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もくじ

ー M5新型 Xを除く初の4WDに
ー 内外装 控えめながら主張あり
ー 4.4ℓV8ターボ/4WDを検証
ー AMG E63との相違点は?
ー ベストは全てをカットした時に

M5新型 Xを除く初の4WDに

ボンネットの下に搭載される小さな黒い箱、BMW Mディビジョンのエンジニアリング部門の副主任のダーク・ハッカーこれを「躍進」と表現し、セントラル・インテリジェンス・ユニットと呼ばれるこの箱は、新型M5のハードウェアのサブシステムを統合して1カ所で管理する。

わたしが考えるに、これは、ドライバーの全ての入力を認知して、クルマからの全てのフィードバックを返すという、フェラーリ812スーパーファストで採用されたものに似ているのではないか。ハッカーによると、「縦と横方向のダイナミクスを管理する全てのサブシステムを統合します」。車両のサーキットにおいて、全てを統括する。

そして、新型M5には多くの制御すべきハードウェアが存在する。注目されるのは600psの出力と、それを駆動するM5史上初の4輪駆動システムである。

わたしも同意するが、Xモデルをカウントしないとすれば、M史上初となる4輪駆動の採用である。3つのモードを備えるこのシステムは、後輪駆動モデルが採用するアクティブMディファレンシャルをリアに備える。しかし、それ以上にハードウェア、ソフトウェア上のアップデートが、このクルマには施されている。

内外装を見ていこう。

内外装 控えめながら主張あり

エクステリアは、新型M5のパッケージをまとうが、その主張は必要最低限である。張り出したフェンダーや威圧的な外観といった主張は、他のMモデルに任せ、M5にそれらが採用されたことはない。エグゼクティブ・エクスプレスなのである。BMWは、このクルマの「エグゼクティブ」というキャラクターを重んじているわけである。

しかし、気をつけて見回してみると、このクルマが只者ではないことがわかる。フロント・フェンダーには、冷却用のベント、リアの4つのエグゾースト・パイプの間には、ディフューザーが備わる。標準で19インチ・ホイールが付くが、この試乗車、そして多くのオーナーが選択すると思われる、20インチ・ホイールがオプションで用意されている。

これらの目に見える主張の他、軽量化されたパネルやアルミ製に置き換えられた部品、そして、カーボンファイバー製のルーフが加わる。特にカーボンファイバー製のルーフは、軽量化という観点だけではなく、施された位置に意義があり、重心を引き下げる効果をもたらしている。

新型M5は、重量1930kgのクルマであり、カーボンファイバー製のルーフを採用することで得られる効果は、たった15kgの軽量化だが、こうした小さな積み重ねが大きな効果を生むのである。

インテリアは、あなたが5シリーズに期待するラグジュアリー感を裏切るものではなく、M5には、メリノ・レザー、ヒーター・電動調整機構付きのフロント・シート、4次元クライメート・コントロール、デジタル・インストゥルメント・クラスター、ワイヤレス充電器、Wi-Fi環境、そしてヘッドアップ・ディスプレイが備わる。

変速機はこのモデルで、若干重量で有利なDCTに代えて、8速のトルコン付きのオートマティック変速機を採用している。

ここにも拘りがあるのだと思う、何故なら今までにDCTに施された全ての改良をもってしても、DCTは、低速域における通常のオートマティック変速機の洗練さには適わないのである。しかも、最新のオートマティックは、走り出すと直ぐにロック・アップされるので、エネルギーの損失は殆どないのである。

シフト・アップの速さに不満はない。DCTは次のギアがエンゲージしているが、キックダウンにかかる時間を考えると、両者に違いはない。制動中のシフトダウンには、ブリッピングが伴うのであるから、どれだけ速くシフトが行われるかは問題にはならない。

エンジンを見ていこう。

4.4ℓV8ターボ/4WDを検証

先代モデルと同様に、変速機の前には4.4ℓV8エンジンが鎮座するが、このエンジンには多くのアップデートが施されている。ターボチャージャーは見直され、インジェクション・プレッシャーは、350barに引き上げられた。バンクを交差するエグゾースト・パイプは改められ、冷却システムは、小型化を図りつつ効率性を高めた。

その結果、このエンジンは、5600-6700rpmで600psの最高出力と、1800-5600rpmで76.4kg-mの最大トルクを発揮する。マクラーレンF1の最高出力と比べても、その差は30psでしかないが、今日のビッグスーパーサルーンは皆、同水準の数値を標榜する。

BMWは、後輪駆動車では、600psを取り扱えないと判断したが、後輪駆動をベースとする4輪駆動システムの多くがそうであるように、殆どの走行において、スタンダード4WDモードを選択し、電子制御を起動させておけば、このクルマは、基本的に後輪駆動車である。

良い見識である。究極のドライビング・マシンは、フロント荷重でもいけないし、50:50の4輪駆動システムでもいけない、何故ならそれらはアンダーステアを誘発するからである。フロント・ホイールは駆動されるだけではなく、元々操舵の機能を担う。

