目黒区駒場にある大学入試センター本部(「Wikipedia」より)

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●大学入学共通テストはこんな問題に?

 前回は、教育改革の概要をお話しました。その目玉となっているのが「センター試験の廃止」とそれに代わる「大学入学共通テスト」の導入です。前回、まず川上の大学入試を変えることで、川下の高校の教育を変えていこうという狙いがあると書きましたが、どのように変わるのでしょうか? 

 その方向性を示すものとして、ちょうど2020年度から導入される大学入学共通テストの第1回試行調査が11月に実施されたので、その内容を見ていきましょう。今回の調査には、全国の高校・中等教育学校の約38%にあたる1889校、延べ18万人の高校2年生・3年生が参加しました。

 大学入学共通テストでは、従来のマークシート方式に加えて、記述式問題が課される予定で、国語では生徒会部活動規約や生徒同士の議論を題材に会話内容を推察して書く記述問題などが出題されましたが、マークシート方式の問題にも変化がありました。

 従来のセンター試験では、教科書の内容を理解しているかを問う問題が課されてきたのに対して、今回の試験では学んだことを日常生活の中で生かすために、教科書で扱われていない多くの初見の資料を読み込みながら、それらを組み合わせて思考して表現する力までが問われたのです。

 例えば、数学1・数学Aでは、高校の文化祭でTシャツを販売する設定で、生徒のアンケート結果や業者の選定などの条件を手がかりに、価格をいくらに設定すれば最大の利益が得られるかを考えるという設問がありました。文脈の中から必要な情報を取り出す読解力や思考力が求められている、数学らしくない問題ですが、この狙いを大学入試センターは「身近な生活の課題解決に数学が活用できるということを実感させたい」と言います。確かに単に公式や解法のパターンを覚えているだけでは解けない問題で、数学の必要性が感じられる問題ですが、正答率はわずか6.8%でした。

●大学入試が変われば、高校の授業が変わる

 高校の現場からは、「こんな問題には従来の授業では対応できない。早急に変えていかないと」という声が聞こえてきますが、これこそが、今回の教育改革の狙いです。これまでの学習指導要領でも、探究的な学びや生きる力の育成が謳われながら浸透しなかったのは、大学入試がそれらを測るものになっていなかったからです。

 しかし、大学入試が変われば、高校も予備校も一斉にその対策に動き出します。これが、今回のセンター試験廃止が「高大接続による教育改革」といわれるゆえんです。

 また、今回の施行調査では、「探究活動」を題材にした設問も多く出されていました。

 これは、20年から順次施行される小中高の新学習指導要領でも重視されていることで、探究型の学びを定着させていこうという狙いも感じられます。

 新学習指導要領は、小学校が20年から全面実施され、21年に中学で、22年に高校で順次実施されます。新学習指導要領で学んだ高校生が卒業する25年から、大学入学共通テストもそれに対応した内容になる予定です。

●小中学校ですでに育成が始まっている、21世紀型能力とは

 実は、こうした思考力や表現力を測る問題は、中学受験の適性検査型入試・思考力入試などですでに実施されています。新学習指導要領が目指しているのは、生きる力=21世紀型能力の育成ですが、中学受験の問題は、これを先取りしているともいえるでしょう。

 しかし、21世紀型能力の理解は一般には浸透していないようです。簡単に解説すると、国立教育政策研究所が13年に整理して発表した、これからの社会で求められる資質や能力を定義したものです。

 図にあるように、「基礎力・思考力・実践力」の3層構造になっていて、土台となるのが基礎力です。公立小学校でも、一部タブレット型端末を使った授業が始まっていますが、数量スキルや読解スキルに加えて、情報スキルが加わったのが特徴で、これからはICT(情報通信)を使いこなすスキルは欠かせないということです。

 さらに、思考力を育てることが重要視されています。ここでいう思考力とは、一人ひとりが自分の考えを持ちながら他の人と話し合い、考えを比較しながらまとめ、より良い答えや新しいアイデアを考え出す、さらに次に学ぶべきことを見つける力までが含まれており、さまざまな課題を解決するための中心となる能力です。最後に必要なのが、考えたことを他人と協力しながら実行する力、つまり実践力です。

●探究的な学びが生きる力を育てる

 この3つの力はバラバラではなく、関連して高めていくものですが、すでにこれからの学校教育で育む力の目標として、小中学校でも取り組みが始まっています。それが、探究型の学習です。これは、先生が一方的に教えるのではなく、生徒が協力しながら主体的に学ぶ学習のこと。そのなかで、自分で考え、表現することを大切にします。そのような学習方法を、「主体的・対話的・深い学び=アクティブラーニング」とも表現しています。

 親世代は、学んだ知識を当てはめて問題を解くという教育を受けてきましたが、今のように、複雑かつ変化の激しい社会では、過去に学んだ知識だけを使って解ける課題はほとんどないといってもいいでしょう。

 今回の大学入試改革の裏には、日本の将来の担い手を育てるという目的があるのはもちろんですが、子どもたちが自分で人生を切り開いていける力を身につけるためにも、大学入試改革と小中高の学習指導要領改訂をセットにした今回の教育改革が成功することが必要なのです。
(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト)