年末年始の風物詩となる全国高校サッカー選手権。今年で96回目となる大会は12月30日に開幕する。

 遡(さかのぼ)れば、2005年度に野洲(滋賀県)が頂点に立ってから、高校サッカー界は群雄割拠の時代に突入した。以降、この大会では2016年度までの12年間のうち、野洲を含めてなんと10校が初優勝。まさにどこが栄冠を手にしてもおかしくない、戦国の様相を呈している。

 前回大会も、万年優勝候補止まりだった青森山田(青森県)が悲願の優勝旗を手にする一方で、ダークホースの東海大仰星(大阪府)や佐野日大(栃木県)が4強入りするなど、戦前の予想を覆(くつがえ)す波乱の大会となった。


前回大会は青森山田が悲願の初優勝を飾った

 迎える今大会、昨季の覇者・青森山田が再びV候補に挙げられているが、はたして連覇を遂げることができるのか。あるいは、またも思わぬ伏兵校が台頭し、新たな初優勝校が誕生するのか。どちらにしても、近年の傾向どおり、熾烈な争いになることは間違いない。

 連覇を狙う青森山田は今年も磐石の布陣となっている。

 中心は、ヴィッセル神戸入りが内定しているU-18日本代表MF郷家友太(ごうけ・ゆうた/3年)。セカンドストライカーとしての役割を担い、ユース年代のトップリーグ・高円宮杯U-18プレミアリーグEASTでは得点王になった逸材だ。

 その郷家とともに注目を集めているのが、モンテディオ山形入りが内定しているFW中村駿太(なかむら・しゅんた/3年)。小学生時代からモンスター級の活躍を見せてきたストライカーで、フィジカルの強さを生かした強引な突破が光る。柏レイソルの下部組織育ちだが、高校選手権に憧れて、今年の春に青森山田に転籍してきた。

 このふたりを軸とした攻撃力は相当な破壊力がある。片や守備もそれに劣らず、安定感抜群。プレミアリーグEASTでは鹿島アントラーズユースに次ぐ、失点の少なさだった。

 攻守ともに充実した戦力で、プレミアリーグEASTでは最後まで優勝争いを演じてきた(最終的には3位)。実力の高さはすでに証明されており、2年連続で王者に輝くことも決して夢ではない。

 この青森山田の最大のライバルと目されているのは、西の雄・東福岡(福岡県)だ。

 チームの軸は、ガンバ大阪入りが内定しているMF福田湧矢(ふくだ・ゆうや/3年)と、ファジアーノ岡山入りが内定しているDF阿部海大(あべ・かいと/3年)。主将も務める福田は、ドリブル、パス、シュートと三拍子そろったゲームメーカー。阿部は、U-20日本代表にも名を連ねる大型のセンターバックで、高さと強さが売りだ。

 このふたりがセンターラインで存在感を示して、チームの攻守を支える。他にも技術の高い選手がそろっていて、左MF木橋朋暉(きはし・ともき/3年)と右MF沖野直哉(おきの・なおや/3年)による、伝統のサイド攻撃も健在。高校同士の対戦であれば、相手に主導権を握られることはほとんどない。2年ぶりの王座奪還も大いにある。

 青森山田と東福岡の「2強」に続くのは、前回準優勝の前橋育英(群馬県)と長崎総科大附(長崎県)だ。

 前橋育英は、前回大会決勝で青森山田に0-5と大敗を喫した。その悔しさを「リベンジ・埼スタ」というスローガンに込めて、この1年間は厳しく、ハードなトレーニングをこなしてきた。

 何より、チーム最大の強みとなるのは、そんな前回大会の経験値。昨年の準優勝メンバーが数多く残っていて、とりわけ最終ラインの4人がそのまま残っているのは、かなりのアドバンテージと言える。

 さらに、チームを引っ張るMF田部井悠(たべい・ゆう/3年)とMF田部井涼(たべい・りょう/3年)、FW飯島陸(いいじま・りく/3年)も、前回大会で悔し涙を流したメンバー。経験の豊富さではズバ抜けていて、選手権での怖さも知っている分、拮抗した戦いになればなるほど、強さを発揮しそうだ。

 夏のインターハイでは、ベスト4入り。依然ハイレベルな実力を維持しており、選手権制覇への思いはどのチームよりも強い。青森山田へのリベンジを果たし、青森山田に続いて長年の悲願達成を遂げるべく、チームは一致団結している。

 長崎総科大附は、名将・小嶺忠敏監督の薫陶を受けた選手たちが頼もしく成長。ピッチ内を所狭しと走り回る猛烈なプレッシングは、一見の価値がある。

 加えて今回は、パワフルな突破が魅力のU-20日本代表FW安藤瑞季(あんどう・みずき/3年)を擁し、攻撃力も一段と強化されている。

 前回大会では1回戦突破、夏のインターハイでは8強入りと着実にステップアップしている長崎総科大附。「1戦必勝」を期すチームだが、目指す先はもちろん初優勝だ。

 このように今大会で有力視されているのは、青森山田、東福岡の「2強」と、それに肉薄する力を持つ前橋育英と長崎総科大附だが、それぞれ早い段階で激突する組み合わせとなった。順当にいけば、青森山田と長崎総科大附、東福岡と前橋育英が、ともに3回戦でぶつかることになる。

 そうした潰し合いがあると、その間隙を突いて躍進を果たすチームが出てきても不思議ではない。

 侮れないのは、インターハイ覇者の流通経済大柏(千葉県)だ。

 激しいプレスと強固な守備は、大会屈指のクオリティーを誇る。その旗頭となるのは、ボランチの宮本優太(みやもと・ゆうた/3年)。豊富な運動量でボールを奪い、素早く前線につなぐ”流経スタイル”を支える存在だ。

 さらに、宮本の後方で異彩を放つのが、U-17日本代表のDF関川郁万(せきがわ・いくま/2年)。圧倒的なヘディング力で、競り合いでは無類の強さを見せる。インターハイ後には、あるイベントで元日本代表のDF岩政大樹から徹底指導を受けて、またひと回り成長した。

 チームは夏の優勝に慢心することなく、激しいチーム内競争を経て、よりレベルアップしている。激戦区の千葉県予選でも、難敵相手に接戦を制して勝ち上がってきた。底力や粘り強さも増して、夏冬制覇の可能性は十分にある。

 その他にも、台風の目になりそうな存在は枚挙にいとまがない。つまり、今回も優勝候補が早々に消えてもおかしくないほど、予測がつかない大会であることは確かだ。まさしくエキサイティングな高校サッカーの”祭典”。その幕がまもなく開く。

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