青山学院大学が4連覇を狙う第94回箱根駅伝。過去に4連覇以上を達成した大学は5校あるが、その5校目にあたるのが駒澤大学だ。

 同校は、大八木弘明監督が1995年に母校の指揮官に就任してから、一気に強豪校へと進化を遂げた。大八木体制3年目の第74回大会(1998年)で過去最高の2位に食い込むと、第76回大会(2000年)で初優勝し、第78〜第81回大会(2002年〜2005年)に4連覇を達成。4年間で選手が卒業する学生スポーツで、しかも、ひとりのブレーキが致命傷となる箱根駅伝では”神業”ともいうべき勝ち方と言っていい。


エースとしてチームを引っ張る、主将の工藤有生

 駒大が黄金時代を築いたのは、山上りの5区が最長区間になる前のこと。往路をトップが見える位置で折り返し、選手層の厚さを生かして復路で逆転するのが”勝利の方程式”だった。実際に、4連覇を果たしたなかで3回が復路での逆転優勝だ。

 しかし、駒大が4連覇した直後の第82回大会(2006年)から、往路の「小田原中継所」の位置が変わり5区が最長区間となったことで、駒大は箱根の頂点から遠ざかることになる。第82回大会からの11年間で駒大の優勝はわずか1回のみ。その間、全日本大学駅伝では7回の優勝を果たすなど強大な戦力を擁しながら、箱根では”山の神”と呼ばれた選手のいる大学に覇権を握られてきたのだ。

 5区偏重に対する疑問の声が高まったことで、前回から小田原中継所が元の位置に戻り、駒大にとっては戦いやすくなったかと思われたが……。結果は9位と大苦戦。それでも今季から新チームの主将を任されることになった工藤有生(なおき/4年)は、「自分たちが主体となるチームで戦えるのか、不安と焦りがある。でも、優勝を目指して頑張るしかない」と、危機感を抱きつつも勝負する決意を固めた。

 そして駒大は、3月の学生ハーフマラソン選手権で奮起する。工藤が1時間2分15秒の2位、片西景(3年)が1時間2分34秒の3位、下史典(しも・ふみのり/3年)が1時間2分36秒の4位でフィニッシュ。同大会はユニバーシアードのハーフ代表選考会になっており、上位3位までに入った工藤と片西がユニバ代表に選ばれた。

 工藤は、以前から悩まされていた「左脚が抜ける感じ」の症状が悪化し、一時はユニバを棄権することも頭をよぎったという。それでも、スタートラインに立つと積極的なレースを展開。何度も揺さぶりをかけ、片西とともに抜け出す。最後は片西が先着し、駒大コンビはユニバーシアードのハーフマラソンで金・銀メダルを獲得した。

 ユニバを制した片西は、「まさか自分が優勝できるとは思っていなかったので、本当にうれしいです。3年目でここまでこられて、駒大に入ってよかったと感じています。でも、監督にも言われましたが、ユニバはユニバ。チームで狙っているのは箱根なので、今回の結果を自信にはしますけど、しっかりと切り替えたい」と振り返った。

 シーズン前半は目立たなかった駒大だが、”2つのメダル”はチームに勇気と希望を与えた。出雲駅伝は1区(13位)の出遅れが響いて7位に終わるも、全日本で4位に浮上。3位の青学大との差は37秒で、「箱根で勝負できる」という雰囲気ができた。

 全日本後の上尾ハーフでも主力選手が好走するなど、チームの状態は上向いている。箱根に向けて、大八木監督は「3位狙いでいくとなかなか難しいので、まずは往路優勝を目指して、総合3位以内に入りたい」と目標を語る。そして”トップ3”を狙うキーマンとして、やはり片西と工藤の名前を挙げた。

 全日本は「1区片西、2区工藤」のオーダーで、2区終了時で2位につけたが、箱根でもWエースを軸に攻め込むつもりだ。2区に起用されれば3年連続となる工藤は、前々回は1時間08分04秒で区間4位と、積極的な走りを見せて順位を13位から6位まで押し上げた。前回は1時間08分09秒で区間6位。6位から3位まで順位を上げたものの、区間賞に輝いた鈴木健吾(神奈川大)についていくことができずに不満が残った。

 工藤は「この夏で駒大はユニバの金と銀がいるチームになりました。自分たちがしっかり走れば、チームはかみ合ってくると思います。やるからには駒大記録を出したいですし、区間賞も狙いたいです」と意気込む。2区の駒大記録は1時間7分46秒(村山謙太)で、過去の工藤のタイムを考えれば十分に射程圏内だ。そして、大八木監督が駒大3年時に達成した、第62回大会(1986年)以来となる駒大の「2区区間賞」に手が届けば、チームとしては最高のスタートダッシュになる。

 もうひとりのエースである片西も、「工藤さんひとりに任せるのではなく、工藤さん、自分、下の3人でやっていかないといけない」と、主力としての自覚は十分。箱根では1区で起用される可能性が高く、序盤からトップ争いを演じることができるだろう。

 3区以降は、マラソン練習にも取り組んでいる下はもちろんのこと、全日本6区で区間賞を獲得した堀合大輔(3年)、全日本でアンカーを務めた山下一貴(いちたか/2年)、上尾ハーフで片西に次いで日本人2位に入った伊勢翔吾(3年)ら、力のあるランナーを並べて”3強崩し”に挑戦する。

 チームをけん引するWエースは、いずれも高校までは全国区のランナーだったわけではない。工藤は広島・世羅高校で全国高校駅伝の補欠だった選手で、片西も東京・昭和第一学園高校では全国大会で活躍できなかった。そんなふたりが、今や学生最高峰のランナーとして輝きを放っている。かつて復路で逆転劇を演じてきた駒大は、大きな成長を遂げたメダルコンビを軸に、前半勝負で”戦国駅伝”に切り込んでいく。

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