白タク行為の取り締まりの様子。警視庁などが実施した無許可タクシー営業の取り締まりで、チラシを配布する警察官ら。12月12日午後、羽田空港で(写真:共同通信社)

中国人観光客を対象にした違法白タクが日本各地で摘発されていることが社会問題になっている。これはインバウンドビジネスにまつわる重要な課題だと言えるだろう。

普通の自家用車をタクシーとする白タクや、いわゆる運転手付レンタカー(レンタカー利用の旅行者に対して運転手を手配する)は、検挙しにくいこともあり、余計に問題になっている。最近では、「白タクに乗らないでください」キャンペーンや、白タクを検挙したというニュースも散見する。

ちなみに、「白タク」という名称は営業許可を受けたタクシーは緑地のナンバープレートをつける必要があるが、無許可の場合、自家用車と同じ白地のナンバープレートでタクシー営業をしていることが由来となっている。

「白タク」はもちろん違法だ。道路運送法は自家用車が有償で客を乗せる「白タク」を禁じており、運転手は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」などが科される。タクシー事業の営業認可とともに、運転手は2種免許の取得が義務付けられている。ただ、利用者には罰則はない。

しかしながら、2020年の東京五輪・パラリンピックまであと2年半あまりとなった。観光立国の実現に向け、日本の宿泊業と運送業には変革が必要であることは、多くのインバウンド有識者が発言している。

今回は、訪日中国人が白タクに乗ろうとする中国国内事情と中国人心理を分析してみる。

車通勤は当たり前の中国

「日本では部長でも電車で通勤するの!?」

とびっくりしたのは、共同研究をしていた北京大学のA教授だ。筆者が中国に行ったとき、北京での最初の懇親会では、北京と東京の違いで大いに盛り上がった。その中で北京の交通渋滞が酷くて毎日の通勤はすごく時間がかかるとA教授が話したのに対し、同席した日本人上司は「でも、満員電車に乗らずに済むのはいいですね」とフォローした。

「何!? 部長は電車で通勤しているの!? 中国だったら、管理職の人は車で移動しないとおかしいよ。」とA教授が驚きの表情で返す。そしてそれを聞いてさらに驚いた上司の顔は、今でも鮮明に覚えている。東京や大阪では電車通勤は当たり前なのに対し、中国の都市部では、自動車を買えない人だけが「仕方がなく」電車に乗るのだ。

車は中国では、どういう存在だろうか。

中国の自動車市場は、沿岸部の大都市から内陸部の新興地方都市まで、成長の一途をたどり、日本のブランド車も最近人気になっている。高度成長期の日本と同じく、自動車保有は資産の象徴とされ、お金が貯まったら、まず車を買うのが一般的だ。

改革開放政策(1978年から臂平を中心として実施された経済政策)の成果として、およそ25年前の1990年代半ばから、一部の中国人は資産を持つようになり、洋画でしか見たことがなかった「車」を自分でも買えるようになった。当時自家用車を持つ人=富裕層であり、一般家庭から見ると手が届かない夢だった。

その後、所得の向上、安価な自動車の登場により、普通の家庭でも自動車を買えるようになったため、市場が爆発的に拡大した。

80後(1980年代生まれ)の子供が結婚する時、男性の家庭は新居を用意し、女性の家庭は新居の内装・家電代と自動車1台用意するのは、普通だった。90後(1990年代生まれ)の子供の場合、免許は大学時代に取得し、親の車を運転したり、あるいは就職後親から車をもらったりすることも多い。したがって結婚する際、双方が車を持つケースも多いので、最近では高級新車に買い換える選択肢も出てきた。

つまり、都市では、昔の夢であった車を持つことは人並みの経済力を持つ象徴で、メンツのためにも保有しなければならない。車はメンツの1つで、日本では禁止されていることも多い車通勤もごく普通だ。

中国の交通渋滞が酷いので電車に乗ればいいのではと思う人も多いだろう。実際、各地の地方政府は公共交通機関を発達させることに力を入れているし、電車に乗ったほうがずっと安くて早いはず。

なぜ、中国人は渋滞に耐えても車移動に執着するのだろうか。

低所得層は電車通勤の中国

「地下鉄を使えば20分で通勤できるが、やはり1時間半でも車での通勤がいい。だって、僕、地下鉄に乗る人達と違うから…。」

そう言ったのは、中国の映画制作に携わり、今は日本のエンターテイメントビジネスの中国進出で成功し、日中を頻繁に往復している30代の中国人実業家の男性だ。

「地下鉄にはいろんな人がいるでしょう。汚いし、うるさいし、僕は超富豪ではないが、一応成功しているので、そういうところに行きたくない。」それは、多くの中流以上の中国人のホンネだろう。

訪日中国人に日本の公共交通機関を利用した時の、いちばんのカルチャーショックを聞くと、「誰もしゃべらないし電話もしない」、「車両内も人々も非常に清潔感がある」、「朝ごはんの肉まんを食べる人がいない(匂わない)」がよく出てくる。

日本人の素晴らしい公衆道徳を象徴するところだ。国民全体の教育レベルの高いことと、「阿吽(あうん)の呼吸」で言わなくても通じるルールが日本中で共通していることで、どこに行っても同じ感覚が共有され、同じ行動が見られる。

一方、中国は56民族で構成され、共通するものが少ない。隣の村なのに言葉が通じない、風習・風俗もまったく違う人々、温水洗浄便座を使い始めた大都市とトイレさえない農村地域、留学して海外移住するのが当たり前の富豪令嬢と学校にいくお金がなくて仕方がなく出稼ぎ労働者になる少年…このように同じ国なのにまったく違う人々が生きている。

