東京には、いろいろな妻達がいる。

良き妻であり、賢い母でもある良妻賢母。

夫に愛される術を心得た、愛され妻。

そして、あまり公には語られることのない、悪妻ー。

これは、期せずして「悪妻」を娶ってしまった男の物語である。

女性の美に並々ならぬ執着を持つ藤田は、若く美しい妻・絵里子と結婚する。

だが、奔放すぎる美貌の妻との暮らしに限界を感じ、別離を考えるまでになる。

今回は絵里子がその胸中を語る。




絵里子から見た「男」


だいたい男なんていうのは、多かれ少なかれ似たような生き物だと思う。

いくら優しくって、なんでも自分の言うことを聞いてくれる男だって、そんなのは最初のうちだけ。

この女が自分のものになった、って確信した途端本来の「男」の部分がムクムクと出てくるの。

くだらない虚栄心。男のプライド。

上辺では女に優しい男でも、じっくり言動を観察していると、常に女よりは上に立っていたいというエゴが滲み出ていたりする。

私は、幸運なことに容姿にだけは恵まれた。

だけど、不特定多数の男に勝手に好意を持たれるっていうのも、ものすごく苦痛だったりもする。

気持ちがポジティブな方向にあらわれている時はいいけど、こちらが相手を受け入れない態度をとった途端、男たちは傷つけられたプライドをなんとか回復させようと躍起になる。

酷いことを言って私を傷つけようとしてみたり、自分のものにならなかった女だからって有る事無い事言いふらしてみたり。

社会的にもある程度の地位にいる男の人からかなり精神的に追い詰められたこともあって、地獄のような時期もあった。

でも、そんな私でも唯一心を許せる、って思えた人に出会えた。

それが、藤田さんよ。


絵里子から見た、藤田との出会いとは?


藤田のプロポーズを受け入れた理由


今まで25年間生きてきて一番嬉しかったのは、藤田さんから「結婚したい」って言われた時。

『ベージュ アラン・デュカス 東京』で食事中、何気なくプロポーズされた直後は、あまりにも突然すぎて冗談かと思った。




だけど、不思議とその言葉がしっくりきたの。

私だって、学生時代はいわゆる「純愛」っていうのも経験してきたわ。

初めての彼氏は、イギリス人とのハーフの男の子。二子玉川のインターナショナルスクールに通っていて、つけている香水なのかわからないけど、会うたびに凄くいい匂いのする男の子だった。

でも、学生時代のそんな純愛が終わると、今度は私の方も自分の容姿がいかに恵まれているかってことに気がつき始めてしまって。

容姿で得しすぎちゃった、っていうのかな。

それ以降は打算的な恋愛しかしてこなかったの。もちろんいい思いもたくさんしたけどね。旅行に連れて行ってもらったり、高価な洋服やバッグ、ジュエリーも沢山買ってもらったこともあったし。

けど、結構気を使ったりすることも多くて。

でも藤田さんは、私が寝過ごしてレストランに行けなかった時も全く怒らなかった。

それが、私にはとても驚きだった。ありのままの自分も、この人は受け入れてくれるんだ、って思えた。

そして藤田さんは、こんな私でも「結婚したい」って言ってくれた。まるで、初めての彼みたいにまっすぐに。

それで、一気に学生時代に戻ったような気になって、思わず「いいわ」って答えちゃったのよ。

「結婚」って、相手のことを一生かけて愛し抜く、っていう覚悟が出来てるってことでしょう?

そんな風に私を見てくれる人に、初めて出会えたから。

それに、居心地の悪い実家から早く出たい、っていう気持ちもあったわ。

うちは母方の祖父が経営する会社を父が継いでいるんだけど、小学校の時だったかな。

祖父が存命の時は凄く母に気を使っていた父が、祖父が亡くなった途端に凄く横柄になったのよね。母に対して。

家で母の機嫌をとる、っていうことをしなくなって、家庭内の空気が一気に冷え込んだ。

だからそんな冷え切った家庭から一刻も早く脱出して、今度は自分の居心地のいい場所を作りたい、って思った。

藤田さんとなら、それができると思ったのよ。私を思いっきり、愛してくれるって。

でも…。やっぱりそうはいかなかった。


絵里子の本心


ありのままで居られるのが魅力だったのに


藤田さんは、初めは驚くほど私に優しくしてくれたのよ。

プロポーズも冗談かな?と思って半信半疑でいたら、安心させようとすぐに2人の家探しもしてくれたし、インテリアも何もかも私の好きなようにしていいよ、って言ってくれた。

はっきり言って、私が出会ってきたお金を持ってるおじさん達はみんな気持ち悪いし、お金を持っている若い人達はちょっとガツガツしすぎていて私は両方ともそんなに好きになれなかった。

でも藤田さんは、見た目も40には見えないほど若くて「おじさん」っぽくないのが良かった。

それに、若い人ほどガツガツしてないけど、しっかりと私に贅沢をさせてくれるほどに余裕もあって。

沢山のレストランに連れて行ってくれて、色々と教えてもらえたし。




でもそのせいで体重が増えちゃって、特別な店以外での外食は控えたり、藤田さんにバレないように裏で必死でダイエットしてたのよね。

気をぬくとすぐに太っちゃう体質だから。

だけど、藤田さんのご両親とのお食事の時は、残すのは失礼だと思ってきちんとしたつもり。

苦手なテーブルマナーも、本を買ってまで勉強したわ。緊張してワインを飲みすぎちゃったけど、楽しかったな。

でも、私、だんだんと独身時代からのお友達との付き合いにかかるお金とかも、全部藤田さんに面倒見てもらうのも窮屈になってきちゃって。

昔からの知り合いの梅原さんに頼んだら、幾つかある会社のうちの一つで雇ってもらえることになって本当に嬉しかったのに、藤田さんが文句言ってきたのには腹が立ったわね。

梅原さんとは親しいけど、男女の関係とかは一切ないのよ。ギラギラしすぎて、私には合わないし。

なのにあまりにもひどい言い草で、本当に参ったわ。

だから、ちょっと杉並の実家に帰っていたけど、相変わらず冷えた雰囲気で、3日いるのが限界。藤田さんのこと面倒だなって思ってたけど、やっぱり私には彼しかいないんだって思ったわ。

他の人からは、奔放すぎる、わがままだ、悪妻だ、なんて言われるけど、私は私のまま行動しているだけ。

藤田さんに一つだけ不満を言うとしたら…。

普通に私らしく過ごしている時に結婚してくれ、って言ったのに、結婚した途端私の性格にあれこれ文句をつけてくるのは、はっきり言ってフェアじゃないと思う。

それだけはちょっと、受け入れられないわ。あの地獄みたいな日々を思い出しちゃうから。

でも、こんなにも私を甘やかしてくれて、愛してくれる人はもう他にはいないと思うし、

今はちょっと喧嘩中だけど、後でクリスマスのレストランを決めることを口実にLINEを送ってみようと思う。

帰ってきたら、仲直りできたらいいな。

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結局小野の元へ行った藤田、絵里子との関係はどうなる?