴取できていない段階で「中間報告」を出した際、

「(日馬富士が最初に平手で殴ったところで)貴ノ岩が『すみません』と謝ればその先にいかなかったと思われる」

 と発言して批判を浴びたことがあるが、なるほど、日馬富士を「きちんとした人」と認識しているからこそ飛び出した妄言だったのかもしれない。先のベテラン検察担当記者が嘆息する。

「高野さんは決して行き過ぎた捜査は行わない堅実タイプの検事で、調整能力も高く、検察内部や記者の評価は高かった。あの中間報告の時の会見を見て、“らしくないな”“相撲協会の人になってしまったんだな”と思いましたね」

 高野氏が相撲協会の外部理事に就任したのは昨年3月。読売新聞グループ本社社長の山口寿一氏も同時期に外部理事になっているが、

「この人選には、八角理事長の最側近で巨人軍球団代表付アドバイザーの広岡勲氏が関わったと言われています。広岡氏は松井秀喜氏の現役時代、“専属広報”を務めたことでも知られている。一方、高野氏と読売グループの関係は深く、2012年には巨人軍の内部資料流出問題の調査委員会の座長を務めた。その際、巨人軍元球団代表の清武英利氏を資料持ち出しの“犯人”と断定するお手盛りの調査結果を出しています」(読売新聞関係者)

 ちなみに広岡氏は現在、「理事補佐」なる肩書きを与えられて相撲協会の理事会にまで出席している。現在の相撲協会には、この広岡氏、山口氏、そして高野氏という3人の「読売関係者」が根を張っているのだ。

 相撲協会の外部理事の人選に広岡氏が関わったと言われている点について質問したところ、読売新聞グループ本社広報部は、

「そうした事実はありません」

 と、回答。高野氏については、

「読売グループ関係者ではありません」

 との答えだった。

 その読売新聞による、今回の一連の騒動に関する報道で最も話題を呼んだのは、以下のスクープ記事だ。

〈貴乃花巡業部長 交代求める 白鵬発言 協会が注意へ〉(11月30日付夕刊)

 八角理事長が今回の暴行事件を受けて再発防止の講話を行った際、白鵬が、

「貴乃花巡業部長のもとでは冬巡業に参加できない」

 と発言していたことを明らかにした記事で、

「読売は前日の朝刊で“巡業に参加したくない”という発言が力士から上がっていたことをスクープしていたのですが、翌日の記事で発言の主が白鵬であったことが明らかにされ、大騒ぎに。相撲協会のリークではないか、と指摘する声もありましたね」(相撲記者)

 相撲協会関係者によると、

「普通であれば、白鵬があの発言をした段階で、協会幹部は“力士は親方に従わなければならない。特定の親方を名指しして、一緒に巡業に行きたくないと言うなど思い上がりも甚だしい”と本人を叱責、白鵬の発言が表沙汰にならないように動くものです。もしあれが協会のリークなのだとしたら、白鵬の発言が報じられることで、貴乃花を巡業から排除できる、と考えたのかもしれません」

 不可視だが、確実に忍び寄る巨大権力の影。貴乃花親方はかくも厄介な“敵”と闘っている――。

「週刊新潮」2017年12月28日号 掲載