そして人々は都市部に集中し、彼らをつなげるのが公共交通機関だ。工事道具を持っている農村からの出稼ぎ労働者、数カ月分の給料で買った(あるいはボーイフレンドからプレゼントされた)ルイ・ヴィトンの新作バッグを持っているOL、孫の面倒を見るために初めて大都市に出て来た老夫婦、将来に不安を持ちながら夢を追っている大学生…。

中国の地下鉄は、格差が激しい各階層の人々が乗り合わせ、まるで仕事図鑑のようだ。その結果、清潔感が欠け、物乞いまで散見する。やむを得ず電車通勤をする人も多いので、ラッシュアワー時は想像できないほどの混雑だ。車両の混雑はもちろん、地上には駅に入るための数百メートルの人の列がある。乗降客が多い駅だと、改札に入るまで数十分かかるケースも珍しくない。社会見学としていいかもしれないが、実際毎日使うと思うと、やはり憂鬱になる。

このため、経済力がある人は公共交通機関より車を選ぶ。渋滞を我慢してでも電車に乗りたくない。お金を持っていない若者や事情がある人だけは仕方がなく電車に乗るのだと思う。それをわかれば、A教授が日本人は管理職ですら電車に乗ることに非常に驚いたことを理解できるだろう。

旅行も車で楽しみたい

日常生活だけではなく、海外旅行も車移動が普通だ。

中国人の中で日本観光はこの数年間で人気になったが、まだまだ行きたい国のなかでは、いちばんではない。より憧れる観光先は、ずっと欧米である。欧米旅行は、初期のツアー旅行から個人旅行にシフトし、観光先もニューヨーク等の観光定番都市からアウトドア旅行、大学見学旅行など多様化している。

アメリカの一部の州では、中国大陸で発行された運転免許でレンタカーが借りられるので、中国人観光客は気軽に行きたいところに行ける。アラスカのDalton Highway、カリフォルニアのHighway No.1、或いはアメリカ文化を代表するUS Route 66など、車をドライブしながらディープな観光ができ、非常に感動する。このような体験とアメリカのマルチビザ(10年間有効)との相乗効果で、中国から地理的には遠くはあるが、アメリカは、いつも行きたい観光国の上位にいる。

ヨーロッパでも、中国の免許で運転できる国が多い。スコットランドの草原、フランスの田舎のワイナリー、北欧のオーロラツアーなど…。

事実上、ヨーロッパの風景を楽しむためには、自動車で移動しないと無理だと言える。たとえ免許を持っていなくても、友達に紹介してもらった当地の中国人留学生の運転で移動し、ついでに地元スポットを案内してもらうケースも多い。このような「友達紹介」が増えると、ビジネスになる。

いつも友達に頼んで申し訳なくなり、お金で解決できることだったら喜んで支払うようになるからだ。快適に移動でき、素晴らしい風景を見て、現地にちょっと詳しい人とお喋りできる。観光行動がますます進化してきた中国人は、異国での車移動体験を1つの文化体験としても求めているのだ。

運転手付きレンタカーは日本では原則できないが…

日本でも車で移動したいと思う中国人は非常に多いと思う。東京・大阪の地下鉄は発達して便利だが、京都に行くとバスの乗り換えは難しい。もっと地方都市に行くと、1時間以上の間隔でのバス運行が多い。周りには何もなく、車がないと不安と不便だ。特に地方都市では、素晴らしい見どころ、有名なお店には公共交通機関だけではなかなか行けないことも多い。

実際、訪日中国人に話を聞いてみると、車で移動するニーズがますます増えていることがわかる。筆者がインバウンドを研究し始めた2015年は、乗り換え口に近い車両、乗り換えを間違えないコツなどの情報がSNSで飛び交っていたが、今は、おすすめの運転手付きレンタカーに関する口コミが多い。普段の生活で車移動に慣れてきたので、異国でいきなり自ら駅を探すとなると、ストレスが大きい。

自分は運転したくても、中国大陸の免許でレンタカーは借りられない。できたとしても、日本と中国では車線の走行方向も逆なので事故の起きる確率も高くなるし、運転のハードルも高い。大きなスーツケースを持ちながら町を歩く観光客を好まない日本人が多いと思うが、その本人も、実は買い物など戦利品を車に置いて気軽にショッピングや観光をしたいと思っている。

また、最近、子供連れ、親子連れ、あるいは三世代の家族旅行が増えたので、体力や安全性を考えると、全員が一台の車で移動するのが一番良いだろう。とはいえ、タクシーの貸し切りは高額だし、言葉が通じないので疲れる。そこで、在日中国人が運転してくれるサービスが好まれるようになったのだ。

普段通りの車移動、中国語交流、旅を楽しむ、安心できる家族旅行…。観光行動が日進月歩の訪日中国人が運転手付きレンタカーをますます求めることは自明だ。日本も観光立国を実現するため、訪日外国人に地方を楽しんでもらわないといけないので、彼らに楽々と移動できる手段を提供することは重要なはずだ。このようなニーズは、中国人だけではなく、米国発の配車アプリ「ウーバー」に馴染んだ他国の観光客からも求められているとみられる。

インバウンドを発展させるための方策として、今回述べたような「観光客の深層心理」を理解し、観光客のニーズに合ったサービス提供を図ることが必要だろう。しかしながら、今回紹介したケースでは、それが違法なやり方で提供されていることが社会問題となっている。

白タク行為を取り締まる一方、観光立国の実現に向け、中国人観光客がより訪れやすくなるような方策を「観光客の深層心理」を踏まえながら考えることも不可欠だ。