上から目線になっていませんか?(写真:Graphs / PIXTA)

この頃の技術の進歩は、まさに異常といえるほどのスピードです。「日進月歩」という言葉がありますが、もはや日進月歩ならぬ「秒進分歩」。毎朝、目が覚めると、新しい情報が飛び込んでくる状況といえるでしょう。連載最終回の今回、そのような時代に求められる「リーダーの資質」について考えてみたいと思います。

どれだけ技術が進んでも「人間の心」は残る


この連載の一覧はこちら

非連続的ともいえるような技術の進化が、y=aのx乗というペースで進み、このまま進めば、2045年にはコンピュータの処理能力が人間の脳の処理能力を超えるのではないかといわれています。いわゆるシンギュラリティです。

そのような時代になれば、限りなく人間に近い「Hubot(ヒューボット、疑似人間)」が登場し、人間と疑似人間が対立してしまう危険があると、ある識者が話していました。

しかし、どれだけ技術が進んでも「人間の心」は残ります。今も「聖書」が受け継がれ、「仏典」が受け継がれていることは、そのことを明確に証明しています。それは、これからも同じこと。いくら技術が異常に進歩しても、私たちは「人間の心」を考え続けると思います。

人間は「理性」と「感情」で成り立っています。学問や技術などについて考える理性は、時代を超えて蓄積されていきます。しかし、感情は、学問や技術ほどには、積み重ねられることはありません。理性と感情のギャップは大きくなっていくので、常に新たな苦悩が生まれていくのです。そのため、これまでも人間の感情を理解する努力が為されてきましたし、これからも格闘が続けられるでしょう。

いうまでもなく、人間は理性のみで生きていくことはできません。まして、理性と感情のギャップが大きく広がっていくこれからの時代のリーダーは、これまで以上に「人間の心」と格闘しなければなりません。

この連載では、リーダーの条件をいくつも挙げてきました。しかし、もっとも大事なことをひとつだけ挙げるとすれば、人間を偉大な存在として認識するとともに、「人間を根底においた経営」をすべきだということです。人間は誰もが偉大という「心配り」は、今までと比較にならないほど求められます。それができなければ、社長失格といえます。

どんな社員にでも誰にも負けない特技がある

具体的な例を2つほど挙げます。

ある社員の顔つきが、いかにも泣き顔をしている。いつも涙目で見るからに鬱陶しい。仕事の成績もよろしくない。それで、ほかの社員がクビにするように社長に申し入れたそうです。ところが、社長は、その話を聞くと次のように言いました。

「キミたちの言うことは、もっともだ。しかし、彼も好んで、あのような顔になったのではない。誰でも、それぞれ、好ましくないと思われる性格なり雰囲気なりがあるものだ。彼のような人材は、法事とか、弔問とかの使いには大切であり、そのことについては、キミたちは彼には及ばないだろう。どのような人材でも、それぞれに活動できる場があるものだ。その場を見つけられないとすれば、社長である私の責任だ」

これを聞いた社員たちは大いに感じ入って、それ以降、いっそう社長を尊敬し、従うようになったそうです。

もうひとつがある大手企業の創業者の話です。この方は、どんなときにも、和顔愛語で若者にも応じ、どのような来客もエレベーターや玄関まで見送るということをして、多くの人から慕われています。それを見たほかの社長が、「さすが商売人だ」と、ある雑誌で語ったことがありますが、これは人間としての振る舞いだと思います。人間を素晴らしい存在としてとらえているからこそ、こうした振る舞いができるのです。

例として挙げた2人のリーダーは、理屈や論理で語っているわけではありません。「誰であっても人間たるものは、すべてダイヤモンドのような価値を持っている」という考え、信念に基づいているのです。この行動は、江戸時代でも、明治時代でも、昭和時代でも、現代でも、また、数十年後の異次元技術時代でも必要な行動だと思います。

世の中の風景がいかに激変しようとも、人間としての基本をしっかりと押さえて振る舞うリーダーになるべく、努力する必要があります。

他人を見下す「ゲスなリーダー」になってはいけない

技術を知っている、プログラミングができる、先端的知識を知っている。そのようなことで「優越感」に浸っているリーダーが目立ちます。しかし、こうした他人を見下すような態度を取る人たちは「ゲスなリーダー」といえます。

そうした人々を反面教師として、同じようなリーダーにはならないように心掛けなければなりません。常に、最新先端知識を身につけながらも、一方で、人間としての謙虚さ、寛容さを心掛けるべきではないかと思います。

2045年のシンギュラリティを超えても、『聖書』も『仏典』も、『ソクラテスの弁明』も『カラマゾフの兄弟』も『ヴェニスの商人』も、『出家とその弟子』も『武士道』も読まれ続けていると思います。そして、人々はこれからも永遠に、人間とは何か、人生とは何か、生とは何か、死とは何かを問い続けていくことでしょう。

そういう意味では、技術が異次元で進歩すればするほど、リーダーは哲学者のように人間の内面を探究しなければならなくなります。哲人経営者こそが、これからの時代に求められているのです。