つまり、フロント・ホイールは駆動するだけでも荷が重いのである。M5のバランスの取れたキャラクターを理解したうえで、基本的に後輪駆動としたことは、間違いではないと思う。

最新のM5もまたバランスの取れたキャラクターを有している。しかし、同時に快適でもあり、このクルマは設定によってあらゆるドライビング・モードが選択できることを考えると、あらゆるキャラクターを演じることが可能でもあるということである。

このことは、ちょっとした問題を提起する。何故なら、究極のドライビング・マシンが究極の調停者を各ホイールに忍ばせていることになるからである。

ダンパー、ステアリング、パワートレインを3つのモードから選択することができ、加えて、シフト・レバーの上に付いている小さなスイッチを介して、これら3つのモードにおける、ギアシフトのレスポンスを調整することができるのである。変速機には、「スポーツ」モードは存在しないが、回転域の少し速めか遅めでシフトさせることで調整をしている。よく考えられたアイデアだと思う。

そして、このクルマの4輪駆動システムは、標準4WD、スポーツ4WD、そして後輪駆動の3つのモードを提供している。そして、電子制御に関しても介入度合いを、標準、やや少なめ、完全にカットと設定している。

AMG E63との相違点は?

上記の全てのコンビネーションにおいて、後輪駆動を選択していなければ、電子制御を完全にカットすることができる。こうしたドライビング・モードを選択するために、センター・トンネルには無数のボタンが並ぶが、ステアリングには、ふたつの赤いボタンが設置され、好みのコンビネーションを記憶させておくことができる。

一言でいうと、この新型M5は、最も近いライバルであるメルセデス-AMG E63と比べて、静かで落ち着いたクルマである。いつしか、ジャガーは、スーパーチャージャーで過給した5.0ℓV8を搭載させたクルマを導入するだろうが、それは騒々しいクルマになるであろうから、この新型M5は、洗練された控えめなクルマなのである。

キャビンの中で耳に入るエンジン・サウンドはオーディオ・スピーカーによって脚色されるが、エグゾースト・サウンド自体にもふたつのモードがある。しかし、このM5は、E63と比べた時、視覚的にも聴覚的にも、控えめなスーパー・サルーンなのである。

そのことは、このクルマの走りのキャラクターにも反映されている。ダンパーの設定によらず、このクルマは、メルセデス-AMGのそれと比べた時、より衝撃を吸収し、静粛性を保つ。

つまりわたしが思うに、このクルマは520dと同じくらいの早さで、あなたの生活に馴染むことだろう。考え抜かれたエルゴノミクスにより提供される快適性、比較的抑えられた静粛性、そして、これにしなやかな乗り心地とくれば、スーパー・サルーンの常識では、若干保守的な部類に入る。

このクルマは「スーパー」である前に、「サルーン」であることを伝えてくれるが、「スーパー」の境地を垣間見たいのであれば、それは冒険に値するだけの価値をみせてくれる。

ステアリングは、とても軽くそしてとても速い。このステアリングの操作で、車重が軽いと思わせるようなトリックは、フェラーリのようである。想定されるよりも、より俊敏であるが、一方では、このようなクルマにそうであって欲しいと多くは願うとおりに、直線ではとても安定しているこれは、自身のサイズとは無関係に、俊敏と思わせるクルマである。

それは、あたかもサルーンが俊敏さとドライビングのアピールをするクラスが存在し、このクルマの下にも似たようなクルマが存在するかのようである。

ベストは全てをカットした時に

スタンダード4WDモードで、M5は、安定していて、しかも若干のドライバーの関与の余地を残している。スポーツ4WDモードでは、それが少し助長される。どちらのモードでも、アクセルを踏みながらでもステアリングを切ることを制しない。

しかし、これは、モダンで、多くの機能とパフォーマンスを標榜するクルマである。公道では、そう感じるだけである。ステアリングは、4輪駆動化の弊害を受けていないので、後輪駆動かと錯覚してしまうし、感知できる挙動は、素晴らしいまでのニュートラルであり、そして、前から引っ張られる感覚ではなく、後ろから押される感覚なのである。

このクルマを購入したら是非、サーキットへ持込み、全ての電子制御を解除して、M5のありのままの全てを体験して欲しい。そうしたなら、タイヤは何セットあっても足りないだろう。

しかし、それらのタイヤは、非常に高水準のドライビング・エクスペリエンスの代償であり、そうしたなら、フロント・エンジン、ロング・ホイールベース、後輪駆動の物理的絶頂をみせてくれるだろう。

求めていたクルマの登場であろうか。

洗練されているが、派手ではなく、先進のハードウェアに裏打ちされたパフォーマンスを誇り、それでいて、それら全て、一挙手一投足をコントロールする偉大なソフトウェアによって、危なげないパッケージとして提供されるのがこのクルマである。しかし、そのベストは全てをカットした時にやってくる。